48話 不登校のお悩み相談
「不登校……ねぇ」
くぴっ。
僕は注いだばかりのお酒を飲みながら考える。
【のっけから重い話題】
【急にどうした】
【もしかして:新学期】
【10月に入ったけど、そういやまだ一応夏休み明けでもあるか】
【あー】
「くぴ……ぷはっ」
【草】
【いつもの】
【こはねちゃん……? その、ワードを見た瞬間にお酒はちょっと……】
「そっか、10月だから新学期かぁ。……今どきは8月後半からとか防災訓練とか大変だよね。まぁ僕はそれを通り越した大学中退引きこもりニートだから、不登校になりかけっていう君よりはるかに高みに居るんだけどさ……天地逆転の方向に」
【草】
【キレのある自虐芸】
【メンタル大丈夫……?】
【心配だけど聞きたい……この気持ちは一体……?】
「だから少なくとも君の下には僕が居る。ひとまず安心しよう。たとえ世界ランクってのでドベに入っても、その下に僕が居る。安心してね」
唯一僕がいばれるマイナス方面の相談が来て――うん、僕より下手に出てる人相手でも発作は起きにくいんだ――僕は喉を細め、心持ちいたずらっぽい声を出しながらカメラの前で下に見た。
「落ち込んでたら、このボイチェンバ美肉ネカマで良いんなら慰めてあげるからね? ……ふーっ」
【草】
【かわいい】
【かわいい】
【お願いします!!!】
【投げ銭……投げ銭を……】
【こはねちゃんがどや顔してる……!】
【クッソかわいい】
【あっ(尊死】
【今の声めっちゃかわいい】
【かわいい声で自虐してて草】
【いばってて草】
【斜め下方向にぶっ飛んでるけどな】
【吹っ切れた引きこもりとかニートって最強じゃね?】
【しかも今のはメスガキ風味だぞ!】
【ふぅ……】
こんな僕の属性でも引かずに居てくれる人たち――またちょっと増えて具合悪くなったけども――だからか、こういう話題でも茶化すような人は居ない様子。
僕自身のことはいくらでも――吐き気が出たり泣きたくなるような、本当の意味でえぐってくるようなのはやめてほしいけど、幸いにしてそういう人は居着いていない様子。
「とはいえ、マジメに聞くとさ。――まず大前提ね? 親や先生に言いにくいことは起きてる? 実害出てるんなら、そっちは迷わず専用の窓口とかでお願いね? 君自身とか家族とか友人に本当に被害が出ていることなら、もう行政に頼るべきものだから、僕1人で責任は負えないからね? 逃げるところすらないんなら有り金全部使って、一時的に離れた場所に退避してでも……ふむ、違うんだ。その心配はない、と。ひとまず命の危機ではないんだね」
【草】
【予防線は大事】
【さりげなく家族がやばかったパターンも網羅してる】
【これは有識者】
【なにしろニートの星だからな!】
【草】
【口調がガチめで草】
【ノリノリのときくらい滑らかに話しとる】
【ホンモノのSOSだったらやばいからね】
【人格的には紛れもなく成人なこはねちゃんさんへの圧倒的な信頼】
【こうやって他人を思いやれるだけで信用できるんだよなぁ】
【分かる】
【いのちのなんちゃら<URL> 死ぬのは何十年早いぞ】
【そうだぞ、死んだらこはねちゃんさんの配信とはお別れだぞ】
【今どきはお薬で結構フラッシュバックも楽になる 死ぬんじゃない】
【こはねちゃんみたいな超新星も現れるからな!】
【草】
【↑やさしい】
【学生で絶望するのはもったいなさ過ぎるからな、悩みがあれば相談しよう】
【学生は閉鎖された環境だからこそ、運が悪かったりするとな】
【親次第なとこが多すぎる年頃だし】
【感情が昂ぶりやすくて思い詰めやすいのが青春だし】
【自活するようになるとそのへんは一気に楽になるけど……20歳は遠すぎるもんな】
【コメント欄が優しい】
【こはねちゃんさんの配信だからな】
【こはねちゃんさん相手だからこそ相談できそう】
【分かる】
【やはり……ゲロ天使……】
【吐いてでも救ってくれる時点で天使なんよ】
【それはそれとして1ゲロおいくら?】
【草】
とりあえずは安心だ。
……重すぎる身の上話とかどう答えたら良いか分からないし、聞いてるうちにもらいゲロしちゃいそうだもん。
「で、そうでなくともいじめとかそれ未満とか、ハブとか無視とか心にぐさっとくるけど、はた目から見ればたいしたことないやつ? ヘタすると隣のクラスの友達とかすら気づかなかったりするやつから誰もが知ってるレベルの重たいやつ。当時の僕は気づかなかったけど、そういうのもあったり……あ、ない? そう?」
ちなみに僕にはそういうのは――少なくとも知覚していた範囲ではなかったと思う。
「アイツ暗いよね」とかな陰口くらいで済んでたんなら、僕にわざわざ教えられない限りどうでもいいんだ。
「うん。友達が居なかったっていうか僕から拒否して没交渉だったおかげで良くも悪くも孤立してたけど、ヘイトは買っていなかったらしく僕自身は平気だったけど……引きこもった初期はそういう話とか読み漁ってたから、理解だけはできるつもりだよ」
【重いよー】
【軽い口調でえげつないこと言ってやがる】
【おろろろろろろ】
【いかん……俺に刺さっている】
【私のトラウマ直撃でもらいゲロしてる】
【↑おいくら?】
【ひぇっ】
【↑茶化すのはNG】
【ごめんなさい】
【いいよ、許す】
【ありがとう】
【優しい世界】
【ちゃんと謝れて、ちゃんと許せる理想郷】
【すぐに謝れてすぐに許せるとか天国かな?】
【草】
【こはねちゃんさん……大丈夫……?】
【こはねちゃん……どうしていきいきと聞いているんだ……!?】
【得意分野だからな 悲しいことに】
【ぶわっ】
【なかないで】
【こはねちゃん、不登校でもそういう系統の嫌がらせとかで中退したわけじゃないんだよね? 本当に……】
「うん、そうだけど? 僕はただ、僕自身が周りに着いて行けなくって僕自身が僕自身を勝手に見限って、誰にも相談せずに勝手に僕自身の判断で飛び降りただけだから」
幸運なことにそういうことじゃないんだ。
ただただ、僕自身がダメだったからっていう理由だから。
【草】
【表現が怖い……】
【大丈夫だとは思うけど】
【これ、ちょいトラウマ刺激してるんじゃ……】
【だからコメントでできるだけ笑えるようにしてあげるんだ】
【なるほど】
【最近調子に乗ってるのがかわいいこはねちゃん】
【わかる】
【いつまでも調子に乗っててね】
【こはねちゃんが元気で古参は嬉しいです】
【↑介護班っていうんだよ】
【いつの間にそんなものが!?】
【草】
【あー、うん……ハイとローを繰り返す躁鬱と似てるとこあるから、ローのときに介護は必要よね……】
【そういうのって、ハイのときにやらかすこともあるしねぇ……】
「んで、不登校……8月の終わりと9月全部が、か。君はどうしたい? ……学校には行きたいけど、朝になると気持ち悪い。んじゃもう不登校続けたら? 言い方が悪いだけで、自主的なサボタージュってやつだしさ。無理なものは無理なんだって、僕がこの配信で何度も吐いてるの知ってれば分かるでしょ? ああいうのはもう意思とかじゃないの、体の反射なの。じんましんとか過呼吸とかアレルギーみたいなものなの。諦めよう? あと起立性障害とか普通に誰でも起きうるからね、やっぱ諦めよう。諦めは肝心だし、諦めたとたんに楽になることもあるよ。僕みたいに」
【草】
【さっさと諦めさせようとしてて草】
【えぇ……】
【ひでぇ】
【何のアドバイスにも慰めにもなっていない】
【いや、逃げるのも立派な戦いだぞ】
【そうだぞ、まずは生還するんだぞ】
【帰ろう、帰ったらまた来られる】
【やさしい】
それも込みでメンタルの問題ではある。
けども、それでも僕たちは苦しいんだ。
別に、逃げたって良い。
――少なくとも、僕の家族はそれを僕に許してくれたから。
逃げ道がなかったら、人は簡単に壊れるって知ってるから。
「ただ、さ。不登校って、クセついちゃうから。ほんの1ヶ月程度ならなんてことはないけど、3ヶ月くらいになるとたぶん昼夜逆転とか始まったり染みついたりしてて、そうなるともはや『やっぱ学校行こっかな』ってなっても、まず体の生活サイクルの時点で相当厳しくなる。んで次点では『でもみんなにどんな顔して行けば良いか分からないし、そもそも噂とかされてるだろうし』ってメンタル的に……ちょっと吐いてくるからマイク切るよ。……おろろろろろろ」
べしゃべしゃべしゃべしゃ。
最近はこの臭いにも慣れてきた。
飲食の直後なら――胃液が少なくって、ニンニクとか入ってない料理で、さらにはコーヒーとかお酒で臭い消ししていたら意外と大丈夫なんだって。
……うぇぇってなるけど、気持ちの上ではわりと楽で居られてるあたり、前よりは良くなっているって信じたいところ。
【草】
【切れてない切れてない】
【ヘッドホンしといて良かった】
【ふぅ……】
【今日も5万円ストックしたよ、こはねちゃん】
【えぇ……】
【こわいよー】
【ゲリラゲロ助かる】
【えぇ……】
【ゲリラ豪雨みたいにいわんといて】
【こはねちゃんのゲロゲロ雷雨……全身で浴びる、美幼女のゲロ……いいかも……】
【1回50万出します】
【100万は余裕です】
【録画込みで300万出せます】
【だからDM開放して♥】
【げろげろはな……供給がなさ過ぎてな……】
【これはホンモノのげろげろだ ニセモノとは違うんだよ】
【分かる】
【演技でも嬉しいけどホンモノだと……ふぅ……】
【届け、この気持ち】
【うわぁ……】
【ひぇっ】
【やべぇよこいつら……】
【いや、ないわ……】
【きっしょ……】
【え?】
【見た瞬間吐き気を催してこはねちゃんさんの気持ちが分かったわ 心底気持ち悪い】
【え?】
【草】
【この配信、やっぱときどき本物……】
【こわいよー】
【やべーやつらは引かれ合うからな……】
【てかこはねちゃん……? マイク切り忘れ、クセになってない……?】
【ああ、クセになるってのを実演してくれたのか】
【やさしい】
【違う、そうじゃない】
【ゲームでもおっちょこちょいなとこ、結構あるよね……マジメなのに】
【草】
「……あ、切り忘れてたのを忘れてた。まぁいっか、声くらい」
ゲロをふきふき、用意しておいた牛乳をこくり。
ゲロ袋をきゅっ、ゴミ箱へぽいっ。
【ゴミ箱へシュート!】
【草】
【マイクが無駄に高性能だから聞こえちゃってて草】
【こはねちゃん……お前……】
【それで危うく炎上引退の危機だったのを忘れてやがる】
【こはねちゃん、今はハイの時期だから危険なんだよなぁ】
【ひやひやしますね】
【いざというときには……分かっていますね?】
【介護班……!】
【草】
「で、こんな風に不登校ってのは『やめたい』って思ったときがいちばん地獄だから、このまま休み続けなよ。その方が楽だよ? 今どきは不登校への理解も、僕が学生だった頃よりはあるだろうし」
そうだ、昔ならともかく今なら――親御さんの理解も……たぶん進んでるはず。
「それが嫌なら、体力があるなら保健室登校とか1限だけ出て帰るとかでも先生たちは受け入れてくれるだろうし、親も少しは安心するだろうし。なにも学校に完全に行かない0と毎日行く100って思考じゃなくって、その中間でも良いと思うよ。同級生だって、ちらちらとでも顔見てたらそこまで悪くは言わないだろうし。サボり癖も良くないけど、不登校っていう完全な0よりはずっとマシでしょ? 学校の守衛さんと、保健室の先生。その2人だけにしか会わなくて済むんなら結構楽だしさ」
【おお】
【めっちゃ真摯な回答】
【流れるようにすらすら出てくるプロ引きこもりこはねちゃん】
【草】
【さすこは!】
【何か語呂悪くない?】
【草】
【今良いとこ!!】
【真摯に応えててもやっぱ笑えちゃうのがこはねちゃん】
【何しろ正体不明だからな……】
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