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第3話:お花摘み

あれから数日、悠斗の生活は一変していた。なぜか毎日のように聖奈ちゃんの部屋に通い、散らかった部屋を片付けるのが日課になっていたのだ。この日も、悠斗は聖奈ちゃんのソファに山積みされた洗濯物をたたみ、テーブルのコンビニ弁当の空容器をゴミ袋に突っ込み、床に転がる謎のティッシュを拾い上げていた。

「いや、俺、何やってんだろ…」

内心そう思いながらも、手は止まらない。だって、目の前には聖奈ちゃんがいる。推しの聖奈ちゃんが、ソファに寝転がってスマホゲームをしながら、「悠斗君、ありがとね~」なんて言ってるのだ。

「いやいや、聖奈ちゃん! 俺、喜んで掃除してるから! むしろ感謝するのは俺の方だよ! だって、聖奈ちゃんの部屋にいられるなんて、俺の人生のボーナスステージじゃん!」

「ふふっ、悠斗君ってほんと面白いよね。ブログのテンションそのままじゃん」

「うそ、マジで!? 褒められた! 聖奈ちゃんに褒められた!」

悠斗は掃除の手を止めてガッツポーズ。ゴミ袋を持ったままキメ顔で聖奈ちゃんに振り向く。

「ちょっと、ゴミ袋持ってポーズしないでよ。臭いから!」

「うわっ、ごめん!」

慌ててゴミ袋を遠ざける悠斗。聖奈ちゃんがクスクス笑う姿を見て、またしても心臓がバクバクする。

「やばい、聖奈ちゃんの笑顔、マジで国宝級だわ…俺、このために生きてる…」

そんな幸せな掃除タイムの途中、聖奈ちゃんが突然立ち上がった。

「ねえ、悠斗君。ちょっとトイレ行ってくるね」

「え?」

悠斗の脳が一瞬停止する。

「トイレ!? 聖奈ちゃんがトイレ!? アイドルがトイレに行くなんて、そんなことあっていいのか!?」

悠斗の中で、聖奈ちゃんは「トイレに行かない聖なる存在」として神格化されていた。だって、アイドルだよ? キラキラのステージで輝く聖奈ちゃんが、トイレなんて俗っぽい場所に行くはずがない。汗だってキラキラ光る汗しかかかないはずだし、食事だって雲の上のレストランで天使の羽根付きのスイーツしか食べないはずだろ!

「いや、待てよ。人間なんだからトイレ行くよね…うん、行くよね…」

頭では理解しようとするけど、心が追いつかない。聖奈ちゃんがトイレのドアを開けて中に入り、ドアを閉める音が聞こえた瞬間、悠斗の耳に衝撃的な音が飛び込んできた。

シャー。

「うそおおおおおおおお!?」

悠斗は掃除の手を止めて固まる。

「シャーって何!? 今のシャーって何!?」

トイレから聞こえてきた、あの水が流れる音。いや、違う。あれは聖奈ちゃんが用を足した音だ。悠斗の推しが、聖奈ちゃんが、トイレで…!

「いやいやいや、幻聴だ! 幻聴に決まってる! 聖奈ちゃんがそんな音出すわけないじゃん! 俺の耳がおかしくなったんだ! 過労だ! 掃除しすぎて頭おかしくなったんだ!」

悠斗は必死に自分を納得させようとする。でも、次の瞬間。

ジャージャー。

二度目の水音が響く。

「うわああああああああああああ!」

悠斗は頭を抱えてその場にしゃがみ込む。

「現実!? これ現実!? 聖奈ちゃん、マジでトイレ行ってるの!? 俺の推し、普通に人間なの!?」

トイレのドアが開き、聖奈ちゃんが何事もなかったかのように戻ってきた。

「ふぅ、スッキリした~。悠斗君、掃除進んでる?」

「う、うん…進んでるよ…」

悠斗は震える声で答える。聖奈ちゃんはニコッと笑ってまたソファに寝転がり、スマホゲームを再開。

「やばい…俺、聖奈ちゃんのトイレ音聞いちゃった…俺の推し観、崩壊した…いや、でも待てよ。逆にリアルでいいじゃん。人間らしい聖奈ちゃん、最高じゃん!」

「ていうか、聖奈ちゃん、手洗った?洗ってないよね?汚いよ!」

頭の中で葛藤が渦巻く悠斗。結局、聖奈ちゃんの「ありがとね」の一言で全てが吹っ飛び、また掃除に励み始める。

「ねえ、悠斗君。終わったら一緒にゲームしない?」

「うそ、マジで!? 聖奈ちゃんとゲーム!? やる! 絶対やる!」

「やった! じゃあ、私の部屋片付けてね!」

「了解!」

こうして、悠斗はトイレ音の衝撃を乗り越え、聖奈ちゃんとの距離をさらに縮めていくのだった。

「やばすぎじゃん…でも、なんか幸せだな…」

掃除しながら、悠斗のニヤニヤが止まらない。

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