10話 引きこもりニート→身分不詳少女
「………………………………」
僕は目覚ましを使わない。
だから、年に何回か昼夜が入れ替わる。
だって人間は25時間サイクルの生物で、本当は火星から来た生物だし。
そんな、暇なときに眺めてたわくわくする系統の動画を思い起こしつつ、意識がはっきりするまでぼんやりしていた。
ぼけーっとしていた。
そして今の時刻は夕方。
寝る前にちょっと飲み過ぎちゃったと思ったけども、感覚的には二日酔いにはなっていない。
お酒って不思議だよね。
体調次第で後に響いたりへっちゃらだったりするんだから。
「………………………………」
◆◆◆
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むくりと起きた僕はのろのろとスマホを手だけで探し、起きる気になるまでSNSで猫画像でも眺めるかと思ったけども――スマホのロックが解除されない。
しかたない、まぶしいけど顔認証で。
あれ、なんかスマホが重いし、でかく感じる……カゼとか引いたかな。
………………………………。
「?」
指先で暗証番号を入れようとして――なんだかやけに指が小さく見えて。
「……お酒残ってるのかな――――って、え?」
ぽつり。
クセになったひとりごとが、おかしい。
――『良いですか兄さん、ただでさえ口下手なんですから、ひとり言でも良いのでせめてしゃべる習慣をつけてください。大丈夫です、廊下までは聞こえませんから』って優花に言われてから癖になったつぶやきが、やけにかわいらしい声に。
「ん? ……あ、あー。……え?」
――声が、おかしい。
いや、違うか……僕の感覚がおかしいんだ。
「お酒……うぅ、お酒ぇ……」
きっと僕は呑みすぎてまだまだアルコールが抜けていない。
そうに決まっている。
つまり、今普通に起き上がると千鳥足で――あれは去年だったか、今みたいな状態の寝起きのまま勢いよく立ち上がったら、散らかってた足元のせいですっ転び、後頭部を強打したの。
たまたま休みの日で家に居た優花が駆け込んできたら、伸びている僕を発見。
その後のことは……うぅ、お酒で忘れよう。
僕はもぞもぞとなめくじのようにベッドを這い、実は流体だと噂される猫のごとくにベッドのふちから床へと軟着陸を試みたけども、
「――――……………………」
全身の毛穴という毛穴が開く感覚。
ぶわりと発散される汗の感覚。
――なんで。
なんで――この程度で、ズボンとパンツが脱げた?
何か致命的なバグが発生している。
それを認識したくない。
そんなせめぎ合いをしつつ、僕はそっと仰向けになって下半身をのぞき込むと――
「!?」
――ない。
何も、ない。
完全に、ない。
本来いちばんに目に入るはずの棒状の物体も袋状のそれも、見苦しい毛も――何も、ない。
そこにあるのは、妙にすっきりとし過ぎて作り物みたいな下半身――女の子のおへそとくびれ――股に、細いふとももだった。
「……!? ……!?」
指が震えだしている。
わなないている。
仰向けになるために踏ん張っている脚が、半分開いたままで震えている。
その脚は、やけに細すぎて頼りなくて。
――僕はとうとう、女に餓えるあまりに自らの肉体まで脳内変換を?
――現実を見ろ、脱いですっぽんぽんな下半身の感覚は確かにあるだろう。
そうだけど、でも。
いやいや、でも。
「………………………………」
僕はそっと、本来なら邪魔だけど便利な、男としての象徴の存在したはずの空間の先へと、片手を伸ばして行き――
――びりっ。
電気が走る感覚に、僕の体が跳ねる。
「ひゃあっ!?」
股に本来あるべき質量が存在しない、妙な隙間。
そこから昇ってくる変な感覚に変な声が出て、慌てて手を引っ込めて口を閉じる。
「……は? え?」
――ない。
なかった。
そして、全然違うけども確かに僕の体だという感覚を、指と股で感じた。
「――なんじゃこりゃあぁぁぁぁ!?」
思わずで叫び――慌てて口を閉じる。
この状況を、客観的に見てみる。
引きこもりニート社会不適合者な成人男性のベッドに寝っ転がる女の子、しかも下半身すっぽんぽん。
こんなのを優花に見られたら――――。
「………………………………」
どっどっどっどっ。
耳を澄ませると、僕自身の荒い息と激しい鼓動がうるさい。
「………………………………」
そうして何十秒、それとも何分、僕はじっと耳をそばだてて動かないでいて。
「……はーっ……セーフ……」
ぽふっ、と、ベッドに体を預ける。
良かった。
優花はまだ帰っていないか、少なくとも聞こえてはいないらしい。
なにしろ寝起きで時間も見てないから、今がどういう状況なのかさっぱりなんだ。
ほっとした僕と――消し忘れてたディスプレイの、消し忘れてたアバターの子と目が合う。
僕は、のっそりと起き上がり――そしてシャツが肩から落ちそうになるし、袖が長すぎて、まくらないと手首が出ないのを発見し。
「――――――……………………」
そしてスマホをそっと持ち上げ――ロック状態で真っ暗な画面と、向き合う。
そこには――毎日見慣れていたアバターの女の子が。
ふわふわとしたセミロング――背中まで伸びる薄い紫の髪の毛、サイドには小さな三つ編み。
今どきのアニメ、というよりは少女マンガに近い幼い印象の作画、桜色の大きな目――それを可能な限りに現実へ持ってきたかのような、あどけない顔。
「……痛っ。これ、誰が結んだんだ……?」
ふと、顔の片側に垂れ下がっていた三つ編みを――「見たことはないけど毎日見ている」リボンで「結ってある」それを引っ張ってみるも、確実に僕の耳周辺が毛根だという証明を得た。
――つまり。
「僕、女の子に――いや、『こはね』になって……いるのか……?」
本来なら寝起き、かつアルコールのせいで不細工に見えるはずの僕の顔が映るべき場所に――予算が足りなくてひより先生に作ってもらわなかったはずの、目を見開いて驚いた顔をしている僕のアバターそっくりな顔が――映っていた。
◇
「……変わってない……」
僕はとりあえず二度寝した。
それで何かが変わると思った。
世界も僕も、何も変わってなんていなかった。
いや、変わっていたのが変わっていなかった。
「何だよこれぇ……」
絞り出すような声のはずなのに、声帯のせいで妙に愛くるしい慟哭。
「なんだよ、これぇぇぇ……!」
――ひとまず、認めよう。
とりあえずで迎え酒も試してから寝直したけども、事態は良くも悪くもなっていなかった。
いや、とっくに悪くなっていたのをようやくに自覚した。
「……なんじゃこりゃあ……」
恐怖にぷるぷると震えながら、なんとなくで体が変わってからの本格的な第一声を再現してみるも、腹立たしいくらいにかわいい。
そりゃそうだ、そのゆるふわな絵柄が気に入った僕が頼み込んで描いてもらった、いわば家宝とも言えるアバター、そのそっくりさんなんだ。
そんなこの口からは、当然、こういう声が放たれるだろう。
僕は、改めて下を見る。
――下着のシャツがふとももにまで掛かっているだけで、それ以外はなにひとつ身につけていない――女の子の体。
足の指が爪まで小さく細くなっているわ、すねからふとももが真っ白だわ、今は見えてないけど男が見ちゃいけないもののはずの股だったわ、シャツが胸元で左右にわずかに膨らんでいるわ、鎖骨が妙にはっきり見えるわ――そして、左右からちょっとだけ巻き込んできている髪の毛の毛先だわ。
うん。
これはもう、認めるしかない。
「僕……女の子に……」
ぽつりと口に出したその言葉で、世界が確定する。
そうだ――僕は、女の子になっちゃったんだ。
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