10 おわり
食堂でアンジェリアはいつもの如く、キャリーやバリーと食事を取っていた。直前の授業が同じであったり、食後の授業が同じであれば、こうして食事を共にする事は特に多い。
「そういえばアン。あの二人、結局どうなったの?」
「おいキャリー」
「バリーだって気になるでしょーが!」
キャリーからの質問に、アンジェリアは咀嚼を終え口元を一度拭ってから答えた。
「私が知っている範囲ではあるけれど……とりあえず、アンドレアとピンクサファイア令息の婚約話は消えたみたいね」
「それはそうよねえ。グリーントパーズ嬢だけじゃなく、あんなに遊んでる男じゃあ……」
「そこは別にどうでも良かったみたい。婚約に向けて関係を清算しようとはしていたし……」
「え。そうなの!?」
「うん。それよりも親からの説明をちゃんと理解できていなかったり、すぐ話を大きくしてしまったり……後、別れる時に綺麗に別れる事すら出来なかった事が許せなかったみたいで……。もし綺麗に別れられていたら、私が襲われる事もなかっただろうからって。下手に別れてあんなに拗れるぐらいなら、最初から堂々と愛人として囲う度量ぐらい見せて欲しいものねって言ってた」
「うわぁ~~お……」
「俺たちにゃ分からんわ、その考えは……」
アンジェリアも、アンドレアの、愛人囲ってても構わないというスタンスはあまり理解出来ない。ただ、自分の親のように純粋に愛し合っている夫婦はそこまで多くないという事は理解していたので、アンドレアの言葉にどうこう言うつもりもない。
「それで、グリーントパーズ嬢の方だけれど……私に対する暴力行為だけは、伯父様が許せなかったらしくて……私の両親と連名で、グリーントパーズ嬢のご両親に慰謝料を請求したわ。ご両親もすぐ払うと同意してくださったわ」
「……それで終わり?」
「ええ」
「もっと重くふっかけてやってもいいんじゃないか。頬を打たれるわ、突き飛ばされて足首を痛めるわ、散々だったじゃないか」
バリーの言葉にアンジェリアは困ったように眉を寄せた。
「そうは言うけれど……ほら、ピンクサファイア令息ってば酷かったじゃない。あんな事を言われてるのを見たら、ね……」
「だけどよ」
「バリー。アンがこれで良いって言ってんだから、止めなさいよ。あんたはアンの恋人でも家族でもないんだから、流石に口出す権利はないって」
「…………」
「心配してくれてありがとう。一応、私やキャリー、バリーたちにも関わらないようにって事にしてるから」
アンジェリアの言葉に、バリーは深く深くため息をついた。
「お前の、そういう甘い所は、ほんと、見てて心配になるぜ……」
「ごめんなさいね」
「アン~~、謝らなくっていいのよ。こいつがアンを堂々と守る! ぐらい言えない弱虫だから悪いんだもの~イッテ! 蹴らなくたっていいじゃない! ちょっと!」
「うるっせえ!」
わいわいと盛り上がるキャリーとバリーに、アンジェリアはくすくす笑った。
恋とか結婚とか、アンジェリアにはまだ身近にない事だ。だがこうして仲の良い人々と一緒にすごせていけるのは、とっても幸せな事だとそう思った。一日でも長く、こんな日が続けばいいな、と。