<二話>
――静かな場所
扉を閉めた瞬間、音が消えた。
廊下に満ちていた圧迫感も、足音も、嘘みたいに遠ざかる。
「……助かった、のかな」
観月が小さく呟く。部屋は簡素だった。
ベッドが二つ、机が一つ。窓はあるが、外は白く霞んでいて何も見えない。
「安全そう、ではあるな」
断定はできない。でも、少なくとも――追ってはこない。
俺は壁にもたれ、深く息を吐いた。
「さっきの、見たよな」
「死体のこと?」
「それもだけど……状況全部」
観月は頷いた。
「現実じゃない、よね」
「現実だけど、普通じゃない」
言葉を選びながら話す。
「最初から事件が起きてる。しかも密室。
予告まで用意されてる」
机の上に置かれた端末に目をやる。
今は沈黙しているが、あれが“何か”であることは間違いない。
「誰かが、用意してる」
観月が言った。
「舞台も、事件も、私たちも」
その言い方に、妙な引っかかりを覚えた。私たちも、用意されている。
「……犯人探しをさせたいんだろうな」
口にした瞬間、胸の奥がざわついた。
自然に出てきた考えだった。
まるで、そういう役割を知っているみたいに。
「探偵役、ってこと?」
観月は冗談めかして言うが、目は笑っていない。
「押し付けられてる感じ」
「だな」
沈黙。
ベッドに腰掛けると、体の疲れを自覚する。
けれど、眠れる気はしなかった。
「ねえ」
観月が、少しだけ声を落とす。
「私たち、初対面だよね」
「……ああ」
「でも、なんか」
言い淀んでから、続ける。
「一人で考えろ、って感じじゃない」
否定できなかった。
「二人で考える前提、だな」
それがこの世界のルールなのか、
仕組んだ誰かの趣味なのか。
机の上に、いつの間にか紙が一枚置かれていた。
《次は、二年三組》
観月が眉をひそめる。
「……親切すぎない?」
「誘導だな」
事件は、選ばせてくれない。
「行く?」
観月が聞く。
「行かないと、何か起きる気がする」
「同感」
立ち上がり、扉に手をかける。
その瞬間、頭の奥に微かな違和感が走った。
――二年三組。
その言葉が、なぜか「懐かしい」と感じた。
理由は分からない。思い出そうとすると、靄がかかる。
「……どうしたの?」
観月の声で我に返る。
「いや、なんでもない」
本当に初めてのはずだ。事件も、この世界も。
それなのに――。
扉を開ける。廊下の先に、次の密室が待っている。




