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8 話は戻って

「この男は私の婚約者候補の一人よ、アンジェリア。そして貴女を襲った女は、この男が親しくしている女で、男と私の婚約話が持ち上がった時に別れを切り出されて、逆恨みで私に攻撃的になり――貴女と私を間違えて、貴女を襲っていたの」

「はあ」


 アンドレアの説明を聞いたアンジェリアは、気の抜けた声を出すしか出来なかった。


 キャリーから、アンドレアからの指示だから来てくれと言われて着いて行ったら、目的地だという談話室(サロン)の前にはバリーとピンクの髪をした令息がいた。令息はアンジェリアを見て顔を一度輝かせたが、すぐに怪訝そうな顔になる。だが彼が何かを言う前にバリーが低い声で「もう一度説明が必要ですか?」と釘を刺したらしく、黙った。

 その後耳を澄ませていれば、どうにも中にはアンジェリアを二度も襲った令嬢とアンドレアがいると分かり、慌てて部屋に入ろうとするもキャリーに止められて……それから二人の会話は聞いたし、その後も、部屋に入ってからアンドレアの語る経緯も聞いた。


 聞いた結果の感想が「はあ」である。というか、それしか言えなかった。


「貴女の怪我は私のせいでもあるわ。本当にごめんなさいね、アンジェリア」

「アンドレアのせいではないでしょう? 流石に、これは」


 確かにアンドレアと勘違いされて襲われたわけだが、婚約話を始めたのはアンドレアの親だし、アンドレアは婚約者候補であるハワードに恋人がいた事も、恋人と別れる話がうまくいっていない事も、知らないでいたわけで。

 身内贔屓上等だが、アンジェリア的には今回の騒ぎで悪いのは、綺麗に別れられなかったハワードと、怒りを新しい婚約者に向けたベラの方が悪いと思っているので……謝られたって困るのだった。


 落ち着いているアンジェリアと違って、ベラとハワードは狼狽えているままだった。


「人違い? なら私がしてきた事って、何?」

「違うのです、この女が勝手にした事で、私はなにもしていないっ!」


 ベラはその場にしゃがみ込み、ハワードは必死にアンドレアの足元で無罪を主張した。


 アンドレアは感情の読めない目でハワードを見下ろしてから、手に持っていた扇で左右のキャリーとバリーを指す。


「貴方がた。言いたい事がありましたら、言ってよくってよ。この場での発言は、私が責任を持ちますので」

「ちょっとアンドレア」


 アンジェリアの制止を振り切り、キャリーとバリーはニコリと笑顔を浮かべた。その笑顔は、幸せで浮かべる笑顔ではなく、むしろ攻撃的な笑顔だった。


「それは有難いですね。ではベラ()の方には私が」

「……仕方ない。本当は俺もそっちがしたいんだけど、キャリーがやるってんなら、ハワード()の方には俺が」


 口火を切ったのはキャリーである。


「まずベラ・グリーントパーズ嬢。貴女、貴族にしては政略結婚というものを分かってないようね。恋人にある日突然振られてしまうというのは同情の余地はあるかも知れないですけど? でも貴族の身分は親から持ってない私たちですら――平民ですら、家や仕事の都合で結婚させられる事はありますっていうのに、政略結婚する事になった怒りを、恋人の婚約者候補に押し付けるなんて馬鹿ですわ。本当にハワード・ピンクサファイア令息と一緒になりたいのであれば、彼を説得し、彼の家族を説得するのが遥かに重要だったでしょ。その上、相手を言葉で説得するでもなく、初手暴力? ばっっっっっっっっかじゃないの!? 泣きながら言葉で相手を責めでもすれば、悲劇のヒロイン染みて貴女の味方をする人だって出てきただろうに、初手暴力! もう誰も貴女の味方なんてしないわよ。なんて恐ろしく馬鹿なのか! あとご自分の行動が周りにどう見られてるか知ってます? 噂の管理も殆ど出来ないようでは、大きくないとはいえ子爵夫人になったら苦労しますから、どちらにせよ向いていないのでは? 成績も調べましたけど、あまり良くないですね。成績は悪い、コミュニケーション能力でそれをカバーする事も難しい、では貴族夫人は夢のまた夢ですよ。せめて成績を改善するか、周りの噂をよく知ってある程度コントロール出来るぐらいになった方が良いと思いますよ」


 口をはさむ隙もない怒涛の勢いで喋ったかと思えば、ニッコニコだった笑顔が一瞬で消えた。


「――っていうのは全部どうでもよくって。私はね、貴女の雑でザルな調べ物のせいで、大事な親友が殴られたあげく突き飛ばされたってのが一番許せないのよ!! アンの事を傷つけた落とし前、きっちりつけなきゃ絶対に許さないわよ!!!!」

「ヒッ」


 貴族たちの一枚包んだ言い方ではない、ストレートな怒りに、貴族の端くれだったとはいえ温室育ちだったベラは耐えられなかったらしい。その場で泣き出してしまった。泣き声嗚咽に時折、「ご、ごべんなざい」と言葉が混じっていて、もう、なんだか哀れだった。

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