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2 奇妙な同棲生活

 涼子は喪服を脱ぎ始めた。

 下着だけになる。

 白くてきめ細かくて、柔らかそうな涼子のおへそまわりの肌・・・。


 なんで・・・?

 こんな姿を俺に見せる?

 これは・・・アピール?

 それとも・・・。俺は男のうちに入ってないってこと?

 俺だって、健康な10代の男子だぞ?


 俺は目のやり場に困って、床のフローリングへと目を逸らした。


 もう・・・着替え終わったかな・・・?

 しばらくして視線を戻すと、着替えは全く進んでおらず、さっきの状態のままで涼子がこちらを睨むように見ていた。


()()()、って言ったでしょ?」

 泣きそうな顔になる。

「わ・・・わかった、わかった。ちゃんと見てるから。」


 これはどういうシチュエーションなんだ?

 あ、もしかして・・・。

 両親をいっぺんに亡くしたショックで、少しおかしくなってるんだろうか?

 そうかもしれない。

 ここはちゃんと涼子の希望に沿ってやらなければ・・・。


 涼子は薄いTシャツの上に大きめの綿のシャツを羽織り、柔らかめの生地のカーゴパンツに片足ずつを上げて通した。

 あわわわ・・・! パ・・・パンツが・・・。

 ジッパーをシャッと上げる。

 ふっくらとした涼子の下腹部を包んでいた下着が見えなくなった。


 ちょっと惜しいかも・・・。

 ・・・・・・

 おいこら! 俺! 何を考えている?

 傷心の従兄妹に寄り添ってやらねばならないというのに。



 俺は着替え終わった涼子に、うちに来ないかと言ってみた。

 こんな状態の涼子を1人で置いておくわけにはいかない。親父も納得してくれるだろう。


 涼子は嬉しそうに、こくっと頷いた。

「ありがとう、お兄ちゃん。」


 そして、その日の午後から俺と涼子は1つ屋根の下で暮らすことになった。

 とにかく涼子は何かにつけて見ててほしいと俺に頼んだ。

 独りにしないで——と。


「ベッドは俺の使っていいから。俺は親父のベッドで寝るから。」


「お兄ちゃん、一緒に寝て。」


「へ?」


「手をつないでるだけでいいから・・・。」


 涼子は本当に俺のベッドにもぐり込んできた。

 どう対応していいのか困惑しながらも、子どもの頃みたいに手をつないでやる。

 涼子は俺の隣で、すぐに安心したようにすーすーと寝息をたて始めた。


 なんなんだ? これは・・・。


 いや・・・

 疲れてたんだな。

 無理もない。


 そうか・・・。と俺は得心した。


 涼子は今、子ども返りしてるんだ。

 両親をいっぺんに失って・・・。

 ()()()()()だけを頼りに、保護を求めてるんだ。

 だから、いつも「見てて」——と。


 だったら俺は・・・、守ってやらなきゃ。


 ()()として、この子を———。涼子を。

 ・・・・・だぞ?



「う〜〜〜。さすがに、もうお風呂入りたい。」

 奇妙な同棲を始めて2日目に、涼子はちょっと自分の胸元をくんくんしながら言い出した。

「うん。いいよ、使って。お湯張ってゆっくりしな。」


「扉開けておくから見ててね。」


「は?」


 いや待て! それは・・・・


「それか、一緒に入る?」


 な・・・なんだって?


「あはは。赤くなった。お兄ちゃん、かわいい!」


 か・・・揶揄(からか)われてるのか?

 お・・・俺は・・・、涼子の気持ちがわからない!

 これは誘っているのか?

 それとも、俺を男として見ていないのか・・・?

 

 いや・・・。子ども返りした涼子が、独りになるのを怖がっているんだ。

 そうなんだ。そうに違いないんだ!!


 涼子は俺の目の前で服を脱ぎ始めた。

 今度は()()()じゃない。


 涼子は一糸纏わぬ姿で(風呂に入るんだから当たり前だが)シャワーを浴び始めた。

「はあ——、気持ちいい。生き返るわぁ。」


 大学の友人どもに何を言われようと俺はもう動じないが、一番の心配は、俺の理性がいつまでもつか——ということだった。

 俺は、耐えきれずに目を逸らした。


 シャワーの音が変わったように感じた。

 誰かが浴びてるような音じゃなく、シャワーだけが床に当たっているような音。

 まるでシャワーの前に誰もいないみたいな・・・。


 まさか・・・・!

 いや、そんな・・・。

 あれから、3日も経ってたんだ・・・。

 俺は、涼子を連れて帰る時・・・。家の奥まで・・・涼子の部屋までは、確認しなかった・・・。


 まさか・・・。本当は、涼子はすでに・・・・

 俺は湧き上がってくる恐ろしい考えに、猛烈に不安になって目を上げた。


 涼子はちゃんとシャワーを浴びていた。

 ただしこっちを睨んでいる。


「今、目を離したでしょ。」


「いや、その・・・だって・・・」


「ちゃんと見ててよ。」

 また泣きそうな顔になる。

「お兄ちゃんにしか頼めないんだから。」


 なんなんだよ、いったい?


 風呂上がりに涼子は居間のテーブルの前に座ってパソコンを開いた。

 基礎物理のレポートの提出期限が明後日に迫っているのだ。


「こっちに来て、横に座って。」

 涼子がねだってくる。

 俺がパソコンを持って隣に座ると、涼子は火照った肩を俺にくっつけてきた。

「こうしてたら、ずっと見てなくても大丈夫だから。ずっと見てたら、お兄ちゃんレポートできないもんね。」


 どういうことだろう?

 いや、それよりレポートやんないと・・・。


『シュレーディンガー方程式により導かれる解釈について述べよ』

 難しい課題だ。

 はっきり言って、俺の頭じゃ手に余る。

 涼子はすでに、カタカタとパソコンのキーを打ち込んでいる。

 子ども返りしてても、涼子はやっぱり頭がいい。


 涼子の柔らかい肩が気になる。

 その肌の温もりが、涼子の存在が、俺の気を散らしてしまう。

 が、こうしてくっついていてやらないと涼子は不安に怯えてしまうらしいのだ。

 うう・・・・

 レポートに集中しなければ・・・。


 俺は量子力学の基礎的な叙述を並べて整理してみることにした。

 とりあえず、それを適当に並べてつなぎ合わせて・・・「不可」だけ避ければいいのだ。

 いわく、量子は粒子と波動の2つの性質を持つ。

 いわく、観測されなければ量子は存在しない・・・


 ・・・・・・・・・


「なあ、涼子。おまえ・・・」

 俺は妙なことに気がついて涼子に話しかけた。

「なあに、お兄ちゃん?」

「涼子の涼の字って・・・もしかして、当て字?」


「なんでわかった?」



実は最初、ここまでの短編のつもりだったんですが・・・。

先を書いたら面白そうだと思って。。(^◇^;)

第3話に続きます。(`・ω・´)

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