プロローグ:遡行
「権能、起動」
体が光に包まれる。過去の世界は、しっかりとその目に捉えていた。そして遂に、意識の時間遡行が発動する。
「行こう、過去へ……」
体が浮遊感に包まれ、エイジは目を閉じた。
ふと、引き上げられていく感じがして、その感覚に目を開けると__周囲は不思議な光景だった。星間航行をしているかのように、幾つもの輝きが後方に向けて凄まじい速度で流れていく。その輝き一つひとつは、よく見れば、現在から遡行地点までに起こった事象の風景だった。
その向かう先に、一際大きな光が見えた。周囲を流れゆく光を、無かったことにして。望むべき過去に向け、手を伸ばした。
「__空を泳げるといっても、山を越えるのは易くないだろう。よって、その群れの大半が__」
気付くと、そこは見慣れた会議室だった。ベリアルがいて、幹部達がいて。そして、愛しい恋人達が、自分を見ていた。
「……」
それを認めた瞬間。すっ……と涙が流れる。
「どうした?」
彼の様子がおかしいことに気づいたベリアルが、心配そうに問いかける。
「い、いや、なんでもない。どこまで話したっけなー」
つい呆けてしまったが、まさか何があったかなど話せるわけもない。慌てて取り繕うように話を続けようとしたところで__
「……未来で、何があったの」
「ッ!」
レイエルピナが勘付いたのか、鋭い指摘をする。それで彼の違和感の正体に気付いた者たちも、彼の瞳を見る。一部のいまいちピンと来ていない者たちも、それに倣う。
「参った……君達に隠し事はできないな」
彼女たちだけには、最後の能力について教えてある。それ故だろう、何があったか見抜けたのは。
エイジは力無く椅子に身を投げ出すと、項垂れながら話し始める。
「分かった、話すよ……未来で、何があったのかを」