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9 男の本音と壊れる愛

「さて」


 キャリーに次いで、バリーが口を開く。今の状況では自分にとって嫌な事を言われると分かっているハワードは頬を引き攣らせて、バリーから離れようとした。正直に言えば逃走したいのだが、談話室(サロン)の入口の所に丁度キャリーバリーやアンドレア・アンジェリアが立っている事から、ハワードには逃げ場がなかった。


「ハワード・ピンクサファイア令息。あんた、グリーントパーズ嬢以外にも複数女を抱えてたな? ああ、嘘だとか言わなくていいぞ。ちゃ~~~んと調べてあるからな。しかもそのほとんどは、グリーントパーズ嬢みたく立場の弱い家の令嬢ばかり……令嬢たちの中でお前の評価がどうだったかは知らないが、令息の中では悪名高かったよ。お陰で調べるのは簡単だった」


 ベラは泣きながらハワードを呆然と見ていた。当のハワードはベラなど見ておらず、アンドレアの方を見て必死に首を振っている。まるで、自分は無実だと主張しているかのようだった。


「あんたは直接アンを傷つけたわけじゃない。でもな。そもそもはあんたが綺麗にグリーントパーズ嬢と別れてれば、相手に真摯な対応でもしていれば、話は違っただろうさ。この問題の根本は、先走ったあんたがいい加減な事をグリーントパーズ嬢に言った事なんだからな。……お前、周囲の令息たちに、言ってたらしいな? 同格の家の娘と婚約が決まった。相手が自分の所に嫁いでくるんだってな。相手はサンセットサファイア子爵家の令嬢だって。…………お前の親、本当にそんな言い方したのか? 違うと思うけどなぁ。だってサンセットサファイア様には婚約者()()はいらっしゃるが、正式な婚約者はいないんだからな」


 バリーの言葉は普通の話すぎてアンジェリアにとっては何一つ驚く事ではなかった。

 だがハワードとベラは明らかに信じられないという顔で、バリーやアンドレアを見ていた。その事に、アンジェリアは内心、驚いた。だってこの部屋で、さっきアンドレアはアンジェリアに対して、ハワードの事をこう説明していた。


 ――「この男は私の婚約者()()()()()よ、アンジェリア」


「こう、ほ? 私と貴女は婚約者になったはずでは、アンドレア」

「呼び捨てにしないでくださる? 親しいわけでもあるまいし」


 親しくないのであれば、家名で呼ぶのが普通だ。

 アンドレアはキャリーとバリーの事を「マクドナルド嬢、マクドナルド卿」と呼ぶし、逆に双子はアンドレアの事を「サンセットサファイア様」と呼んでいる。こうした呼び方はむしろ学院内ではその呼び方が一般的だろう。


 勿論、親しくなれば名前(ファーストネーム)で呼び合う事だってある。

 アンジェリアはキャリーとバリーを名前で呼ぶし、二人はアンジェリアの事を敬称なしで「アン」と呼んでいる。とはいえ後者のような敬称もない呼び方は、かなり親しい関係にならなければ失礼に当たる。


 アンドレアの言葉に、ハワードは顔色をなくす。


「俺が聞いた話じゃあ、サンセットサファイア様には今、いくつか婚約話が持ち上がっている。あんたはその候補の一人でしかないわけだが……サンセットサファイア様。こんな、恋人を複数持つような男と婚約なさるのですか?」

「まさか。お父様とお母様にはこの件を報告するわ。……お父様は、姪であるアンジェリアの事も可愛がっているの。アンジェリアをこんな事に巻き込んだのだもの。それはもう、当然…………ねえ?」

「だ、そうだ。ま、実際の沙汰はお前の親次第だろうが、少なくともこの婚約話は立ち消えだろうな」


 ハワードはその場で俯いて蹲って、頭を掻きむしる。小さく何かを言っているが、もはやバリーの言葉は聞こえていなさそうだった。


「は、ハワード、様」


 ようやっと泣き止んだベラは、そう恋人の名前を呼んだ。その瞬間、ハワードは顔をあげた。


「お前のせいだ!!」


 勢いよく跳ねあがったハワードがベラに襲い掛かろうとしたのを、すんでの所でバリーが押さえつけて止めた。バリーに押さえられながらも、ハワードは体を大きく動かしながら、ベラを睨む。目が充血して、ハワードが正気でないのがよく分かった。


「お前みたいな、爵位もない、学もない、顔と体ぐらいしか使えない女が、俺の正妻になれるわけないだろうが!!! 優しくしてやったってのに、調子に乗って余計な事を!!!」


 その場のハワード以外の全員が、彼の物言いに顔を歪めた。

 ベラは目を見開いて恋人を見つめた。


「わた、私の事、好きだって」

「顔が良かったから遊び相手に丁度良かっただけだ!!!」

「そんな。そんな……」


 ベラがまた泣き出す。それを黙って見ていたアンドレアは、キャリーの方を見た。


「マクドナルド嬢。アンジェリアを連れて、教職の方をどなたか連れてきてくださいな。可能であれば、男女両方がいると良いわね」

「かしこまりました」


 キャリーはアンジェリアの手を引いて、談話室(サロン)から出て行った。アンジェリアは泣き崩れるベラに同情した。

 全く知らない(アンジェリア)を脅して、暴力を振るってまで取り戻したいと愛していた男から、全く愛されていなかったなんて……そんな悲しい事が、あるなんて、と。

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