2節 迎撃準備−Re ②
四大国会談後。魔王城円卓部屋。
「あー、緊張した……」
エイジは帰るなり、ぐったりしていた。
「おやおや。神にすら並ぶ力を持つ一国の為政者ともあろうものが、今更緊張なんてするのか?」
「いや、彼ら王様なだけはある。ああいう場での貫禄とか、プレッシャーとかすごかった」
そんな彼を、カムイが茶化すようにしながらも労っていた。
「さて。この後は、私たちが入るんだったな」
「はい。ベリアル様含む男性幹部がこれより四日間、約一ヶ月分の特訓をしていただきます。あの間に、私が水神に催眠をかけます。帰って来られる頃には、結果がわかるでしょう」
エイジが二日間、つまり二週間分の修行と計画立案を終えた。その次の二日で、各大国元首への呼び出しと同盟結成を行い。それを終えた後の四日間はベリアル、レイヴン、ノクト、エリゴスが修行をする。
「その後に、わたしたちね」
「ああ。現時点で四日経ってて、ベリアル様達の四日で、丁度一週間。その頃には、君らの装備も完成しているだろうよ」
「そして、私達は一週間修行……少し長過ぎじゃありませんか?」
「装備のチューニングに、魔族化への慣れ。それから、新たな連携。やることはかなり多いはずだが、余分か?」
「……いや、確かにそのくらいは必要だな」
彼女達に与えられた時間は、約二ヶ月。最も強化幅が大きいだけに、必要とする時間もかなりの物になるだろう。
「水神が目覚め、魚共が防衛線に着き始めたら、最後にもう一度オレが入る。そして、およそ四日間、向こうで一ヶ月修行をしたのち、一気に片をつける」
それがエイジの立てた計画。期間にして二十日である。本来の水神出現から第一陣襲来までの一週間、催眠による遅延で更に一週間、そして交戦開始から水神が半島東端に到着するまでの四日間。催眠による時間は飽くまで目安であり、失敗の可能性も考慮して一週間後には一周目と同様に最低限の迎撃準備を終えられるよう組み立てた。
「この計画が上手くいくかどうかは……明日のオレ次第」
時間跳躍による歴史改変の影響が最小限、つまり同条件であれば、明日頃に水神は目覚めるはずだ。その直前後の隙を狙い、転移で近づいて催眠をかける。修行によって九割の力を扱えるようになった。十割の力でも、暴走はしない。何とかなるはずだ。
「つーか、思ったんだけどよ。計画の最後、対話の時に近くまで瞬間移動で行くっていうのはどうだ?」
「いや、出来ない。奴の周辺は干渉の影響が強くてな、千里眼は不安定だし、転移も阻まれる可能性がある。転移は失敗のリスクが高すぎるんだ、博打はしたくない」
最後だけはどうしても、自らの足で出向かなければならない。だからこそ、道を切り開いて貰うために、皆の力を鍛えたいのだ。
「そうなのか……因みになんだが、今回は石油タンカーや原爆を使うのか?」
「⁉︎ 何故知ってる!」
「マリナから聞いたんだ。やるなら早めがいいと思うぞ?」
カムイの口から出た言葉に驚く。エイジは、彼女たちも二周目だということを知らないのだ。
「……いや、今回はオレたち自身の力だけでやろう。前回は、相手が未知数だったが故にやったが……今回は何としても存続させる以上、今後に影響が出そうなことはしたくない。ただ、敵の侵攻を遅延させるために、地形の変動はさせといた方がいいだろうな」
「あっ……それなら私が……前の半分くらいまで、やっておきました……」
「本当か⁉︎ すごいじゃないか!」
「え、えへへ……」
「……けど、なんで前の半分ってわかるんだ? マリナのやつ、そんなとこまで具体的に知ってたのかよ」
「ッ……あっ、えっと……そ、の…………」
並行世界の記憶については、話さないことにしている。マリナに内緒にしてくれと頼まれたからだ。それとなく詰められているユインシアに助け舟を出そうと、テミスが動く。
「帝国については、今回も同じように私が行ったほうがいいですか?」
「まるで実感があるような言い方だな」
「……気のせいです」
焦ってボロが出た。喋るたびに何らか漏らしている。というか、もう彼は察してしまったのかもしれない。
「っと。そうだエイジ、これを。催眠維持がどれほどキツイのか俺には分からんが……できるようなら、これを頼む」
「吾からも、コレを」
その時、レイヴンとエリゴスから紙の束を渡される。彼らの部門の計画書だ。部下達に委ね動いてもらってはいるのだろうが、責任者の立場を引き継いでもらいたいらしい。
とはいえ、前回ならば、この頃には既に先遣隊は軍を展開していた。それだけのことはあって、下地はもう出来上がっている。滞りのある部分部分に対処していれば済むことだ。
今回、現在の状況は、まだ部隊編成や訓練等をしている段階であり、ほとんど人も物資も移動していない。随分ゆっくりではあるが、余裕があることは分かっているので問題ない。寧ろ足並みが揃い、練度も上がる分、前よりはいい戦いができるだろう。
「ところでさ、神域までってどう行くのん?」
「マリナに送ってもらう。一昨日帰ってきた時に計画を伝えておいたから、そろそろ来てくれるはずだ」
その発言の直後、マリナが扉を開けて入ってきた。
「お待たせ。準備できてる?」
「うむ、あとほんの少しで終わる」
ベリアルも書類をエイジに渡し、どこかに連絡を取ると戻ってきた。
「では、行ってくる。エイジよ、私たちの留守を頼む。吉報を待っているぞ」
「はい、行ってらっしゃいませ」
五人は手を繋いで円になると、修行場に向けて転移していった。
「さてと、じゃあオレは__」
「寝た方がいいんじゃないか? 明日は一世一代の大仕事があるんだろう」
「お休みになられている間は、わたくし達が仕事をしておきますわ」
「そうだな。じゃあ、そうさせてもらおう。おやすみ」
ベリアルらを見送った後は解散し、仕事に取り掛かったり、休んだりと各々すべきことに取り掛かる。運命を決める転換期は、すぐそこに迫っていた。






