第5話:アイドルの現実?2
その日、悠斗はいつものように掃除道具を手に聖奈ちゃんの部屋へ向かった。インタビューの「キラキラした部屋」発言を現実にするため、今日は気合が入ってる。ゴミ袋、掃除機、雑巾、そして聖奈ちゃんに褒められる妄想まで完璧に準備済みだ。
「よし、聖奈ちゃんの部屋をピカピカにして、『悠斗君、すごい!』って言われるシナリオ、いくぞ!」
ドアをノックするも、返事がない。
「ん? 寝てるのかな?」
LINEで「今から行くよ!」って送ってたから、聖奈ちゃんが留守ってことはないはず。少し不安になりつつも、ドアをそっと開けてみる。
「聖奈ちゃん、入るよ~?」
部屋の中は静かで、いつもならソファでスマホゲームしてる聖奈ちゃんの姿がない。
「どこだろ…?」
リビングを覗くと、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
聖奈ちゃんがソファに寝転がって爆睡してる。しかも、ただ寝てるだけじゃない。口からはよだれがダラ~っと流れ、Tシャツがめくれてお腹が丸出し。そして、右手でお腹をぽりぽり搔きながら、「う~ん…」と寝言まで言ってる。
「うそおおおおおおおおおおおおお!?」
悠斗のテンションが一気に爆上がり。
「何!? 何!? 何!? 聖奈ちゃん、こんな無防備な姿で寝てるの!? やばい、マジでやばい! 俺の推し、こんな可愛い寝顔してるの!?」
悠斗は掃除道具をそっと床に置いて、聖奈ちゃんに近づく。よだれがソファに染みを作ってるのも、お腹のぽりぽり音も、全部が愛おしくてたまらない。
「いや、待てよ…これ、アイドルとしてどうなの!? 聖奈ちゃん、インタビューで『キラキラした部屋』とか言ってたのに、このだらしない寝姿は何!? でも、逆に最高じゃん! 俺だけが知ってる聖奈ちゃんのリアルな一面じゃん!」
悠斗の頭の中で「推しへの愛」と「現実のギャップ」が高速で交錯する。スマホを取り出して写真撮りたい衝動に駆られるけど、「いや、それ犯罪だから!」とギリギリで理性が勝つ。
その時、聖奈ちゃんの寝息が一瞬止まり、突然――。
プーっ。
小さな音が響いた。
「え?」
悠斗が固まる。そして、次の瞬間、鼻を突く香ばしい匂いが漂ってきた。
「うそおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「聖奈ちゃん、おならした!? 俺の推し、おならした!? しかも、結構香しいやつ!?」
悠斗は一瞬現実逃避しかける。
「いや、幻聴だ! 幻覚だ! 聖奈ちゃんがおならするわけない! アイドルだよ!? キラキラの聖奈ちゃんがこんな…こんな庶民的な音出すわけないじゃん!」
でも、匂いは紛れもない現実。しかも、聖奈ちゃんはそのまま寝返りを打って、「ん~…ラーメン…」とか寝言を言いながら、またぽりぽりとお腹を搔き始める。
「ラーメン!? 聖奈ちゃん、夢の中でラーメン食べてるの!? それでおならしたの!?」
悠斗の脳内はカオス状態。でも、なぜかテンションは下がるどころかさらに上がっていく。
「やばい…聖奈ちゃんの人間らしさ、最高すぎる…俺、こんな聖奈ちゃんも愛せる…俺、聖奈ちゃんのファンとして最強じゃん…」
「ん…あれ? 悠斗君?」
聖奈ちゃんが目をこすりながら起き上がる。よだれを袖で拭きつつ、悠斗に気づいた。
「うわっ、聖奈ちゃん、起きた!?」
「ごめん、寝ちゃってた…掃除、来てくれたんだね。ありがと~」
聖奈ちゃんがニコッと笑う。その笑顔に、悠斗の心臓がまたバクバク。
「う、うん! 掃除するよ! 今からピカピカにするよ!」
「やった! じゃあ、私また寝るね~」
「え、待って! おならのことは言わないでいいの!?」
「ん? 何?」
「いや、なんでもない! 寝てて! 俺、掃除頑張るから!」
聖奈ちゃんはまたソファにゴロンと寝転がり、悠斗は掃除機を手に持つ。
「やばすぎじゃん…聖奈ちゃんのおなら、俺の宝物リストに追加だな…」
香ばしい匂いの中、悠斗はニヤニヤしながら掃除を始めたのだった。