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春休み、ボク、ダンジョンに行きたい! ~いじめられっ子巫女がんばる!(だって戦闘巫女♀←♂)~  作者: 夏風


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30 金晶天狐咆 黄金未散 魂遠く 静謐の巫女


 玉藻は呆然と立ち尽くしていた。彼女はギュッと瞳を閉じた。そして……、覚悟を決めたように瞳を開いた。

 

 玉藻はじっと地獄谷の底、三途の川を見つめた。剣奈をのみ込み連れ去ったアギト。地中に逃れし龍。

 

(ならばどうする?)


 玉藻は考えた。


(剣奈はこのダンジョンを壊すことを避けたかった。私に闘いを避けるようお願いしていた。でも命の危機には代えられない。その約束だったはず。ならば私は……、この地を裂こう。地龍の逃れしその住処まで……)


 玉藻は覚悟を決めた。そして三途の川をじっと見つめた。


 玉藻の肚に妖力が集まっていた。玉藻が放とうとする(わざ)、それは金晶天狐咆(きんしょうてんこほう)である。すなわち伝説の怪異、九尾の狐たる玉藻が放つブレス……

 

 それは天をも焦がす黄金の奔流である。玉藻の妖気。万古不滅の金色天狐が妖気。天地森羅を震撼せしめる超常の妖気。それが一気に集約して放たれるのである。

 その金色の咆哮はすべてを焼き尽くす恐るべき妖気の奔流である。この世のいかなる存在であれ、因果ごと塵と還す。

 

 かつて、その余波を浴びただけで剣奈の半身はけし墨に変った。もう半身もドロドロに溶けただれさせた。その恐るべき猛烈ブレスである。

 しかし剣奈は幸いであった。あの時……、玉藻は心を浸食せんとする邪気と闘っていたのである。あの時の金晶天狐咆は中途半端だった……。あれほどの威力であっても……


 その金晶天狐咆が……、いま全力で……、大地に向かって放たれんとしていた……


「妾は九天を統べる金狐なり。妾の大切な巫女を奪いし者よ。巫女を隠せし大地よ。その愚かなる身に滅びの(ことわり)を刻み込め!金晶天狐咆、参る!」


 ブワッ


 玉藻の髪が逆立った。玉藻の腰に九本の尾が生えた。本気だった。

 本気の玉藻の……、伝説の大怪異九尾の……、黄金の奔流、すべてを焦がし消し去る極大ブレスが……、放たれようとしていた……

 

 その刹那。


 古刀『これ!環境破壊は禁止じゃぞ?』


 トリニティネットに突然、来国光の声が響いた。


 玉藻は驚き、静かに瞳を閉じた。己が体内に高めし妖気を沈めるためである。

 

 玉藻はそのまましばし瞳を閉じていた。眉根を固く寄せて佇んでいた。


 玉藻は静かに息を吐きだした。そしてまた、静かに息を吸った。それを何度も繰り返した。静かに。静かに。


「ふうぅぅぅぅ。すうぅぅぅぅ。ふうぅぅぅぅ。すうぅぅぅぅ……」


 やがて玉藻の内なる黄金の奔流が静まりはじめた。


 ポチャン


 三途の川に水滴が落ちた。水滴を中心として静かにさざ波が広がった。


 空間を満たしていた妖気の霊圧。広がった波紋。それが時間を巻き戻すように……、波紋が……、水面に落ちた一滴の雫に収束していくように……、妖気は静かに消えていった。


 玉藻は自らの奥底に鎮座する理性の因果を手繰り寄せた。


(まだ破滅の時ではない)


 理性の意志が黄金の奔流を鎮めた。金の体毛の輝きが淡くなった。尾が一本ずつ薄れ、すうぅっと消えていった。

 闇夜に月が沈み静寂が訪れるように……、玉藻の身体を包んでいた圧倒的な妖気が静かに消えた。


 玉藻の九本の尾が消えた。逆立ち金色に輝いていた体毛は淡く沈み、やがて青みがかった黒へと変わった。幾筋かの金色を残して。

 

「すうぅぅぅぅ…… はあぁぁぁぁぁぁ……」


 玉藻はもう一度静かに息を吸った。そしてゆっくり吐いた。


 金狐『邪斬さん?かくれんぼ遊びなんてしちゃあだめよ?お姉さん、激おこよ?』

 古刀『まあそう怒るな。ワシとて事態を把握できなんだ』


 スタ スタ スタ……


 玉藻は歩き始めた。剣奈の気配のもとに。玉藻は駆けはじめた。


 タッ タッ タッ タッ


 ダンジョンに玉藻の足音が響いた。そして剣奈の横たわる姿が現れた。


「剣奈ちゃん!」

 

 そこは神秘的な静けさに包まれた「弘法大師学問所」であった。

 そのひんやりとした石床の上に、剣奈の小さな体が横たわっていた。

 

 剣奈の泥や汗にまみれた髪は、額に張り付いていた。その小さな胸が静かに上下していた。

 右手はしっかりと来国光を握りしめていた。固く。決して離しそうになかった。

 

 背負ったままのリュックが、背中でひしゃげていた。

 玉藻はそっと剣奈を起こし、リュックを外した。リュックは濡れ、泥が所々にこびりついていた。


 剣奈の身体は……、温かかった。


 ピチャン カーン


 水琴窟の水音が響いた。ダンジョンの天井から滴る水の音が、落下とともに高く澄んだ神々の歌を奏でた。


 ヒュウ


 かすかな風が剣奈の頬を優しく撫でた。弘法大師学問所の周囲に石の仏像のようなものが見えた。

 岩壁は湿っていた。水琴窟の音色が高く淡く残響を響かせていた。

 

 眠るように横たわる剣奈の姿は……、とても神聖で儚かった。


 汗でこびりついた髪、泥に汚れた身体、それらが闘いの余韻を静かに物語っていた。


 玉藻は弘法大師学問所に腰かけた。そして剣奈の頭をそっと太ももに乗せた。


「剣奈……、また「篠の道」に……」


 玉藻は優しく語り掛けた。その声に、悲痛で痛ましい響きが混じっていた。


 怪異ならぬ生身の人間。彼女が「篠の道」を通る。魂が身体から分かたれて「篠の結び目」を通る……。

 その際の痛ましい苦痛を……、玉藻は知っていたのである。


 玉藻は静かに剣奈の髪をなでた……



 ――――――

 


*「玉藻のブレスに苦しむ剣奈」:『剣に見込まれヒーロー(♀)に:』「150 絶望の咆哮 九尾ブレスに剣奈消ゆ」「151 血塗れの剣奈 耐えれぬ激痛 マゾッ娘覚醒疑惑?」


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