第4話:理想のアイドル像?
この日、悠斗は珍しく自分の部屋でまったりしていた。聖奈ちゃんの部屋の掃除当番(勝手に自分で決めた)も一段落し、今日は自宅でテレビでも見ながらのんびりしようかとリモコンを手に取った。チャンネルをザッピングしていると、突然目に飛び込んできたのは――。
「うそ! 聖奈ちゃんのインタビュー番組!?」
画面には、スターダスト・プリンセスのセンター、星野聖奈がキラキラした笑顔で映っている。司会者がにこやかに質問を投げかけ、聖奈ちゃんが可愛らしい声で答える、まさにアイドルそのものの光景。悠斗は即座に正座してテレビに釘付けだ。
「やばい、聖奈ちゃんのインタビューなんてレアすぎる! 俺、録画しとこ!」
慌てて録画ボタンを押しながら、聖奈ちゃんの言葉に耳を傾ける。
司会者:「聖奈ちゃんのお部屋って、どんな感じなのかな?」
聖奈:「えっとね、私のお部屋はキラキラした感じだよ! ピンクとか白とか、女の子らしい可愛いインテリアでいっぱいで、いつもお花の香りが漂ってるの!」
画面の聖奈ちゃんが目をキラキラさせて答える。スタジオからは「わぁ~!」と歓声が上がる。
「うそおおおおおおおお!?」
悠斗はテレビに向かって叫んだ。
「キラキラした部屋!? お花の香り!? 聖奈ちゃん、何!? その設定何!?」
悠斗の脳裏に浮かぶのは、つい昨日掃除した聖奈ちゃんの部屋。洗濯物がソファに山積み、コンビニ弁当の空容器が転がり、床に散乱するティッシュ、そしてなぜか電池切れのサイリウムがクッションの下から出てきたあの現実。あれがキラキラ? お花の香りどころか、昨日は「カップラーメンの残り汁臭」が漂ってたぞ!
「いや、待てよ…聖奈ちゃん、アイドルだからイメージ守るために言ってるんだな。うん、そうだよ。俺が知ってる聖奈ちゃんのリアルな部屋は秘密ってことでいいよね?」
悠斗は自分を納得させようとするけど、内心ちょっとモヤモヤ。
「でもさ、俺が掃除してるから、いつか本当にキラキラした部屋になるかも! 俺、もっと頑張ろ!」
掃除への謎のモチベーションが湧いてくる悠斗。
司会者:「聖奈ちゃんはゲームとかするの?」
聖奈:「ゲーム? えっと…ゲームってなんですか?」
聖奈ちゃんが首をかしげてキョトンとした表情。スタジオが「可愛い~!」と沸き立つ。
「うそおおおおおおおおおおおおお!?」
悠斗は今度はソファから転げ落ちた。
「ゲームってなんですか!? 聖奈ちゃん、何!? 何!? 何!?」
昨日、聖奈ちゃんの部屋で「ねえ、悠斗君。一緒にゲームしない?」って誘われて、二人でコントローラー握ってたじゃん! しかも、聖奈ちゃん、めっちゃ上手くて、悠斗が「うわっ、聖奈ちゃん強すぎ!」ってボコボコにされてたじゃん!
「ゲームってなんですかって…聖奈ちゃん、俺と一緒に『スターダスト・レーシング』で3時間ぶっ通しで遊んでたよね!? 俺のマシン、聖奈ちゃんに10回くらいクラッシュさせられたよね!?」
悠斗はテレビに向かってツッコミを入れる。
「いや、待てよ…これもアイドルとしてのキャラ作りか? 『ゲームなんて知らない純粋な女の子』みたいな? うん、そうだよ。聖奈ちゃん、プロだもん。俺が知ってる聖奈ちゃんのゲーマーっぷりは秘密ってことでいいよね?」
でも、頭の中では昨日の聖奈ちゃんの「うっしゃ! 悠斗君、また勝った!」ってドヤ顔がリプレイされてる。
「やばい…聖奈ちゃんの二面性、最高すぎる…」
悠斗はテレビを見ながらニヤニヤが止まらない。
インタビューが終わり、聖奈ちゃんが「みんな、応援よろしくね!」とウインクして番組が締まった瞬間、悠斗のスマホに通知が来た。聖奈ちゃんからのLINEだ。
「悠斗君、今インタビュー見てたでしょ? 掃除の続き、よろしくね!」
「うそ、マジで!? 聖奈ちゃん、俺のこと見透かしてる!?」
悠斗は即座に返信。
「了解! 今から行くよ! キラキラした部屋にするために頑張る!」
「ふふっ、期待してるね!」
こうして、悠斗は聖奈ちゃんの「キラキラした部屋」という嘘を現実にするべく、また掃除道具を持って隣の部屋へ向かうのだった。
「やばすぎじゃん…でも、聖奈ちゃんのゲーマーな一面知ってる俺、ちょっと優越感あるな…」
ニヤニヤしながらドアを叩く悠斗だった。