18 定時連絡が生み出す騒動 特殊オペレーション晨光発動
「現地担当の風見です。対象シラユキ、PTSDの著明な兆候を繰り返し確認、フラッシュバック頻発、精神崩壊の危険性あり。至急確認願います」
その報告がもたらされた瞬間、内閣情報調査室・第二分析室はざわめいた。
「柴崎主任!AI診断がレッドフラグを示しています。現実逃避行動が急激に増大する危険性を提示しています」技術解析官の伊藤が顔をこわばらせた。
「これは、ただ事じゃないぞ。「精神崩壊」にまで追い詰められているのか。倉持、前例検索。補助データ洗い出せ!急げ!」主任の柴崎が立ち上がった。
「同席中川からも「即時官邸判断を」と言及がありました!」情報検索官の倉持が続けて言った。
「まさかここまでの事態に……。官邸へ報告しなければまずい事態になるぞ」柴崎は噴き出した冷や汗をぬぐった。
第二分析室に重苦しい空気が広がった。上席報告官の鈴村が苦々しく口を開いた。
「柴崎主任。現場混乱のまま首相官邸判断を仰ぐのは避けたい。まずAIログ抽出を精査せよ。最悪、危機管理監へ直送でもよい。イジメに介入するぞ!」
「承知しました。ですが……「いじめ加害首謀者の家庭への直接圧力」は、政府の越権行為になります。マスコミが黙っていないかと」柴崎が警告した。
「そんなことはわかってる!だから今まで深刻なイジメを把握しつつも放置せざるを得なかったのだ。とりあえず危機管理監と官房長官、さらに首相の了承を得るまで誰も動くな。法務担当中里!介入実行の法的リスク、当該父親の公職・経済ネットワークを全て洗い出せ!実施提案は「行政指導」だ。「圧力」の「あ」の字も使うな。それでも当該官庁関係者には強いプレッシャーとなるだろう」鈴村が声を荒げた。
「はっ!隠密に行うべきかと存じます。介入行為が明るみに出た場合、「児童の重大悲劇」を根拠にしても、「緊急勧告・行政指導」が明るみに出るのはまずいかと。やり方を考える必要があると愚考いたします!」中里が答えた。
「わかった。それも含めて官邸に連絡を入れる。全経緯を危機管理監ルートで総理報告に乗せる。最終決定は官邸指示優先とする。現状では首謀者の父に、官庁からの「行政指導」、「注意喚起」がベストだろう(すなわち圧力)。しかし「隠密が必須」と添えよう」鈴村が決断した。
全員が頷いた。柴崎は喉の奥で低くうめきながらPCを叩いた。
「リアルタイムで進捗・資料を逐次官邸と共有しましょう。私が責任を取ります」
「いや、そもそもその責任は私のものだ。そして現段階で個人で取れる責任などすでにない。組織として全面的に対応する必要がある」鈴村が冷静に言った。
鈴村の指示のもと、柴崎が現場統轄を行い、AI診断・現地報告内容が急ぎ整理・精査された。そして「内閣情報官」を通じ「官邸危機管理監」および「内閣官房長官」宛に急ぎ緊急報告案が作成された。
「総理への説明は内閣情報官の職責となる。全ログを情報官に預けよう」鈴村が静かに指示をした。
「対応部局ごとに事実経緯・法的論点・現場判断の方向性について全材料をまとめます」法務担当の中里が急ぎ「参考資料」の作成に取り掛かった。
内閣情報調査室・第二分析室からの報告書をもとに情報官が官房長官に口頭報告を行った。そして迅速に危機管理監がNSC(国家安全保障会議)の臨時招集を諮問した。
政策部門(首相・官房長官・危機管理監)は、第二分析室の精密なリスク評価・現行法運適用の可否、世論対応策等の報告を受け議論を進めた。
「今回の件、担当官では責任が持てません」内閣官房政策部門政策担当官が発言した。
「当然だ。内閣判断に委ねるしかない」首相補佐官が言った。
「総理、副長官、緊急児童保護に関する行政勧告案です」政策担当者が述べた。
首相官邸は関連省庁(文部科学省・警察庁・法務省)と連携して「児童重大悲劇防止目的の緊急リスク回避措置」について検討を行った。その結果、関係先(=いじめ加害者の父に発注している官庁)に対し、「至急の内密善処」、「穏便かつ確実に」を行うよう求めることが決定された。
「この案件、国家的正当性と緊急性に鑑み、官邸監督下で「個別「行政指導」、「注意喚起」措置」に準じる行動を許可する。ただし第三者が聞いても「圧力」と思われぬよう実施する必要がある。具体的方策は担当省庁に一任する。経過報告はリアルタイムで行う」首相が重々しく発言した。
総理の判断が下った。その決断は危機管理監経由で正式に第二分析室に伝達された。
「ついに動き出すか」鈴村がつぶやいた。
「はっ!」柴崎が返答した。
こうして極秘オペレーション「晨光」(「緊急行政措置(コードネーム:晨光)」)の実施が決断された。
晨光、すなわち夜明けである。剣奈救出の危機打開、新たな局面への転換として内閣官房により名付けられた。
このオペレーション案件の名称は「非公式コード」として伝達された。現場印刷や担当官の記名役職は省略された。電子記録は限定許可のみとされた。記録は必要最小限の内部記録のみが残された。オペレーションの多くが文書化されなかった。「公式文書は最小限」、「連絡は口頭で即時対応」という異例のものだった。
ちなみに「非公式コード」とは、正式な手続きや法的文書・公文書として明文化はされていないが、現場や組織内で便宜的・慣習的に用いられる「作戦名」を指す。すなわち表沙汰にはしないが現場では通じる「裏符号」である。
第二分析室から内閣情報官、そして危機管理監、さらに首相官邸、そして関係省庁への通達。これらは危機管理ルートで行われた。
報告から決定に要した時間、わずか一時間足らず。いかに「剣奈案件」を官邸が重要視しているかが現れている。
「これより極秘オペレーション「晨光」を行う。現場連絡は遅滞なく行え。対応省庁への連絡を開始する。GO!」首相が重々しく口を開いた。
首相のGOサインを受け、関係省庁の局長級に「善処せよ」との指示が通達された。第二分析室は全体状況をモニタし、担当省庁への情報共有・進行の調整役を担った。
こうして異例の政府による一事業者への極秘「行政指導」、「注意喚起」の極秘オペレーション「晨光」が実施されることになったのである。




