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17話 ホルモンバランスのせいだから仕方ないはず

「その気があるのなら、今からでもやり直せる。肉体的な病気もなにもない、若者なんだから。……そう言われたって、無理なのにな」


残念ながら、世界は平和だ。

少なくとも、僕たちの周りは。


だから町も家も平和で、僕たちのしょぼい城は健在で――勝手に兵糧攻めを耐えて、居もしない敵と戦い続けている。


昨日も今日も、明日も――遙か先も。


「それが、ずっとは無理だってのも……分かってる。……でも……」


――ぴちゃん。


「うぴゃっ!?」


びくん。


浴室の天井から、雫が垂れる。


「ぐす……」


それがなぜか絶妙に僕の肩に落ちてきて、変な声が出ると同時に泣きたくなってきた。


しょうがないんだ、この体はなぜか涙もろいんだ。


――ざばっ。


「家族としての好意に甘えてぐうたら暮らしてきてるのに、僕の望む形で連れ出してほしい――なんてのは、都合が良すぎだもんな」


ふともものかなり後ろ――ほとんどおしりまでが浴槽のヘリに擦れる感覚を覚えつつ湯船から脱し、しゃーっとシャワーからお湯を出す。


「……お酒が切れるといつもこうだ。けど、お医者さんが出してくれた精神薬をいつも飲むようになっちゃうと、もう後戻りできない気がするから」


顔に温かい水滴を浴びつつ、シャンプーを手に取って髪の毛へ塗りたくる。


………………………………。


「……あ。全然足りない……そりゃそうだ、男の髪から女の子の、それもすっごく長いんだから……」


結局5プッシュくらいしてあわあわしてようやくに髪の毛を流しきり――普段のように頭頂部から後頭部へ、そこからは横髪に後ろの髪の毛と、毛にシャンプーをすり込ませてあわあわさせる作業に没頭した。


なんだかすっごくきしきししたけどもとりあえずそのままにして、体も軽くあわあわして。


「……さすがに、まだここを洗う勇気は……うん……」


……さっき漏らしてぐしょぐしょになってた部分を、男と違うところ以外をなんとか洗ったけども。

動揺して、両手のひらで洗ったけども。


腰から下のラインが――間違いなく僕自身の肉体の感覚だけれども確実に土台から作りの違う、腰に向かって広がる形と、その肉感。


「……ぎ、ぎりぎりまでちゃんと洗えば……うん、そもそもお湯に浸かってるから殺菌とまでは行かなくても、ほぼ綺麗になってるはずだし……」


――そうして慎重に避けて洗ったからこそ、なおさらに男と違う造りが手のひらから分かっちゃって気まずくって恥ずかしくって。


なによりも、やけにぞわぞわとする敏感になった肌の感覚が――僕の全身を、ぞくぞくとさせた。





「……長い」


ぶわーっ。


もう5分はしてるだろう、ドライヤー。


まだ半分も乾いていない髪の毛と、それを乾かしているうちに肩と腕がつりそうなほどに疲れてきているせいで――まだすっぱだかだったけども、僕はもう女の子の裸体に目が慣れてしまっていた。


「……おっぱいが目に入るよりもめんどくささの方が……か。まぁ当然か、興奮すべき物体が存在しないんだからな」


視線を落とすと、ほんのりと膨らんでいる桜色の、おちょこをひっくり返して貼りつけた感じの双丘。


その先にうっすらと桃色に染まる肌を伝う雫――その下の、何もない股。


「男として興奮できないのが、こんな子供に興奮しないで安心してるのに繋がるけど……悲しい……安心できるのに悲しくって複雑……ふぐぅ……!」


TS――その中でも、男から女へ。


その事実が、感覚でもはっきりと自覚できてしまった喪失感で胃液がこみ上げる。


「うぷっ……大学生ですらなくなって、高卒の資格しかなくなったって理解したとき以来だな、これ……」


ぶぉぉぉ。


乾かない髪の毛と格闘しながら、僕はまたひとつ要らないトラウマを植え付けられた。


……ちなみにドライヤーはその後すぐに諦めた。


そもそも長くし過ぎたら――起きていたら優花に変だと思われるし。

とりあえず今は夏だし、ほっとけば乾くだろうってことで。


けども、お風呂ってのはやっぱりいい。


脱衣所から気配探知と気配消失を同時並行しながらなんとか部屋に戻った僕は――ちょっとだけ、元気になったから。


それでも僕は、平均身長で中1の女子。

遺伝子的に、どう見ても元の僕どころかこの家に居座る権利のない存在。


しかもシャツ1枚、はいてない、お風呂の熱が冷めたらすーすーする。


けども、僕は僕だ。


「……とりあえずお酒飲んでゲームでもして忘れよう……」


僕は、定期的に汚くなる――空き瓶やゴミ袋で足の踏み場がなくなる部屋の床をかき分けてできている動線を伝い、パソコンへ向かう。


僕が唯一拠り所としている世界へと。





「………………………………」


……もにゅ。


「………………………………」


……もにゅもにゅ。


誓って言う。


最初は無意識だった。


途中からも、半分以上は仕方がなくって……もう半分は、男としての本能だった。


だって、女の子の胸だよ?


男には存在しない、おっぱいだよ?


興味――なかったら男じゃないし、完全に女の子でしょ?


とはいえ、


「……なんでぴりぴり痒いんだこれ……虫さされみたい……」


シャツの下から――猫背になってると目立たないけども普通にしてるとかすかに主張する、ふたつの丘。

その先端から――不定期に、ぴりぴりじくじくとした謎の感覚。


顔とか体がなぜか急に痒くなり、無視しても結局掻くまで止まらない、あの謎の現象が――よりにもよってセンシティブ過ぎる場所に、ピンポイントに起きている。


かゆい。

痛がゆい。


田舎に行ったときの虫さされ並みにしつこくてかゆすぎるんだ。


「ちゃんと洗わなかったから……? いや、でも、下はともかく上は汚くなってないはずだし……んっ」


ぴりっ。


指先で、布越しで軽くつねると体がぴくっとなる。


それはまるで、虫さされを爪の先でいじめるような痛がゆい、あの感覚。


それと同じくして、軽い刺激を与えるとしばらく意識に上がることもなくなる。


「……なになに? 『成長期の女の子は、ホルモンバランスの関係で……刺激を減らすために、ブラジャーの着用を』。……まじかぁ……」


――どうやらこれは、虫さされと同じく、刺激は厳禁だったらしい。


まさか、シャツの擦れる刺激だけでこんなにもぴりぴりするだなんて、知らなかった。

そりゃあ女子は小学校のあいだにブラジャーとか付け出すよな。


優花だって小5くらいに……いや、だって、洗濯物畳むの僕の仕事だったから毎日のように触るしかないじゃん……今だって畳まされてるからしょうがないじゃん……。


で、これは虫さされと同じように、なるべく触らないようにして忘れるようにしさえすれば大丈夫らしい。


あとは、


「『どうしても我慢できない場合には、人の見ていない場所で』……いやいやダメダメ、そういうのじゃない。よく分かんないけど、そういうのは良くないんだ」


とりあえずとして病気とかでもないらしいし、虫さされみたいに軽くぎゅっとしとけば引いてくれるから大丈夫。


……でも、最近の小学校女子用の情報って、ずいぶん進んでるんだな。


なんかもう、かつての僕が中学の終わりとか高校になって知ったようなことまで平気で書かれてて、ぎょっとしちゃったよ。


まぁ女子は……その、ほら……ね?


平均的にかなり早熟で、しかもおませさんだから年上の男に憧れがちで……そういうことに手を出すっていうか出されがちで、そうしてそういう知識がないと大変なことになりがちだからね……うん、僕たち男子が小中学生なんてマンガ読んでゲームしてただけなのにね……。


そんな感想を持ちつつ、僕は通販サイトを開く。


……しょうがない、買っとくか……ブラジャー。


とりあえずでジュニアブラってのを買っとけば……とてつもなく罪悪感があるけど、この痒みを治すためにはシャツと擦れないようにするしかないらしいし……うん、しょうがないよな。


あ、調べたらああいうのがあったな、ブラジャーのブラの部分だけが縫い付けられてるシャツってのが。

うん、あれなら抵抗も薄い気がする。


あ、優花も使ってるみたいなブラトップってやつ……これが良いな。


………………………………。


「んっ……」


……けど、虫さされよりもすっごく痒いし、かいたら気持ちいいけど……女の子ってのは感覚が鋭いらしいし、こういうもんなんだろう、うん。


そういや優花も一時期、僕に触られるたびにこんな感じの声出してたし、やたらと体をくねくねと擦りつけてきてたし……きっと敏感になって痒くなってただけなんだろう。


ちょうどお風呂に一緒に入らなくなってから少しして止めてくれたし、きっと対処法を母さんにでも聞いたんだろう、うん。


「新規こわい……けど、できたら最下部↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】とか応援コメント、まだの人はブックマーク登録してぇ……」

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― 新着の感想 ―
抵抗があってまだ洗えないの好いぞ好いぞ! 外見要素的に興奮しないことによる安堵と、いなくなった男性要素的に興奮しなかったことによる悲しみ好いですね! ちょいちょい追加でお出しされる妹ちゃんのヨスガりか…
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