4 ダンジョン発見!賢者山木の智謀がうなる いざ世紀の断層ダンジョンへ
「なるほどね。剣奈ちゃんは吉祥寺から行けるダンジョンを探しているんだね」藤倉から事情を聴いた山木が剣人語に合わせて尋ねた。
「うん!ボク、ダンジョン行きたいんだ」剣奈が元気に答えた。
「そうだね。吉祥寺から行きやすいダンジョンねぇ……」
山木が顎を撫でた。剣奈がワクワクしながら山木を見つめた。山木は考えた。(剣人語に合わせるとすると……地脈、断層、洞窟、鍾乳洞か……)。山木はしばし考えた。そして口を開いた。
「吉祥寺あたり。そこらへんは武蔵野台地のちょうど真ん中なんだ。武蔵野台地は比較的安定した地層なんだよ」
「なるほど……?」
「地質的には古い火山灰層による関東ローム層の台地だからね。なので残念ながら自然の大きな洞窟や鍾乳洞はほとんど無いんだ……」
「そうなんだ……」
山木が吉祥寺の地質を思い浮かべながら説明した。剣奈は少しがっかりした表情を浮かべた。
山木はしばし考えた。剣奈は思考にふける山木を期待をもって見つめていた。「賢者山木」に対する剣奈の信頼は厚かった。
(あのあたり、地下には昔の川や湧き水の流れに由来する小さな空洞がある。そして戦時中の防空壕跡が残ってるかもしれない。なのでもし吉祥寺周辺で「ダンジョン」を探すのであれば……、防空壕跡、古い用水路、下水道遺構、廃坑……。
あのあたりに明治から昭和にかけて小さな炭鉱があったと聞いたことがある。確か……「城前坑」、「白岩坑」……。
なので地質図を見て、軟らかい土質や地下水が豊富なゾーンから掘り進めていく。そうすれば小さな「洞窟」すなわち「小型ダンジョン」が見つかるかもしれない。しかし……、そのことを剣奈ちゃんに言うと無鉄砲に掘り返しかねない。ちょっと黙っておこうか……)
――実に大人である。剣奈は本当に大事にされている。
山木は知恵を絞った。吉祥寺、ダンジョン、武蔵野、断層、鍾乳洞……。
(ん?待てよ。吉祥寺周辺である必要はないか。剣奈ちゃんが行きやすければいい。とすると中央線沿線で良いか……。ん?そうだっ!中央線沿線、鍾乳洞、断層。いいのがあるじゃないか!)
逡巡していた山木が剣奈ににっこりとほほ笑みかけた。剣奈は山木の様子をみて期待を膨らませた。藤倉はほっとしたような、けれど少し嫉妬交じりの気持ちを抱えて山木を見つめていた。
「剣奈ちゃん。思いついたよ。すごいのがあるんだよ」山木が言った。
「えええええぇ!すごいのが!?」
「「世紀の断層」そう呼ばれる断層があるのを思い出したよ」
『世紀の断層じゃと!?』
来国光が反応した。しかし念話を繋げるには東京と神戸はあまりに離れていた。その声は剣奈にしか聞こえなかった。
「うふふ。クニちゃが「世紀の断層」にすごく反応してる」
「おや?邪斬君が?さすがに神戸までは声は届かないようだね」
「あーあ。先生たちもトリニティネットに参加できればいいのに。そしたらチームで話し合えるのに」剣奈が残念そうにつぶやいた。
「おや?トリニティネットを使わずとも妾は話に参加できるぞえ?」
突然女性の声がした。白蛇だった。いつの間に来たのか、白蛇がパソコンの画面を覗いていた。
「私も参加できるわよ?」ベッドの上で丸まっていた金狐が口を開いた。
『ぐぬ。ワシだけか……』来国光が悔しそうに唸った。
「うふふ。クニちゃがワシだけかって悔しがってる」剣奈が嬉しそうに言った。
「俺もその気持ちはよくわかるよ」藤倉が遠い目をしながら答えた。
「うふふ。仲いいね。でも……いいところだから……クニちゃとタダちゃはちょっと待っててね」剣奈がニコニコしながら言った。
『う、うむ……』来国光は無念そうに押し黙った。
「はい……」藤倉も沈黙した。
「世紀の断層……それはまさにダンジョンの内部にあるんだ」山木が続けた。
『なんじゃと!』来国光が叫んだ。山木にその声は届いていなかったが……
「ダンジョン!」同時に剣奈も叫んでいた。
「そうだよ。そのダンジョンの名は「日原ダンジョン」。その名前を知る人は今ここにいるメンバーだけだけどね。世を忍ぶ仮の名は……「日原鍾乳洞」というんだ」山木が剣人ワールドに話を合わせていった。
「日原ダンジョン……」剣奈が嬉しそうに目を輝かせた。
「世紀の断層は日原ダンジョンの内部で観察できるんだ。綺麗に磨かれた地層の境界面だよ。しかもね。それは人が削ったものではないんだ。大地の巨大な力……地脈の力で磨かれた鏡肌なんだよ」山木が言った。
『「地脈が磨いたっ!」じゃと』来国光と剣奈が同時に叫んだ。
「そうだよ。その場所に行くと、片側が滑らかに光る岩を見ることができるよ。断層運動で岩石が動いた証拠といわれてるんだ。地殻変動の歴史そのものを目で見れる場所なんだ」山木が説明した。
「地脈の息吹を感じ取れる……」剣奈が目を見開いてつぶやいた。
「世紀の断層は石灰岩だよ。あのあたりを巨大断層が貫いたんだ。そして大地同士が強くこすれ合った。その結果鏡肌が生まれた。さらにその周りの石灰岩が地下水によって溶かされてダンジョンが形成された」
「うんうん!」
「断層運動と風化。自然が協力しあって巨大なダンジョンを作り上げた。地脈がつくりあげたダンジョンと言っていいだろうね」
『「地脈が作り上げたダンジョン……」』
剣奈の心は興奮ではちきれんばかりだった。剣奈はキラキラ光る眼で「賢者山木」を見つめていた。頬が紅潮していた。
剣奈は胸の奥からあふれる気持ちでいっぱいになっていた。抑えきれない高揚が感情を高ぶらせた。剣奈は頬を赤く染めながら山木に叫んだ。
「ボク、行くよ!日原ダンジョン!」
剣奈の瞳はキラキラと輝いていた。そこには冒険への強い決意が宿っていた。剣奈の心にはダンジョン探検への希望が果てしなく広がっていた。
――――――
*白蛇:淡路島で信仰されている白蛇(白龍)。神の眷属。詳細は『赤い女の幽霊』「8 淡路蛇龍伝説の正体 」
*トリニティネット:白蛇・玉藻(金狐)・来国光の三妖による霊的ネットワーク。後に剣奈も参加。剣奈は来国光と結紐でつながっているので参加できた。通常の人は参加が難しい。初出は『赤い女の幽霊』「2-9 バカップル 五十路童貞、虎猫娘 淡路南端の愛の巣に 熱を帯びたるトリニティ・ネット爆誕」
*「俺もその気持ちはよくわかる」:トリニティネットで来国光、白蛇、金狐が剣奈の無事を話し合っているとき、藤倉だけが会話に入れず悔しがった事件。『赤い女の幽霊』「2-21 闇の触手と白黄の奔流 剣奈の帰還と囚われの玲奈 」




