5話 引きこもりダメニートバ美肉VTuber配信者になる前の日常――下
【それにしてもさっきの怒濤の高速呪文詠唱で脳がやられたわ 後でもっかい聞き直そっと】
【草】
【すげぇよな】
【ある意味すごいよな】
【鋼メンタル過ぎて草】
【吹っ切れてるのってある意味強いから……】
【てかこんなにしゃべれるんなら普通にやってけるんじゃ……】
ん……なんだか今日は舌が回る気がする。
時たまにある、謎にテンションが高いタイミング。
今日はきっとそういう日なんだろう。
どんな口下手で無口で根暗でぼっちな人間でも、1ヶ月に1回くらいはこういう日があるんだ。
「鋼メンタルならそもそもとして対人コミュ障発動して大学中退なんてしないし、ましてや家族と妹に気を遣われるダメニートにもなってないぞ。あくまで安全圏なら比較的マシなだけで、20を過ぎて良い大人になっても知らない人と仲良くなれないっていう致命傷抱えてるだけだから。引きこもりニートが内弁慶で家族には傲慢ってよく聞くでしょ? 僕はその元気さえないし、そうしない程度の謙虚さはあるつもりだけど普通に気を遣われてるし遣わせてるし負債になってるし、ここのみんなだって僕のことをただ配信主ってだけでちやほやしてくれるからストレス感じずに吐き気とか少なめで楽なんだし。だいたいなんで会社ってどこもかしこも面接あるんだ、普通に成績とか資格とか経歴とかSPIテストとか意気込み書いた文章とかだけで採用とかしても良いでしょ普通にほんと普通に、コミュ力とか口が立つだけの人の方が小学校から合わせて16年間勉強がんばってきた人よりも評価されるとかどう考えてもおかしいと思うけど実際に働くとなるとたぶん僕みたいのは扱いづらいだろうなって自覚はあるから正しいんだきっと」
ふぅ。
なんだか言いたいことが今日に限ってすらすらと出てくる。
イラストの「こはねちゃん」もドヤっている。
かわいいね。
僕の動きを真似てるだけだけど。
【あっ……】
【やめろ その言葉は俺にも効く】
【ぐふっ】
【ひと息も入れない長文なのにすらすら脳に入って刻み込んでくる恐怖】
【こわいよー】
【流れ弾が深刻で草】
【就活の苦しさが蘇る】
【氷河期世代には致命傷です】
【草】
【もうすぐ就活なのにどうしてくれるの、こはねちゃん!!】
【おろろろろろ】
【てかさりげなく俺たち相手でも吐き気感じてて草】
【あっ】
【草】
「大丈夫大丈夫、僕よりダメな奴の方が少ないから。あと人が存在してるってだけで一定の気持ち悪さはつきまとうものだからしょうがない。君たち相手でも……こう、よく考えたら気持ち悪いな……そこに人が実在してるって想像するだけで胃がきゅってなってくる。気持ち悪い……生理的に無理……」
【いばって言うことじゃない】
【こいつ……ドヤ顔してる!】
【草】
【よく考えたら「生理的に気持ち悪い」って、ひでぇこと言われたわ今】
【草】
【視聴者のこと気持ち悪いとか罵倒していくスタイル】
【でもなんか興奮する】
【きゅんっ】
【分かる】
【えぇ……】
【こういうのも含めて、ある意味での鋼メンタルだな】
【ネット越しの会話ってのもあるんだろうけど、普通に話せてるのにね】
「初対面がダメって、いちばん致命的なやつだから。ほら、結構居るらしいじゃん? 初対面だと話す内容がある程度お決まりだからテンション高く成功できるけど、2回目以降は話すネタが壊滅してコミュ障発動するタイプ。そういうのが分かるってバズったTLが流れてきたけど、みんな同意して苦労話言い合ってたけど、僕はあれより深刻なんだからな? 初対面で形だけでも仲良くなれるのとは違って、そもそも初対面で目を合わせられない時点で詰むんだ。小中高大と学校が変わるどころかクラス替えでも毎年吐くほどストレスだったんだからな? 今はもうニートだから心配ないけど、入社面接とか全滅する自信あるぞ? 1対1でも数人相手でも空気を最悪にして、以後は数合わせでぼーっと座ってるだけのお邪魔虫になるんだぞ? 1人で数人の役員さん相手にしたらその場で吐いてお帰りくださいか救急車呼ばれるだけになるんだぞ? ほら、みんなも見たことあるだろ? 『あいつが居るから自分はいちばんダメじゃないな』って安心できる暗いやつとかさ。クラスの中で面倒見の良いイケメンとかが居て絡んでくれる奇跡があればまともな扱いになるけど、そういうのがない限りの圧倒的多数においては目立たないようにしないと危ない存在って」
適度な自虐は良い。
僕自身のトラウマが、ちょっとは軽くなる気がするから。
【 (昇天】
【 】
【どうしてそんなこと言うの】
【ああああ!!(トラウマ発動】
【なんでこんなしゃべれるのにコミュ障発動しちゃってるんだろうねぇ……】
「こうしてしゃべれるのは数少ない初対面を乗り越えた人か、ネット越しで顔合わせなくて良い相手で、こういうの理解してくれる君たちだけだし……まぁそれでも、引きこもり1年目のときしゃべらなすぎて声が出なくなりかけてたけど」
【それで妹ちゃんに「ひとり言でもいいからしゃべれ」って言われたんだったか】
【壁打ちだっけ?みたいに非公開配信でも良いからって経緯だったか】
【あー、それで結局は普通にボイスだけで配信したんだっけ】
「最初は配信とかする気なかったんだけどなぁ……あんまり心配されるから1回だけでもってやってみたら案外話せたし、引きこもりニートになった経緯を毎回配信の冒頭で話してたらなんだかみんなやさしくなってたからさ。部屋に籠もって1年中ぶつぶつつぶやく存在になるよりは……って感じ。あれはあれで別の病気になりそうだったし。ほら、話してるとおりに僕、家族と顔すら合わさないから。もう何年もまともに目すら合わしてないし」
【それでも1歩踏み出したのはえらい】
【しかも普通にいいやつで普通におもしろいやつ】
【仲良くならないとキャラ分からない人って居るからね】
【ほんそれ】
【こはねちゃん、たぶんコミュ障なきゃ普通に話せるタイプよね】
【俺とは違って才能自体はあるんだ……ぐふっ】
【無茶しやがって……】
「……最近遊んでみたVRなChatで、ネット越しなのにもかかわらず目の前に人が居る気配だけで口を開けなくなって、気がついたら無言勢として認知されてた話、またしよっか? 自発的に話さないっていうスタンスだって本気で思われてたの。初対面相手だと冷や汗ダラダラでVR酔いでもないのに吐きそうになってたあのときの話。普通にさ、学生時代の体育とかグループディスカッションの授業……こくこくこく……」
【 】
【 】
【 】
ふぅ。
トラウマは飲み干すに限るね。
【今度ぶいちゃでも遊んだげるから元気出して……】
【でも、俺たち視聴者で囲んでもやっぱ距離取って無言だったぞ……?】
【守ってるはずの相手が俺たちからも逃げる悲しみ】
【こっち見ながら無表情無言で距離取ってってスーって消えていかれる悲しみ】
【草】
【な、慣れの問題だと良いね……うん……】
「と、いうことで。まだランクマッチしてる時間帯だし、ちょっとアルコール抜けてきたし……ランクマ、やろっか」
ひととおり視聴者たちを巻き込んでから、空になったコップにお酒を注ぎつつ、雑談に夢中で完全に背景になっていたゲームを再開。
――これくらいしか、誇れることがないからね。
まぁ過疎ゲーでちょっと上手だからって誇れることじゃないんだけどさ。
【お】
【こはねちゃんのいぶし銀な戦い……見せてもらおうか】
【けど酒強いよなぁ、こはねちゃん】
【時間経過ですぐ落ち着く処理能力】
【酔ってる方が戦績出るタイプだしな】
【一升瓶飲んでも普通に戦えるってガチで強いよなぁ】
【若いって良いなぁ】
【たぶん普段は対人ってだけで緊張してるんだろうし】
【なるほど、酔拳を使うTS僕っ子だったか……よし……】
【まだ言ってて草】
ちなみに視聴者たちは、その後も僕をTSっ子扱いしていた。
成人男性って主張している成人男性ボイスなのに。
……でも、まぁ。
アバターの「こはね」を見る。
かわいい女の子。
ちやほやされて当然な見た目。
――そんな女の子扱いも、悪くはないかな。
僕自身がちやほやされるとか、小学校低学年以来だろうし……もうちょっとだけ、このままで。
「新規こわい……けど、できたら最下部↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】とか応援コメント、まだの人はブックマーク登録してぇ……」




