無理難題を吹っかけて婚約破棄をする貴族の方を心配する国の話
「お前とは婚約破棄をする!平民のくせに、嫉妬のあまり男爵令嬢サーラをいじめただろう?」
「ロバート様、いじめは存じません。しかし、婚約破棄は承りました。以後、伯爵様とお父様の話し合いの場を設けましょう・・・」
【黙れ、お前が有責だ!】
・・・この男、私の家からの援助金を返したくないのだわ。
だから、貴族が沢山いる貴族学園の終業式で、私をつるし上げる気だわ。
貧窮したときは、あれだけ、向こうから婚約を懇願したのに
「グスン、グスン、アメリア様が、平民のくせに私をにらんだ!」
「おお、サーラ、私が守ってやるからな」
・・・援助したお金は、私のお父様、商会の方々が一生懸命に働いて稼いだお金よ。
援助したお金の返還と、違約金を払ってもらわなければ・・
「事実無根ですわ」
「ほお、なら、裁判だ。ここは貴族学園だ。なら、貴族のルールに従うのがルールだ。決闘裁判だ!」
ロバートは手袋を投げた。
貴族の女性は、決闘を申し込まれたら、代理人を立てるのがルール。
通常、護衛騎士が代わりに勤めるが、
アメリアは平民であった。
手袋を拾わなければ、援助金は返さないどころか、逆に、婚約破棄の違約金をロバートに払わなければならないだろう。
・・・こいつ、これが狙いでヒドイ。貴族なんてもううんざり。
ザワザワザワザワ
「おい、ロバート、バカなことを」
「誰か教えてやれよ」
「嫌ですわ。巻き添えを食いたくありませんわ」
周りの貴族子弟たちは、ロバートの心配をする。
それには理由がある。
皆、知っている。
度重なる公開婚約破棄の後始末に、嫌気がさした陛下が対策を立てたこと。
「どなたか、決闘の代理人をお願いします。どなたか、この母上の形見の耳飾りを差し上げますわ。どなたか・・お父様がお礼をして下さいますわ」
「ハハハハ、金で決闘代理人をやってもらおうとは、やはり、平民、お前の代理人を受けるものなど・・何?バラの花ビラが・・・降ってきている」
パラパラパラ
バラの花びらが、天井から降ってきた。
皆の目が天井にいった瞬間。
女性の高笑いが聞こえた。
「オ~ホホホホホホホホホホホ」
皆の目が声の発生源に行くと、蝶のアイマスクをつけた女性が二人現われた。上から視線を戻すと、まるで、突然現われたように感じる。
皆は不思議に思う。先程まではいなかったはずだが?
【承りましてよ】
【受けるのである!】
一人は、黒のドレスに黒髪、ミステリアスな印象を見る人に与える。
もう一人は、身長190センチの巨躯だが、引き締まった体だ。金髪が風もないのにたなびいている。
あり余る闘気がそうさせているだろうと皆が思った。
蝶のアイマスクをつけて謎の女性を演出しているが、この国の貴族なら、誰でも知っている人物である。
「何やつ・・・あ、グレース王女殿下!若き陛下の妹君にして、魔法の天才と評判の、犯罪者を幻覚で廃人にまで追い込む魔法を開発したと有名な。
そのご友人帝国の第一皇女にして、騎士団長とガチケンカをして勝ってしまったフローラ皇女殿下!何故ここに?」
「え、ロバートやっちゃってよ」
「いや、しかし、相手は王族・・だぞ」
「さあ、女は私がやりますわ。悪役令嬢スキル!【エレガントドローン!】バラの花ビラで溺れなさい!」
扇をサーラに差し向けると、バラの花ビラがサーラを席巻する。
「キャアアアアアーーーーバラの花ビラで溺れますわ!」
「オーホホホホホ、淑女ならエレガントに溺れなさい!」
「グレース王女殿下、お戯れを・・・何故、フローラ皇女殿下が、私に駆け足で向かってくるのですか?」
「あら、私は一時のバラの妖精よ」
「我は、通りがかりの町娘である!フローラ皇女殿下は、深窓の令嬢!今、部屋で刺繍をしておるわ!」
ロバートの方には、巨躯の女性が駆け足で詰め寄り、勢いを乗せてパンチを放つ。
「皇女パンチ!」
「ヘゲ!」
ドカン!とロバートは壁にめり込み。白目になり舌を出す。
昏倒した。
一方、サーラは、足を大股開きで腰を下ろし、舌を出しヨダレを垂らして、「ヒーヒー」と息をしている。
「あら、校長先生、私たちが勝ちましたわ。貴方が証人ですわ。後のことをお願いしますわ」
「はっ、ハイ!」
「あの、王女殿下と皇女殿下、有難うございます。あの、お礼を、この耳飾り」
「私は王女殿下ではございませんわ。バラの妖精に耳飾りは必要ありませんわ。バラのお花に水をおやりなさい。それがお礼になりますわ」
「うむ。我は通りがかりの町娘である!深窓の令嬢、華のフローラ姫ではない。我へのお礼は、他の町娘に親切にするがよかろう」
「あ、有難うございます」
アメリアは深々と頭を下げた。
二人は普通に歩いて、校門から、王家の馬車に乗り。馬車は王宮の方に向かった。
公開婚約破棄をすると、最強のバラの妖精と町娘が現われるから、絶対にしてはいけないと貴族達は心に誓ったと云う。
最後までお読み頂き有難うございました。