小話4:来年の私
「こんにちはー」
「はーい、いらっしゃい」
肌寒いと感じる日も増えたこの頃。
そろそろシニアンさんに贈ったひんやりスカーフも役目を終えて一休みの時期だなぁと思った時に、逆にあたたかいスカーフとかマフラーも作れるのでは?と思い立った。
少しは魔力操作に慣れたとはいえ、この冬に間に合わせるのは難しいだろうけれど、思い立ったが吉日。ギルドの前にあるヒトの魔道具店にお邪魔していた。
ひんやりスカーフの時に相談に乗ってくれていた店員さんは異動になってしまったけれど、他の店員さんにも話を通しておくからと言ってくれていた。でもいざお店に入ると顔見知りの他の店員さんもいなくて、緊張してしまう。
店番らしい年配の男性に恐る恐る声をかけた。
「あの、ご相談がありまして。ササマキさんにひんやりスカーフのご指導と魔液作成をお願いしていた者なのですが、今回は逆に温かくなるものも作りたいなと」
「あーはいはい、君がミナさんね。あったかマフラーの自作かぁ。うーん、この冬に間に合わせたい感じ?」
「えっと、お恥ずかしながらあまり魔力のコントロールがうまくなくて、間に合わせるのは難しいかなとは思ってます」
もっと早く思いつけばよかったなとひっそり後悔していると、店員さんがひょいと片眉を上げた。
「長持ちするものは魔力も魔液の値段もかかるんだ。逆に半年ほどで効果が切れるもんなら、もっと簡単に作れる」
「それは……」
「良い仲の人に贈るなら、こういう手はどうだ?」
そうして茶目っ気のある店員さんに教えられた方法は、大変魅力的だった。
すっかり寒さが増して、夜の訪れが早くなった頃。
コツンと馴染みのある音に椅子から立ち上がり、急いで窓を開けた。
「ルー君!こんばんは」
ふわりと飛んで部屋の止まり木に止まったルー君は、応えるようにふっくらと羽を膨らませる。
そして持ってきていた棒付きの小さな袋を、はいっとこちらに差し出した。
「……」
しばらく口移しを避けた結果、棒付きならいいでしょうという風にルー君が持ってくるようになったこれは、小さなドーナツや焼き菓子が棒の先に刺さっている。
ルー君の謎の執念を感じつつも、棒付きお菓子を持って飛んでくる梟の姿が可愛くて、結局絆されてしまう。
「ふふ。ありがとう」
袋を慎重に取ると、今日は丸いドーナツが刺さっていた。棒を咥えたルー君がさぁ!と期待に満ちた視線を向けるので、そっとお菓子を口に咥える。
するとルー君がすすすっと私から遠ざかり、お菓子から棒を抜いてくれるのだ。
その仕草もとても可愛くて、思わず微笑んでしまう。
満足げにしているルー君にお礼を言って棒を回収すると、ルー君の視線が私の机の上に向かった。
「あ……」
今日は不意打ち訪問だったので、内緒にしていたマフラーを隠し忘れていた。先程やっと完成したそれを、今度シニアンさんに会う時に渡そうと思っていたのだけれど、どうせ見つかったなら先に言ってしまおう。
机の前の椅子に腰掛けて、シニアンさんがくれた膝掛けをかける。
「ルー君」
呼ぶと慣れたふうにルー君が私の膝に飛んできた。そして体を伸ばして机の上のマフラーを観察している。
「さっき完成したばかりなの」
そう言ってルー君に広げて見せたマフラーは、手に仄かな温かさが伝わってくる。まじまじとそれを見つめるルー君の体に、ふわりとそれを巻きつけた。
「ふふっ」
マフラーに包まれて目をぱちくりさせているルー君の姿を見られて、今日マフラーを見つかったのも悪くないかもと思えてくる。
「あったかいでしょ?今度会った時に、シニアンさんにプレゼントする予定です」
そう言うと、ルー君の目がキラキラと輝いた。思わず指先で小さな額を撫でてしまう。梟姿だと言葉は交わせないのに感情はとてもよく伝わってきて、シニアンさんの心に直接触れているかのような錯覚を感じることもある。
「このマフラー、温かく感じる効果をつけてるんだけど、半年くらいで効果が切れるの。だから」
なんだか照れくさくなる気持ちを押し殺して、ルー君の目に視線を合わせる。
「だから、来年も私があったか効果をつけ直すから、これからもそばにいてください」
私の言葉を受けて、ルー君のまん丸な目がさらに大きくなった。
やがてその瞳がきらめき、胸元の毛がふわっと膨らむ。そして気持ちを伝えるように、すりすりと私の手に甘えてきてくれた。
「約束ね」
来年も再来年も。きっともっと上達した私が、シニアンさんのためにマフラーを温かくできるはず。
その約束を込めたマフラーを喜んでくれるルー君が、シニアンさんの心が、とても嬉しかった。
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