第三章 護衛官
「何なのよ、あれは⁉︎」
形の良い眉を顰め、そう言ったのはエスメラルダだった。
長身で颯爽とした風体のナシアスを従えて修繕所に入ってきたパールを目にしての言だった。エスメラルダが一平のことでパールを目の敵にし始めてから久しいが、あれからいろいろなことがあったにもかかわらず、エスメラルダは未だに一平を諦めてはいない。というか、もう半ばやけくそだ。パールと張り合おうとするのはもう意地になっていた。
一平のことはもちろん素敵だと思うが、自分に対しいつまでも固い態度を崩さない融通の利かない一平は、正直彼女には心地よくはない。
大抵の男どもは王族で気も強いエスメラルダに対し、まず反論したりしないのだ。華も色気もあるので、秋波を飛ばされれば靡くのは悪くない選択だ。エロスに長けた海の民であればなおのこと。
それが男の当たり前の反応だと肌に染み付いているエスメラルダにとって、一平は少々荷が勝ちすぎるのだった。接していて、必ずしも寛げる相手ではなかったのである。
それでもなおかつ二人の間にちょっかいを出すのをやめないのは、今更引くに引けないエスメラルダのプライドの高さのせいだった。
しばらくパールがトリリトンを空けていたのも手伝って、彼女の興味はしばらくこのことから遠ざかっていたのだが、あれだけの男性を一人占めしておきながら、今また別の男を従えているのを発見したのだ。再びムラムラと負けん気が頭を擡げてきた。
取り巻きの一人、メリーアがエスメラルダの質問に答えた。
「パールティア姫の護衛らしいわよ。ほら、この間派遣先で攫われちゃったでしょ。だから付けられたって話よ」
「ハンサムよね」
アイナも感想を述べた。
「背も高いし、身のこなしもよさそう」
「一平さまといい勝負じゃない?」
「あら、一平さまとは全然タイプが違うわ。でも、どこかで見たような気が…」
アイナが思い出そうと虚空に目を向けるとメリーアも言った。
「あなたもそう思うの?私もよ」
それも道理だ。ナシアスは、トリトニア滞在中、一平を案内役にして修練所へもちょくちょく姿を見せていたのだから。だが、おしゃべり雀たちには、そのこととこのことがはっきり線で結びつかないのだった。
「私は初めて見るわ。護衛と言うからにはそれなりにお強いのでしょうけれど、何もあんないい男をつけることはないのに」
エスメラルダのやっかみはそこへ行く。
「なんだってあのチンクシャにばっかりいい男が言い寄るのよ‼︎」
「あら、エスメラルダ。あの方は何も姫さまに言い寄ってなんかいないわよ。就任したばかりじゃない」
思わずメリーアがハンサムを庇う。
「そうよ。それに姫さまはチンクシャなんかじゃないわ。前はそうでもなかったけど、この頃はとてもきれいにはおなりだし、それなりに可愛らしい方じゃったじゃない?」
アイナも同調してついパールを褒めてしまった。
当然、エスメラルダには凄まじい目をして睨まれる。
「あなたたちに人を見る目がないのはよくわかったわ。一度お医師さまに目を診てもらったらどう?それこそほら、癒しの力の主さまにでも診てもらいなさいよ」
嫌みを言われて、取り巻きの二人はそっと横目を見交わした。
言うだけ言ってエスメラルダはさっさと泳ぎ出した。問題の二人連れの方へ。
パールが気づいて立ち止まる。
「ごきげんよう、エスメラルダ」
小首を傾げ、遠慮がちに挨拶する。
「お久しぶりね。今日は一平さまはご一緒じゃないの?」
素知らぬ顔でエスメラルダは尋ねる。一平が修練所の課程を終了して軍の重責にあることはとっくに知っていたが、そのためパールと一緒にいられる時間が少なくなったことを密かに喜んでいる。いい気味、とほくそ笑みながら皮肉を込めて尋ねた。
「一平ちゃんはもう修練所で学ぶ必要がなくなったの。中将にまで昇進したのですもの」
パールの返答にはちょっと寂しいけど嬉しい、との素直な気持ちが垣間見える。
「複雑ねえ。恋人だけが出世して」
これまた嫌味だ。同じ頃入所したのに一方は出世のために終了し、もう一方は残されているなんて、肩身が狭いでしょうと揶揄している。
「一平ちゃんは凄い人だもの。パールなんか足元にも及ばないから」
だが、パールには通じない。事実であると謙虚に受け止める。逆にエスメラルダが一平のことをパールの恋人と表したことが意外で嬉しくなったくらいだ。
パールが相変わらず何を言ってもニコニコしているのにうんざりし始めたエスメラルダは、苛めるのは諦めて本題を持ち出した。
「ところで、そちらの方はどなた?紹介していただける?」
パールの後ろに黙って控えるナシアスを目で指して訊いた。
「あ…」パールは今気づいたと、一瞬振り返る。「ナシアスさまよ。私の護衛をしてくれているの」
「ナシアスさま?あなた、臣下に『さま』をつけるの?」
エスメラルダの言うのは道理だ。護衛は臣下である。エスメラルダですら家の侍女、侍従たちを様付けでは呼ばないのに、自分より身分が上の王女が自分の護衛に様をつけるのは筋違いだ。
「ナシアスさまはパールの命の恩人なの。呼び捨てでは呼べないわ」
「命の恩人?」
「ええ」
パールは武道会での経緯を簡単に話した。
「だから、いくら臣下であっても私はナシアスさまとお呼びするの…おかしいかしら?」
一種の信念を持ってそう言うパールには何か反論しがたいものがあった。エスメラルダは初めてパールの言に対し、言葉に詰まった。
護衛なのなら主人の命を死守するのは当たり前で、だからといって呼び方を変えるべきものではないのだが、ナシアスの場合、命を救ったのは護衛となる以前の話のため、パールの理屈は間違ってはいない。だが…。
どこかに矛盾点を見つけてやり込めようと、エスメラルダは考えを巡らせる。
「エスメラルダどの」
言葉を探すエスメラルダにナシアスが呼び掛けた。
「私が付け上がりはせぬかとご心配ですか?」
「え?」
「ご安心めされよ。どう呼ばれようと、私は護衛官に徹すると剣にかけて誓いました。姫さまを誰より大事に思う中将どのの剣にかけて
(中将どの?)
それが一平を指すことに思い至ったエスメラルダは、一体なぜ?の思いを込めて、長身の男を見上げた。
「ここにもひとり、姫さまの身を気遣う方がおられることに感謝を。あなたの上にトリトン神の御恵みがありますように」
普段のナシアスからは考えられないような穏やかな声音で、彼はエスメラルダを拝んだ。
エスメラルダと共にパールもぽかんとする。
「参りましょう、姫さま。授業に遅れます」
「あ…はい。ではエスメラルダ。またね」
パールとナシアスはその場を後にした。
「厄介なのがいるな」
一平の部屋に上がり込んで蛇酒を引っ掛けながらナシアスが言った。
「何の話だ?」
話の脈絡が掴めず、一平は面食らう。
「エスメラルダって姫君だよ」
「会ったのか?」
「当然だろう。修練所へ行けば、いやでも顔を合わせる」
「どう思った?」
こちらの感情や問題を提示するのは容易いが、敢えて一平はそうしなかった。勘のよいこの男にあの娘がどう映るのか、確かめてみたかったのだ。
「ありゃあ、かなり根深いな。お姫さんの天敵と言ってもいいくらいだ」
「天敵、か」
「お姫さんの方には敵対心はないようだが、まるでハリセンボンだ」
ぷっ、と一平は堪えきれずに吹き出した。言い得て妙だと思ったのである。
「ハリセンボンはよかったたな」
「お姫さんの何が気に入らないんだか…」
「育ちも大きな一因なんだよ。彼女ひとりの責任じゃない」
エスメラルダがパールを苛める背景を一平が話して聞かせると、ナシアスは言った。
「つまり、おまえのせいでもあるわけだ」
「オレ?」
思ってもみなかったことを言われて一平は目を丸くした。
ナシアスは小さくため息を吐く。
「全く。どうして自覚がないんだ。エスメラルダがおまえに気があることがわかってるのに、そんな手ひどい振り方をして。プライドの高い女ほど諦めが悪く、意固地になるのは世の常じゃないか」
「いや、しかし、そういう事ははっきりさせとかないと…」
「だからおまえは朴念仁だと言うんだ。キスのひとつもして、あなたのように美しい方に好意を持ってもらえて光栄ですとか何とか褒めといてから、やんわり断るのが賢いやり方だろう」
「悪かったな。賢くなくて…」
好きでもない女にキスなどできるか。思ってもいないことをしらじらしく口にできるものかと憤りながら、賢く立ち回れない己の石頭を一平は詰った。
「まあ、修練所内ではオレがついてることだし、おまえのお姫さんに手ひどい事はさせないよ。あっちも若いんだ。そのうち新しいお気に入りでもできりゃ、矛先も変わるだろうよ。…そうか、オレの方を向けさせりゃいいのか」
ポンと掌を拳で叩いてナシアスは言った。
「おい…」
軽率な真似はよせとの咎め口調に、その自信は一体どこから来るんだとの疑問が混じる。しかもつい先日、ナシアスは惚れた女を亡くしたばかりなのである。
「なあに、深入りはしねえよ。仮にも王族の姫君だからな。その辺の女と同じように寝所に忍び込んだりはできねえさ」
「おまえ‼︎…」
もうそこまで考えているのかと呆れると同時に、今までそれが日常的に実行されていたのだと理解し、自分とのあまりの差異に愕然となる。
確かに魅力のある男だが、女性に手が早いのだけは少々いただけない。この調子では修繕所中の女性がこの男の餌食になるのも時間の問題だと思われた。ニーナとのことは一時の遊び心だったのだろうかと、苦悩に悶えたあの日々は何だったのだと、虚しい気さえしてくる。
ナシアスは言う。
「あいつは簡単に陥ちるぜ。ニーナと違ってな」
ニーナが死に急ぐのを止められなかったことに負い目を感じている一平は、ナシアスとの会話にニーナのことを持ち出せない。ナシアスの方から口にされても胸の奥がずきんと痛む。
「オレがこうと思ってキスすらできなかったのはあいつだけだったな。そういう女だから惚れたってのはあるけど、あのエスメラルダとかいう姫さんは全く違うタイプだからな。気が強いって点では似てるが、とにかくわがまま放題。惚れっぽいのはオレとどっこいどっこいさ」
「なぜ彼女が惚れっぽいとわかる?」
「あの目つきを見てりゃわかるさ。ありゃあ男に飢えてる目だ」
「……」
王族の姫君を捕まえて男に飢えているとは…。一平はどう反応すればよいのかと途方に暮れた。
「まあ見てろよ。一週間で陥して見せるからな」
自信たっぷりに断ずるナシアスだが、そんなことに精力を注いでもらっては一平は困るのだ。
「護衛の仕事を蔑ろにはするなよ」
「わかってますって。変な虫がつかないように、だろ?」
「ナシアス‼︎」
真面目に答えろと一平は声を荒らげた。できるならそういうこともお願いしたいところだが、公務を私事に使用するのはしてはならないことだ。いくらナシアスが一平に剣を捧げてくれたとは言っても、ナシアスを雇ったのはオスカーなのだ。越権行為であり、分を弁えていないと非難されても文句は言えない。
顔を真っ赤にして憤慨する一平をナシアスはどうどうと宥めた。
「冗談だって。ちゃんとお守りしますよ。お姫さんに災難が降りかかるのはオレも本意じゃない。おまえも、そしてニーナもそうだろう」
「……」
「だが、お守りするに際して多少のことには目を瞑ってもらわないとな」
ナシアスはいたずらっぽい輝きを琥珀の瞳に浮かべた。
「多少のこと?」
鸚鵡返しに繰り返し、考えを巡らせてはたと思いついた。
「おまえ!パールに手を出したらただじゃおかないからな‼︎」
よもや親友で且つ下僕でもあるナシアスが主の想い人をどうこうするはずもなかったが、ナシアスが歳の割に幼い二人の恋を酒の肴にしたがっているのは事実であった。
「まさか。あんな赤ちゃん。オレはおまえみたいに奇特な人間じゃないんだ。ただ時と場合によっちゃ、抱いて逃げたり己の身の下に組み敷いて庇ったりすることもあり得るって話さ。いちいちおまえに断っちゃいられないから先に言っとこうってだけのことだ。そんなに妬くなよ」
「妬いてなんか…‼︎」
充分すぎるほど妬いている。自分でわかっているので、一平はその先を続けられない。ナシアスの胸ぐらを掴んだ手を力なく下ろし、一平は言った。
「オレには…おまえにあれこれ指図する権利はないんだ。おまえのニーナを敵地に送り込んだのはこのオレだ。ニーナからの申し出であっても、許可を出し、作戦を実行に移したのはオレのしたことだ。おまえになんと非難されようと何も言えない。なのに…なぜ、ナシアス。おまえはオレを責めない?あまつさえオレのような中途半端な人間に忠誠を誓ってくれるんだ?」
態度の急変した一平を静かに見下ろし、ナシアスが言う。
「おまえだからさ」
一平が思わず顔を上げた。
「オレが一番惚れてるのはおまえだからさ、一平」
「……」
記憶が蘇る。そう言って唇を重ねてきたことがかつてあった。
(あれは…冗談ではなかったのか?まさか…)
ナシアスも、ニーナと同じように同性の相手に生き甲斐を見出していたのか?だからニーナにも惹かれたのだろうか?
「誤解するなよ。だからって、おまえをものにしたいとか、イチャイチャしたいとか思ってるわけじゃないからな。そういうのは女の子とするに限るんだから」
一平の不安を見透かしたかのようにナシアスは言い添えた。
「ニーナのことはもう過ぎたことだ。おまえの選択は間違ってない。むしろ…辛い時に一緒に戦ってやれなかったことをオレは申し訳なく思っている。あいつはきっと満足して死んでいったのだと思うよ。残念ではあるが…悲しくはあるが…それだけに囚われてめそめそ一生暮らすのはオレの性には合わない。一度きりの人生だ。楽しく愉快に過ごそうぜ。相棒」
「オレなどでいいのか?類稀なるそのレイピアの腕を、オレなどのために使わせて?ジーにあれば、立派な身分も地位も不動のものなのに」
「それよりかもっと凄い奴の、オレは片腕になるのさ。それのどこが悪い?」
「ナシアス…」
「必ずなれよ。守人に。そしてお姫さんの最高の笑顔を見せてくれ。あと、可愛い後継ぎもな」
「ナシアス…」
照れ笑いしながらも涙が溢れそうになる。それを隠すため、一平はナシアスと肩を抱き合って絆を確かめた。
ナシアスは宣言したことを実践し、なおかつやり遂げて見せた。
はじめのうちこそ、『この人は何を言っているのかしら』と、本人の思惑とは見当はずれのことを言われて怪訝に思っていたエスメラルダではあったが、会う度に自分のことを褒められれば悪い気はしない。元々がずる賢いところがあっただけに、『良いように誤解してくれているのなら利用させてもらおう』と思うようになり、そうこうするうちにナシアスに優しい言葉をかけてもらったり、持ち上げられたりすることを自ら欲するようになった。
自分を理解―この場合は、微妙に理解の意味合いが異なるが―してくれる人に懐き、好かれたいがために心を開くようになるのは当然の成り行きだった。
まして、成人しているとは言え、心の方は一向に子どもの域を出ないわがままお嬢さんであったから、小さい子を手懐けるにも似た方策のナシアスのアプローチは大成功であったわけである。エスメラルダは次第に一平の情報に耳を傾けるのをやめ、代わりにナシアスの動向に気を回すようになっていった。
そこでもパールはお邪魔虫ではあったが、ナシアスがエスメラルダに限らず他の人々の前でも、パールのことはあくまで護衛をするべき主の娘、という冷静な態度を維持するので、嫉妬の気持ちは湧いてこない。
むしろ、いくら主の娘であっても、一人前の男性にとって大した魅力はないのだ。一平はかなり女性に関しては、普通でない趣味の持ち主であるか、または顔に似合わず、財産や地位目当ての腹黒い人なのだとの結論に至るようになった。
そう達観すると不思議なもので、一平のことが目に入らなくなり、パールのことも鼻につかなくなる。
ナシアスは見事にエスメラルダの精神を分析し、女心をしっかり掴んで彼女の刺々しい鬱憤を取り除いて見せたのだ。
そのお手並は、一平をして「心理学でも学んだのか?」と言わしめた。
だが、エスメラルダがナシアスに入れ込むようになればなったで、本気ではないナシアスの方に問題が生じるはずだが、それもどういうわけか本人は至って呑気に楽しんでいる風であり、そのことに半ば慣れてきたあたりからはふっとナシアスの周囲にエスメラルダが出没しなくなった。
「エスメラルダのことはどうなったんだ?」と尋ねた一平に対し、ナシアスは一言「別れた」と答えた。
仰天した一平は事の次第を問い質したが、「心配すんな。後腐れのないようにちゃんとやっといたからよ」と告げるだけで、ナシアスは具体的なことを語ろうとはしなかった。他人に―たとえそれが一平であっても―話すことは、王族の姫たるエスメラルダの名誉を傷つけることになると、重々承知しているからだ。そのことに気がついてからは、一平も一切エスメラルダのことについて触れるのをやめた。
パールももちろん心配していた。
こちらは全く純粋に、二人がうまくいけばいいと思っていたのだ。
さすがの鈍感娘も、目の前でアバンチュールが繰り返されればエスメラルダの気持ちに気づかないわけにはいかない。ナシアスにはニーナとこそ幸せになって欲しかったが、今となっては叶わぬ夢だ。相手が意地悪なエスメラルダであっても、ナシアスがそれで幸せなのならと、二人を密かに応援していたパールだった。
ナシアスの『別れた』報を聞き、一番心を痛めたのは、一平よりもむしろパールの方だったかもしれない。
パールは言った。
「ナシアスさまって、女運が悪いのかしらね?」
ナシアスの女性遍歴を知らされていないパールのこの一言は、一平には恐ろしくむず痒かった。吹き出しそうになるのを必死に堪える一平をよそにパールは続ける。
「ニーナの時も振られちゃうし、死なれちゃうし…」しんみりとして、でも不思議でたまらないように呟く。「あんなにきれいな人なのに。ナシアスさまには優しいのに、どうして好きでなくなっちゃったのかなあ」
ナシアスはパールに、「もうお互い好きではなくなってしまったのです」と説明していたのだ。
「パール考えられないよ。一平ちゃんのこと好きでなくなる時が来るなんて」
深い意味はないのだろうが、どきっとすることを言ってくれる。
本当にそんな日が来ないと断言することはできないのだから。
「人は、それぞれだからな。親しくなって初めて見える嫌な部分もあるだろうさ。それでも一緒にいたいと思えなければ、無理に関係を続けるのは苦しいことだ」
そう応じながら、一平は自分は欠点だらけなのに、パールには嫌なところなどひとつもないなと考えていた。パールが自分で欠点だと思うところも、一平には幼くて放っておけないのだった。
少し怖かったが、一平は思い切って聞いてみた。
「パールは…オレにこうしてほしいと思うことがあるか?」
「うん」
即答が返って一平はドキリとする。
「毎日キスしてほしい。抱っこして。それから一平ちゃんの赤ちゃん…」
「ちょっと待った」
そういう意味で訊いたのではない。一平は慌てた。
「オレの性格その他で直してほしいところがあるかと聞いたんだ」
「一平ちゃんの性格?」
しばし考えた。
「ないよ、そんなの。パールは一平ちゃんの全部が好き」
「……」
心がとろけてしまいそうでだ。屈託のないパールの笑顔が眩しい。
結局、自分はこういう言葉が聞きたかったのか、と一平は己を傍観する。
彼はパールを引き寄せ、囁いた。
「何でも言え。おまえの望むことは全てオレが叶えてやるから」
返事の代わりににっこり微笑むパールを抱き締めないでいるのは無理な相談だった。一平の頭からはもうナシアスもエスメラルダも消えていた。




