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魔王国の宰相 最終篇  作者: 佐伯アルト
Ⅻ 原初の神-Re 〈救世の刻〉
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2節 迎撃準備−Re ③

 四大国会議より、四日後。


「ただいま戻ったぞ」

「それでは、私たちの番ですね」


 修行を終えたベリアル達と入れ替わるようにして、遂に彼女達の番が来た。特訓予定の全員とマリナは既に揃っており、準備は終わっている。


「水神への催眠は無事にできたようだな。呼び戻されなかったし、何となく分かってはいたが」


 水神への催眠については、恙無く終了している。今、彼女は移動しておらず、眷属達の動きも鈍い。想定通り、時間稼ぎができそうだ。


「修行の成果はどうなの?」

「バッチリだよぉ! 僕ら、前よりずっと強くなってる。向こうの環境、思ってたよりもずっと良くてさ……まあ、行ってみればわかるさ」


 僅か一ヶ月でも劇的に強くなれる。それだけのものがあったのだろう。否が応でも期待が高まる。とはいえ、彼らにとっては暫く仕事のことを気にしなくて良かっただけでも十分だったのだろうが。


「現在の状況についての書類をいただけないかな?」

「はい、こちらです」


 進捗は、多少の前後こそあるものの、計画通りである。受け取り眺めたエリゴスは、満足そうに頷いた。


「なあ、エイジ。途中でこちらに顔を出せたりはしないのか?」


「いや、無理だ。催眠を維持するには結構集中力が必要でな……あまり気を抜くことはできないし、長い時間睡眠を取ることもできない。そんな状況で、次元を超えでもしようものなら、その瞬間にアウトだ」


「じゃあ、解けてしまったらいいから……その時は、だな」


 遠慮がちなカムイが言いたそうなことは何となくわかる。長いこと、ゆっくりと睦み合うことができていない。準備期間で一週間、エイジは知らないが記憶を引き継いででいる分更に二週間だ。特訓と水神との決戦も含めれば三ヶ月強会えない。その寂しさがあるのだろう。


 それは、彼にとっても同じだ。以前の二週間、遡行後の計画立案でまた二週間、更に今の準備期間と彼女達の修行期間も合わせて三週間程。その後に自身の修行も控えていると思うと、三ヶ月は触れ合うことができない。


 だが。それでもエイジは渋るような表情を見せる。なぜなら……目の前にいる彼女達は、自分の知っている者と__守れなかった者と同一人物ではないと感じているからだ。彼はまだ、皆が記憶を得たことを知らない。だから、マリナ以外には未だ距離がある。そんな精神状態では、親しくすることに抵抗があった。


 そんな彼、彼女らを見かねたベリアルが助言を送る。


「エイジよ、根の詰めすぎは良くないぞ。大方、以前の失敗の際も、終焉を前にして余裕を失っていたのではないか? 多少はゆとりを持った方がいいからな、気を休める時間も必要だろう。特に、愛する者と接することは、大きな安心感を与えてくれるはずだ。と、まあ理屈っぽくなってしまったが、私もお前の思い詰めた表情は見ていられないのだ」


「……まあ、そこまでおっしゃるのなら」

「うむ、反故にすることは許さんぞ。破るようなら無理にでも連れてゆく」


 ベリアルによって確約されると、楽しみが一つ増えたとばかりに皆の表情が明るくなる。そんな顔をされては仕方ないとばかりに、エイジも少しだけ口角を上げた。


「じゃあ、行って参りますわ!」

「強くなって帰ってくるから、期待しててねぇ」


 ベリアル達の時と同じく、円になる。そして、彼へ出立の挨拶をすると、神域へと移動した。



「ん……何、ここ。着いたの?」

「何も、ない? 不気味ですね……」

「わっ、真っ白〜」

「殺風景にも程があるわ。ずっとここにいたら飽きそうね…」


 目を開けると、辺り一面が眩しい程に真っ白。見慣れぬ光景に戸惑っていた。


「もう手を離しても大丈夫だよ?」

「あっ……ごめ…なさい」


 その不安から、ついユインシアはマリナの手を強く握ってしまっていた。


「で、これからどうするのかな?」

「ふっふふふん」


 マリナがパチンと指を鳴らす。すると、景色が一変した。


「ここは……魔王城の修練場ね?」

「うん。ここなら慣れてる場所だし、落ち着くでしょ?」


 その視界の先、中央には布を被った何かが十体存在していた。


「あれは何ですの?」

「君らのお目当てさ」


「なあレイエルピナ、あれってまずどうすりゃいいんだ?」


「まずは一式装着する必要があるわ。サイズが合ってるか確認して……それから魔力を流せば起動する。プログラムが正しければ、そのあと初期設定メニューが出てくるから、その通りに弄ればいいはずだけど……」


「ああ、それなら大丈夫。既に検証してあるから」


 その発言に吃驚して、レイエルピナが弾かれたようにマリナへ振り向いた。


「前、エイジくんが入った時に僕も一緒に入ってさ。使い方教えてあげてた時に、完成したやつを一緒に動作確認したんだぁ。その時にコードの入力と修正をしたから、問題ないはず。まあ、この分野は君たちのが強いんだろーから、細かいところはお任せするけど」


 レイエルピナとユインシアの方を見る。プログラム設計したのは彼女達なので、コードについてはエイジと同等以上に詳しい。不足やバグなどは何とかしてくれるだろう。


「あ、そうそう。その時、前設計されてた時より多くの技術とか盛り込めるようになったからって、エイジくんが設計図描き直してたから、君たちが知ってるものより高機能になってるよ。仕様書あげるから、確認しといてね」


「そうか。では早速__」

「ちょおっと待ったぁ!」


 いざ対面、の前にマリナが呼び止める。


「どうしたんだ?」

「それより前にやるべきことがあるのさ」


「というと?」

「先に……魔族化しておくべきだと思うよ」


 お互いに顔を見合わせ……マリナが注目される。


「それはどうしてかな?」

「魔族化すると、ほら、魔力の質が変化するでしょ?」


「ああ、先に設定してしまうと、後で魔力が変化した時に動作不良を起こしてしまうかもしれませんね」

「そゆこと〜」

「なるほど!」


 マリナの話は筋が通っている。理屈に納得すると、まだ話すことがありそうな彼女を促す。


「何になりたいかは、もう決めてあるんでしょ?」

「すぐにできるのですか?」


「うん。ノクトやフォラスから研究データもらってるからね。エイジくんが持ってるやつのコピーなら簡単。なかったとしても、僕なら簡単に取り寄せられる」


「なら、わたくしは先にあちらを__」

「おや、本当にいいのかな?」


 シルヴァ、モルガン、ダッキら既に人外の面々は自分には関係ないだろうと装備に手を伸ばしたが。マリナの発言にピクリとする。


「どういうことぉ?」

「種族は一つでいいのか、ってこと」


 思いもよらぬ提案に、三人は黙する。


「まあ、時間も限られてるし、極めるのは一つがいいと思うけどね……一応、さ。あ、もちろん他のみんなも」


 その提案に、皆も思案する様子を見せる。だが、彼女らに与えられた時間は少ない。テミスが一歩踏み出した。


「もう一つ、は置いておいて。私は既に、なりたい種族を決めてあります。二つ入れるとなると、身体への負担も大きいそうなので、まずそちらをお願いします」


 それに続くように、意を決した面持ちで皆が並ぶ。


「……わかった。じゃあ、種族の要望を教えて。それと、もしもに備えて、封印能力を使えるようにしておいてね」


 彼女の忠告を聞き入れると、順になりたい種族を伝えていった。



   ***


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