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小話1:ヒトと獣人と

 シニアンさんの家にお邪魔するとき、いつも不思議に思うことがある。


「ミナさん。お待ちしてました」


 まだシニアンさんの住む建物の5階どころか、2階部分まで上るかどうかのところで、いつもシニアンさんは階段を静かに駆け降りて迎えにきてくれるのだ。


 一緒に食べようとお菓子や飲み物を持ってくる事も多いので、さっとそれらの荷物を引き受けてくれる紳士なところにキュンとする。けれど、お昼過ぎに行きます、みたいな曖昧な約束でも迎えに降りてくれるので、私が来るのをずっと窓から見ているのだろうか?


 という質問を、部屋についてソファに座り、私が焼いてきたクッキーを嬉しげに見ているシニアンさんにぶつけてみた。


「ああ、窓から見ている事もありますが、階段を上る足音でも分かりますよ」

「足音、ですか?」

「ええ、梟獣人は結構音には敏感なので。ミナさんの足音はすぐに分かります」


 事もなげに言われて、へぇー、と気の抜けた声が出てしまう。


 シニアンさんは一見ヒトと見た目が変わらないので、そういう獣人的な部分に触れると意外に感じてしまうのだ。


「梟獣人はシニアンさんとご家族以外は会ったことがないので、そんなに耳がいいなんて初めて知りました」

「少なくとも私の家族は、耳はヒトと違いますね」


 そう言うと、シニアンさんはそっと自分の髪をかきあげて見せてくれた。


「えっ!耳がない?は、羽根がある!!」


 普段ふわっとした長めの髪に隠れて見えなかったが、ヒトの耳がある位置より高めのところに、狭範囲に小さめの羽根が生えていた。

 シニアンさんがその羽根も逆立てると、ポッカリと大きな耳の穴が見える。


「わあぁ」 


 知らなかった。


 まじまじと見ていると、恥ずかしくなったのかサッと髪を下ろされてしまった。


「まぁこれのおかげで、討伐の際も音で対象の位置や動きが分かって、助かっています。ちなみに耳の位置が左右非対称なのも、梟獣人ならではですね」

「なるほど」


 そう返事をしながら、反対側もじーっと見つめてみたが、恥ずかしそうにして見せてくれなかった。

 でも、私もシニアンさんに「耳をじっくり見せてください」なんて言われても困るので、無理強いはしないでおこう。


 それとは別に、気になっていた事を聞いてみる。


「鳥系の獣人で翼がある人はほとんど見ませんが、飛べる方が便利じゃないですか?」


 そう、鳥といえば空飛ぶ翼!というイメージだが、人型に翼を持つ獣人には今まで会ったことがないのだ。


「うーん、人型に出る獣の特徴は、生まれた時に定まっているんです。飾り適度に羽根が生えていることはあっても、翼を持って生まれることはほとんどないですね。人型は飛ぶには重すぎますし、仮に飛ぼうとすると翼もかなり大きなものが必要になりそうです。そう考えると、人型に翼は邪魔なだけですね」

「た、確かに。寝る時とか椅子に座る時とか、大変そうです」


 飛べないならば、翼がない方が生活しやすいだろう。


「獣人もヒトも元は同じ人間で、それぞれ神に獣性と魔法を与えられたと言われています。獣人もベースはヒトと同じで、獣の便利な部分を主に人型に反映しているのでしょう。体力や視力、筋力など目に見えにくい部分はもちろん、目に見える事の多い耳は聴力、尻尾はバランスをとるために役立ちますから」

「勉強になります」


 ふんふん感心しながら聞く私に、シニアンさんは優しく笑ってくれる。


「獣人と一括りにしても、種類はもちろん個体によってかなり差があります。獣人同士でもわからないことは多々ありますよ」

「その点、ヒトは魔力の多い少ないくらいで、あまり変わらない気がします」


 髪や目の色は地域によって違いはあるようだが、肉体的な特徴は獣人ほど多彩ではない。


「この国ではヒトが少ないですから、私にとってもミナさんは分からないことだらけです。何より、力加減を誤ってしまうと傷つけそうで怖いですね」

「うー、そこまで弱くはないと、思うのですが」


 弱くないと言い切れないのは、酔っ払い獣人に絡まれて負傷した経験があるからだ。


 思い返すと、シニアンさんは滅多に私に触れないし、触れるときはとても慎重で優しい。大事にされているなぁとほっこりしつつ、少しだけ物足りない気もするこの頃である。


「そう言いますが、ほら、こうされただけで動けないでしょう?」


 と思っていたら、不意にシニアンさんは私の手を引いて、その胸に私を抱き寄せた。

 確かに身体に回された腕は全然力を込めているように見えないけれど、きっと私がジタバタしたところで、抜け出すことはできないのだろう。


 だが、そもそも、シニアンさんは間違っている。


「ん。動けないです…」


 私がシニアンさんの久々のぎゅーから、逃れようとする訳がない。


「もうっ、ミナさん」


 抱き寄せられたそのままに、広い胸にすりすりすると、困ったような声が降ってきた。


 私がシニアンさんの背中に腕を回してぎゅっと力を込めると、シニアンさんも少しだけ抱きしめる力を強めてくれる。


「私も羽根が生えてたら、シニアンさんにあげたいです」

「ありがとうございます。でも、食べ物を渡すのも、羽根と同じように愛情表現になるんですよ。特に、ミナさんが手ずから作ってくれたものは、私にとっては堪らなく嬉しいプレゼントになります」

「じゃあ、これからもたくさん作りますね」

「ふふ、楽しみにしています」


 抱きしめ合いながら交わす会話は、とても幸せで心満たされた。

 これからもお互いの違いに戸惑うことは出てくると思うけれど、シニアンさんとなら、それも乗り越えていけると思う。


 穏やかな午後は、ゆっくりと過ぎていった。


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