1 突如ぶたれる
作者が気分転換に頭空っぽにしてちまちま書いていたものです。暇つぶしにお使いください。
「ちょっと!」
ジュラエル王国の王都にある貴族学院。そこにはまだ年若い男女が学ぶために集まっている。
――そこにある無数の中庭の一つで、深紅の髪の令嬢は木製のベンチに腰かけてのんびりしていた。そこに突然響いた声に反応し、深紅の髪の令嬢は顔を上げた。見知らぬ貴族令嬢だろう女生徒が一人、立っていた。薄い緑の髪を、右側で巻いている。
相手が誰か、全く知らない相手だった。首を傾げると貴族令嬢にしては短い深紅の髪が揺れた。
「何か」
どちらが立場が上かは分からないが、用事がある場合には、用事がある方が先に挨拶をするのが一般的なので、深紅の髪の令嬢は名乗りはしなかった。
「貴女がサンセットサファイア家のアン?」
話しかけてきた薄い緑の髪の令嬢はキッと目尻を吊り上げながら言った。どうやら怒っているらしいというのだけは分かったが、深紅の髪の令嬢は本当に彼女の事を知らないので、何故怒っているのかもさっぱり分からない。
「……? はい、そうですが」
深紅の髪の令嬢は、次の瞬間、頬を張り飛ばされた。
どうしてそうなったのか、深紅の髪の令嬢にはさっぱり分からない。無言で呆然と、目の前の、突如暴力に訴えた薄い緑の髪の令嬢を見上げる。薄い緑の髪の令嬢は顔を赤くしながら叫んだ。
「貴女みたいな不細工なんかに、ハワード様は渡さないんだからっ! ハワード様は私と結婚するのよっ!!!」
薄い緑の髪の令嬢はそう叫ぶだけ叫んで満足したように、中庭から去っていった。
残された深紅の髪の令嬢はベンチに座り込んだまま、目を丸くして頬を押さえていた。