16 一石山神社へ 剣のご加護とイジメのイジメの真相 憧れと妬み (フォト)
「ボク、ボク……」
泣き出した剣奈をそっと抱きしめた玉藻は優しく言った。
「いいのよ?こは地脈より湧き出でし水脈なり……だから地脈が地より湧き出でたの。剣奈ちゃんの身体を通じて瞳から湧き出ただけ……神様に愛されし剣奈ちゃんならではだと思うわよ?」
「ボク、……」
ギュ
剣奈は玉藻を強く抱きしめた。そしてしゃがんだ玉藻の胸に顔を押し当てた。彼女は静かに涙を流していた。
――少し離れて 内調・公安ペア
――うーん。遠くから見ているこの内調&公安ペア。そろそろ名前を付けよう。うーん。そだね。「監視オネエサンと番犬クン」とかどう?
さて。
「ありゃ、よっぽどだな」風見がつぶやいた。
「そうね。かなり精神的に追い詰められてるわね。不安障害、いえ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の域まで達してるかもしれないわね」
中川が痛ましげにつぶやいた。風見が真面目な顔をして中川に指示を仰いだ。
「中川警部。監視対象の精神状態……明らかに情緒が著しく不安定状態に陥っています。公安案件としても、これは組織内で即時報告すべき事案かと存じます」
「そうね」
「彼女の精神の安全確保、今後の対応指針のため、必要に応じて本部にも速やかに共有しておくべきだと自分は思います」
「わかりました。風見警部補。定時連絡時に報告しなさい」
「はっ!」
――――
古刀『剣奈よ。水脈処理は終わったか?そろそろ至高の剣奈プラン(実は千剣破プラン)の次ステップに移行する頃合いではないかの?』
巫っ子『あっ!そ、そうだよ!その通りだよ!ボク、危うく時間のロスをするところだったよ。つい地脈水に引っ張られるところだったよ……さすがサブリーダー!ありがと』
――来国光、知らぬまにサブリーダーになっていたようである。
巫っ子『では我ら探索第一フェーズ第三ステップに作戦を移行する!いざ!参るぞっ!』
『『『おう!』』』
――絶妙なる来国光の誘導である。声の掛け方、タイミング、間の置き方、言葉の内容。見事としか言いようがない。そして玉藻!いつの間に剣人検定特級認定レベルに!?
一石山神社の石段の麓に立った剣奈である。
「すぅぅぅ」
剣奈は静かに息を吸い込んだ。そして柔らかな春の陽射しきらめく石段を仰ぎ見た。石段は歳月に磨かれすり減っていた。太陽は日原谷の空に穏やかに輝いていた。石段を見上げた剣奈の左斜め上から優しく太陽が差し込んでいた。木漏れ日が穏やかに剣奈たちを包んだ。
階段脇には森が広がっていた。常緑樹と広葉樹が混じっていた。広葉樹は息吹の若芽を膨らませていた。また悠久の時を経た岩が鎮座していた。古木が静かに根を張っていた。
剣奈は神様の通り道を避け、少し端によって石段を登り始めた。
ヒュウ
古木が山風に揺れた。風は剣奈を優しく包み込んだ。
チリリリリ チリリリリ
鳥のさえずりが聞こえた。ミソサザイの澄んだ高音が清らかに響いた。風と鳥の音に包まれた剣奈は、陽に照らされた石段を登るたび、気持ちが昂っていった。いつしか剣奈の顔は安らぎ、神聖な空気さえ纏い始めていた。
剣奈たちが石段を登り切ると鳥居が佇んでいた。剣奈は頭を下げて鳥居をくぐった。一石山神社の拝殿が見えた。境内はこぢんまりとしていた。鳥居正面には木造の拝殿が見えた。その奥に本殿が鎮座していた。
剣奈は手水舎で禊を行った。そして参道の端を真っすぐ進んで拝殿の前に立った。拝殿の檜皮葺きの屋根と山林の緑が重なっていた。針葉樹は深い緑を纏っていた。ここでも広葉樹は春の新芽を綻ばせていた。
春の陽光に包まれた境内は穏やかだった。陽光、春風、木々のざわめきに優しく抱かれているようだった。
剣奈の心の安らぎに満ちていった。剣奈が拝殿前に佇むと境内は水を打ったような清らかさが広がった。
剣奈は軽くご挨拶の一礼をした。そして財布からお金を取り出し、賽銭箱に静かにお供えをした。
剣奈はさらに深く頭を二回下げた。続いて手をずらして二度柏手を打った。そして手を合わせ直して合掌しながら瞳を閉じた。
剣奈は、まず、この地域に足を踏み入れさせていただくご挨拶と感謝、御礼を祈った。そしてダンジョン探検の成功を祈った。最後に玲奈の魂の行方の手がかりがつかめますようにと強くお祈りをした。
剣奈は手を静かに下ろした。そのまま深く一礼した。そして、祝詞の奏上を始めた。
掛けまくも綾に畏き
一石山神社に
鎮まり坐す
産土の大神たち
ことわけて
天照大神
稜威尾走命
大前に
恐み恐み
白さく
大神の高き尊き
大神威を
崇め尊び奉りて
今日の良日に拝み奉る状を
見そはなし給ひて
大神の大御幸を以て
禍事障り無く、穢無く
諸々の禍事も無く
夜の守 日の守に
恵み幸へ給へと
恐み恐み
白す
ビュウ
風が吹いた。剣奈の周りをキラキラと白黄の輝きが満ちているようだった。
「ん♡」
剣奈の身体に入り込んだ光が子宮を優しく撫でた。
古刀『こ、この白黄の光の奔流……清浄なる神気。剣奈は先ほどいただいたご加護をより強く、本格的に得たぞ!?』
白蛇『いまさらじゃのう。何を驚いておるか邪斬よ』
金狐『そうよ?天照様のご加護ならすでに淡路でいただいているじゃない?』
古刀『そ、そうじゃが!剣気の素ともなる太陽を司る天照。そして武の、剣を司る稜威尾走じゃぞ?興奮せずにいられようか』
白蛇『神々の御威光、幾重にも降り注ぎ、守護、ことごとく満ちる。大神たちの格別なる御慈愛を受けし小娘にはこれくらいでちょうどよかろうよ』
古刀『お主らは剣奈と繋がっておらぬからそんな悠長なことを言ってられるのじゃ。剣奈が身に宿る神気は、身体の奥深くまで沁み渡っておるのじゃぞ?昂揚、清浄、そして安寧。もはや畏れ多いほどじゃ』
巫っ子『クニちゃ?ダンジョン探索を前に興奮するのはわかるけどさ。ちょっと一旦落ち着こうよ。まだ今日の探索は始まったばっかだよ?』
白蛇『ほら見よ。小娘にとってはこれくらい日常茶飯事なのじゃ。何を取り乱しておる。愚かな』
古刀『いや、う、うむ。今さらじゃったかの……』
巫っ子『うふふ。一旦落ち着こう。「冒険に挑みし心はあくまで熱く、なれどその頭脳は氷河の如くあれ」お母さんの「冒険指針」の序の序だよ?』
古刀『ち、千剣破殿……』
――遠方より「監視オネエサンと番犬クン」
「この光景を見ると、あの娘、ほんとに神様に愛されてるって信じそう」中川が言った。
「神々しくも色気がある。引き込まれるようだ」風見がいった。
中川は少しジト目で風見を睨んだ。そして言った。
「ほんとにね」
中川はあまりに清らかな少女、そしてそれに同居する清洌な色気を感じた。そして、
(こんな娘が転校してきたんじゃ、男子たちはもうメロメロで釘付けね。そしてそれをみた女子の嫉妬は凄まじいでしょうね)
あまりに清らかなる剣奈をみた中川である。
そして……同性として……、
彼女が受けているイジメの本質をまざまざと感じた……




