43話 【朗報・こはねちゃんとひよりママのてぇてぇ配信】
【あの、こはねさん……20代どころか30代でそういう幻想抱いてる男性視聴者に対して何かアドバイスを……バ美肉でも良いから、妹持ちの兄視点でも、女性視点でも……どうか、どうか……このままだと、俺はもう……】
【あっ……】
【切実すぎる声が】
【ぶわっ】
【分かる】
【お前は存分泣いて良い】
……なんかすっごくかわいそうなコメントが目に留まった。
「え……あ、うん……今の時代だと、もうマッチングアプリとか信頼できる結婚相談所で運良く巡り会えることを祈るくらいかなぁ……ニートの僕にはさっぱりだけどさ、ああいうとこは良い人も悪い人もたくさん居るから、とにかく心を強く持って数を打とうって感じ……? 変な人は、もう事故と思うくらいしか……?」
僕なら無理だけど、普通に社会人やれてる人なら何とか耐えられると思う。
たぶん。
あとはもう知り合いからの紹介くらいしかないんじゃない?
職場の誰かとかさ……僕みたいなニートじゃなけりゃ居るでしょ?
「ほら、学校生活でもほんとに仲の良い親友ってせいぜいが数人でしょ? えーっと、1年で25人として高校までで300人分の数人……数%って感じ。まぁ僕には親友なんて――――――」
【あっ】
【あっ……】
【なかないで】
【マジでピタッと止まってる……】
【っゲロゲロ袋】
「………………………………」
僕は気まずくなった。
僕と同じような境遇の人には気遣いが必要だ。
「……親友なんて居なくても、生きていける! そんなことより心の安寧! ……えっと、僕みたいなので良ければ相談には乗るよ……? じゃ、とりあえず吐くから一瞬切るね」
とりあえずごまかしてみた。
「おろろろろろろ」
そして吐いた。
【かわいい】
【すっごく気を遣ってる感じで草】
【まーた吐いてる……】
【立ち絵が下見てるときの絶望感よ】
【こはねちゃんがガチで困惑中】
【まぁ妹ちゃんを家族として愛してるお兄ちゃん視点だとなぁ】
【ガチで吐いてもいるぞ!】
【まぁ自称だけど嘘ではない確かさのあるコミュ障抱えてるからなぁ】
【草】
【げろげろ聞こえない……】
【悲しい】
【俺たちは悲しい】
【でも1ゲロゲロだから投げ銭ストックしとくね】
【収益化、待っててね】
【ひぇっ】
【なんだこいつら……】
【どうやら界隈の住人が広めているらしいぞ】
【もうだめだ……】
【草】
【こはねさん、対人関係が壊滅的なだけで常識はある方だもんなぁ】
【なにより苦労してる分、人間的にできてる気がする】
【引きこもりニートではあるけどトラウマ?さえなければ普通にやってけるタイプのな】
【あと妹ちゃんがマジで大切だからかいろいろおおらか】
【これも正しい意味でのシスコンだよね】
【妹ちゃんは幸せ者だね】
【分かる】
【とても知り合いの20代中盤の子と同じとは思えない】
【少なくとも何不自由なく育った同世代よりは絶対にな】
【仮にこはねちゃんの主張が全部本当だったとしても、リアルで20代中盤くらいだろ? かなり落ち着いた考え方だよな うちの課の後輩に比べたら……あ、違います、コンプライアンスには準拠してます、ハラスメントでもありません なので目が合っただけでセクハラはどうか止めてください……】
【草】
【それな】
【最近はなぁ……】
【女上司→男部下でもあるからなぁ】
【世知辛いのじゃー】
【世知辛すぎる】
【だからこそ、こんな男を理解してくれる子が、もしかしたらJKとかな疑惑で興奮するんだ 仮に男だったとしても興奮できるけど】
【草】
【えぇ……】
【分かる】
【魂に惚れるってやつよね】
【引きこもりJKが困惑しながら成人男性を慰めてくれる……ふぅ……】
【とてつもなく興奮するな】
【TSっ子!!】
【もうそれでもいいや……】
【むしろそれが良い】
【ちょっと配信見ながらTSもの漁ってくる】
【こわいよー】
【性癖のジャンクションと化している配信】
【この配信、なんかいろいろやべーやつ集まってきてるよな】
【人が集まった経緯が経緯だからね……】
【古参としては非常に複雑な気分】
【分かる】
【ひより「複雑です」】
【草】
【あ、ママさんだ】
【娘?息子?の配信に張りつくママの鏡】
あ、先生。
先生と来れば――
「先生?」
【ひより「今日の分の宿題は終わってますよ!?」】
お、今日は真面目だったらしい。
「あ、そうだったんですか。ならイラスト描いてください。自分のためのイラストを。デッサンとかもしてるって言ってましたよね。強制ではありませんけど、手を動かしましょう。デッサンも絶対に必要というわけでもないらしいですし、なんなら意識しすぎて絵が固くなるとかあるらしいですけど、する方が良いし先生自身もしたいと、この前先生自身がそう言ってたので」
そんな真面目な先生には、一刻も早く僕なんかの配信から離れてほしい。
どうか、真面目に育ってほしい。
こんなに不真面目な配信なんか見ないでほしい。
そんな願いを込めて、口うるさい母さんを思い出しながら言う。
さびしいけれど、それでそっと離れてくれたなら――特に、なぜか妙な性癖を持つ人が集まってきている教育に悪いこんな配信からは距離を置いてくれたらなって。
【ひより「はい……」】
【草】
【すっげぇ早口になってて草】
【トーンが変わりすぎて草】
【急に声が生き生きし出してお茶吹いたわ】
【↑ごくごく】
【ゲロゲロには劣るけど吹き出したのもまた良いんだ】
【しまった、スキを見せてしまった】
【草】
【イラストレーターへの解像度が上がっていくこはねちゃん】
【ひよりママのためだからね】
【ママを思う娘とか泣ける】
【感動した】
【草】
【普通に仲の良い関係って良いよね……】
【いい……】
【てぇてぇ】
「それで?」
【ひより「はい……ラフまで終わりました……」】
「余裕があったら時間置きましょうね。そうするのが良いらしいので。あ、でも、描きたいなら描きましょうね」
【ひより「はい……目を休めます……」】
よし、えらい。
最近の先生はやる気に満ちあふれている。
【草】
【草】
【指示が的確なこはねちゃん】
【そして素直なひよりママ】
【しっかり者の娘に応援されるママか……】
「良いですね。がんばってください。応援してます。ああ、でも無理はしないでください。クリエイター職の人は繊細なので難しいって聞きますから無理はしない程度に。ときには休むのも大切だって聞きますからね。メンタルが大切なんです。僕を見れば分かるでしょう? 良く吐いてる僕を見れば」
【ひより「はい……」】
【自虐芸が板についてきたこはねちゃん】
【あのドッキリから吹っ切れてきたな】
【……躁鬱だと、反転したときが1番怖いんだが……】
【躁のピークの前後がね……】
【そのへんは妹ちゃんが見てくれてる……はず……】
【それを聞くと、このハイテンポなやりとりが急に怖くなってきたな……】
【配信者界隈は精神を病む率が高すぎるからなぁ……】
【だ、大丈夫大丈夫……この2年くらい追ってるけど、配信が休みがちになる程度で済んでたから……】
「芸術家は心が1番です。いいですね、変なコメントとかも見ちゃダメですよ? 『うっ』てなったら黙ってミュートかブロックして忘れるんですよ」
【ひより「はい……あ、それは普通にありがたいアドバイスでした」】
「良かったです」
僕にとっての天使な先生だ、だからこそ彼女――または彼――のメンタルケアも、せっかく着てくれているんだからしないとね。
【草】
【草】
【あいかわらずママにだけ痛烈なこはねちゃん】
【もしかして:反抗期】
【それだ】
【草】
【でもちょっとやさしい】
【かなり優しいと思うぞ】
【まま……?】
【TSロリママか……ありだな】
【ひぇっ】
【こはねちゃんの性別と年齢が行方不明なせいで何があってもおもしろくなって草】
【これからも伸び続けるな!】
【ああ……!】
【感動した】
【何も分からないからこそ応援できるなんてな……!】
【こはねちゃんのメンタルが保つ内はな!】
【草】
【綺麗なオチがついて草】
【実際、怖いけどね……】
【薬飲んでるから分かる 一定周期がね、本当にね……】
【俺たちには配信で見守るしかない……見守るしかないんだ】
【そうか、これが見守り配信……!】
【赤ちゃんとかの?】
【そう、赤ちゃんがギャン泣きしたりしたら自動で知らせてくれる系の】
【草】
【草】
【何かあっても俺たちにできることは何もないんだがな……】
「あとは、この配信のコメント欄とか見ちゃダメです。先生の大切な目とメンタルが汚れます」
【ひより「いえ、そこまでは……」】
「先生」
【ひより「はい……」】
【悲報・配信主から汚れるとか言われる視聴者】
【やばい、興奮してきちゃったわ】
【このロリヴォイスで罵られるとか天国かな?】
【みんな、投げ銭とかファンサイト用の貯金はストックしとこうね】
【そうだったわ】
【草】
【そうか、ロリから罵られる配信……これだ】
【TSっ子だよ?】
【むしろ大好物だが?】
【男だよ?】
【むしろ興奮するけど?】
【無敵で草】
【もうだめだ……】
【この配信……なんかちょっとおかしい……】
【ちょっとか……?】
◇
「私のことを、こんなにも熱烈に。……はぁっ、兄さん……兄さん……!」
◇
「――はっ!? こんなにも兄さんが素敵なら、幼い女の子になっていてもそれはそれで……!」
◇
「女としての悦びを、私の手で……そして兄さんなら優しいからお返しを絶対にしてくれて……!」
◇
◇
◇
◇
「……あっ……徹夜……」
◇
次の日。
綾瀬優花は盛大に遅刻をし、教室で取り囲まれて目の隈を心配され、保健室送りになり、犯人捜しが始まった。
◇
その朝――僕主観での、朝。
「……彼氏さんかぁ……頼むから男を見る目が確かであってくれ、優花……」
学校を出る前に――優花のシーツと枕カバーと服――部屋着にパジャマが、下着も2着分が洗濯機で洗われていて僕は察し、ため息をついた。
「優花に彼氏が」――そういう話をした直後に。
こういう偶然って、あるもんだな。
今朝は寝坊したっぽいし……夜は遅くなかったはずだけど、配信中とかは締め切ってて分からないし……うん。
学校帰りに、あるいは彼の家に寄ったりして――確かに、ちょっと吐き気がしてくる気がする……うっぷ。
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