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隣の家だけ貞操観念逆転世界

作者: nullpovendman

ラブコメです。(R18部分はカット)

 幼なじみ(異性)の家でエロ本を見つけてしまった時にどうすればいいのか。

 俺にはわからなかった。

 とりあえず気まずさをごまかすためにテレビをつける、という選択肢は誤りではないはずだ。

 テレビではブーメランパンツのマッチョが天気予報をしており、さらなる混乱を生んだことだけが悲劇だった。


 ♡♡♡♡♡♡


 俺こと本田(ほんだ)智永(ともなが)と、中田(なかた)朝里(あさり)は、家が隣同士だ。

 たしか小三のときに朝里が引っ越してきて「本田と中田って似ているね」って会話をしてすぐに仲良くなったのだと思う。

 それからずっと一緒の学校に通っている幼なじみだ。


 中学に入ると何となく男女の垣根みたいなものがあって、互いの家に行くことはなくなったが、高校生にもなるとそのへんはどうでも良くなってきて、また最近行き来するようになった。


 放課後、バスで隣に座った朝里に声をかける。


「朝里は『ダイヤモンドカー』全部そろえているんだっけ? 読みに行っていい?」

「いいよー。『祝日(しゅくじつ)商戦(しょうせん)』こんど読ませてねー」


 少年ジャブンの中でも女性人気の高い『ダイヤモンドカー』はある日トラックと人間のハーフだと判明したダイヤモンドちゃんがかわいらしい日常もののマンガである。

 おとといガサツな姉が最新刊だけ買ってきたが、昨日には「話わからんからやる」と差し出されたので、見事俺の本棚に収まっていた。

 最新刊から読み始めるからだろ。


 最新刊だけ読んでも面白かったので、俺は全巻揃えているという朝里の部屋に押し掛けることにした。

 こういうときに隣が幼なじみの家だと便利である。


 一度家に帰って、ジャージに着替えてから朝里の家を訪ねた。

 朝里の部屋はシンプルながら、本人のおっとりした雰囲気そのままの女の子の部屋って感じである。

 薄いピンクのベッド、白い勉強机、朝里の好きなマンガなどが詰まったカラーボックスの本棚に猫耳のついたテレビと、俺の部屋とは大違いだ。

 おしとやかな朝里はベッドに腰掛け、ふわふわのショートボブの栗毛を揺らしながら、俺の持ってきた『祝日商戦』を読んでいる。

 俺だけがむさくるしく、この部屋の異物だと思ったが、気にしても仕方ないので読み終えた『ダイヤモンドカー』四巻を本棚に戻し、五巻を探した。


「朝里、五巻だけないんだけど」

「ええー? うーん、机の上かもー」

「そうか。勝手に探してもいいか?」

「うんー」


 朝里の勉強机の上を眺める。

 参考書の山があるから、その中に埋もれているのだろう。

 一冊ずつよけて、目当ての本を探した


 一番上。『いのししでもわかる日本史』

 違う。


 二冊目。『ドキッ! どすけべ坊主だらけの野球部! あなたのバットを見せなさい』

 これも違う。


 三冊目。『エッチな日本史』

 日本史の参考書ばかりだ。

 そういえば今週末は日本史のミニテストだったな。


 四冊目。『本当はエロい数学用語』

 数学ってテストあったっけ。あとで朝里に確認しよう。


 五冊目。『ダイヤモンドカー 五巻』

 これだ。


 俺は五巻を手に取ると、『そそる制服DK』というタイトルの写真集が下にたくさん積まれていたのは見なかったことにして参考書をもとの位置に戻した。


「五巻あったぞ」

「うんー。あっ」

「あっ?」

「えっと。みた?」

「何を? あ、そうだ、数学って今週テストあったっけ」

「見てるじゃんー。うわー。さいあくだー」


 朝里がベッドの上でごろごろと転がって悶えている。

 せっかく触れないようにしたのに、本人が誤爆した感が強い。


 幼なじみ(異性)の家でエロ本を見つけてしまった時にどうすればいいのか。

 学校では教えてくれない。

 もしかすると『本当はエロい数学用語』になら書いている可能性はあるが、ここで手に取っても状況は悪化するだけである。


 朝里はまだころころと転がる斬新なベッドメイキングを続けている。

 とりあえず気まずさをごまかすためにテレビをつけるか。

 気まずさの解消にテレビを選ぶのは誤りではないはずだ。


 ぴっ。

 テレビにはブーメランパンツのマッチョが天気予報をしている様子が映し出されていた。


「……」

「……」

 俺と朝里は無言で見つめあった。


 なんだろうな。

 この展開、最近どこかで読んだ記憶がある。

 WEB小説投稿サイトあたりで。


「ああ、そうか! 貞操逆転世界か!」

「え?」


 おしとやかでおっとりした朝里がエッチなことに興味津々だったというより、いつの間にか貞操逆転世界に迷い込んでいたという方が俺には合理的に感じられた。


 ころがるのをやめた朝里の混乱する顔を見つめ、俺は用事ができた旨を伝える。


「『祝日商戦』はおいておくから、好きなときに返してくれ」

「う、うん」


 こうしてはいられない。

 世の中がエロくなったかもしれないのだ。


 俺はスキップしながら家に帰った。(徒歩十秒)

 リビングに向かうと大学生の姉、本田湯香(ゆか)がソファで横になりながらビールを飲んでいた。


「姉貴! ただいま!」

『ブッ!』


 こいつ屁で返事しやがった。

 なんてガサツなんだ。

 まあ、いいや。

 このくらいガサツな方が聞きやすいってもんよ。


「なあ、姉貴ってエロ本何冊持ってんの?」

「は?」


 立ち上がって弟を見るかのような目でゴミ(おれ)を見てくる。

 じゃなかった、ゴミを見てくるような目で俺を見てくるが、俺はめげない。


「なあ、姉貴ってエロ本何冊持って」

「聞こえとるわ」

「エロ本何冊持ってんのかだけ教えてくれればいいから! ほらエロほ、ぶはぁ」


 姉の渾身の右ストレートにより俺は気を失った。



 目が覚めると俺の部屋だった。

 ガサツな女がビールを飲みながら俺を見つめていた。

 いや、飲むか看病するかどっちかにしてくれ。

 っていうか酒くさっ!


「起きたね。で、なんで姉のエロ本所持数なんて気にしたわけ?」

「姉貴の貞操観念が変わったかどうか知りたくなったから」

「あ? 何言ってんだこいつ? もっかい叩いたら治るか?」


 姉がコブラツイストをかけてくる。叩いてねぇじゃん。

 タップ。タップ。

 ギブだって言ってんだろ、やめろ。


 また気を失った。



 目が覚めると俺の部屋だった。

 ガサツな女がビールを飲みながら俺を見つめていた。

 まだ飲んでんのかよ。


 二度目の起床を果たした俺は姉に事情聴取を受けた。

 俺は朝里の家での出来事と、俺が世界線を超えて貞操観念逆転世界に迷い込んだという仮説を披露した。


「あーね。勘違いしているとこ悪いんだけど。それは中田家の中だけなんだわ」

「……もしかして」

「そゆことよ」


 鈍い俺もさすがに気付いた。


「『中田家の中だけ』ってのはおやじギャグか?」

「あ?」

「お?」


 あれ? 違った?


「そこじゃねぇわ。ほら。テレビつけてみ」


 ぽちっと。

 テレビが映る。

 そこには半裸のマッチョなどおらず、元の世界線の平常通りの光景が繰り広げられていた。


「中田家の中だけ貞操観念逆転世界ってこと?」

「なんでそうな……そうだな。そういうことよ」

「なるほどなー。朝里は大変なんだな」

「そうだな。朝里ちゃんは大変だな。こんなバカが友達で」


 うーん。

 その後もスマホで男女比率とか調べてみたけど変化してないっぽいし、貞操観念が変化しているのは中田家だけということしかわからなかった。


 ♡♡♡♡♡♡


 翌朝、バス停で朝里に話しかける。


「おはよう」

「お、おはよう」


 朝里は若干気まずそうだが、昨日姉から衝撃の事実を聞いている俺はむしろ中田家の世界観が気になっている。


「朝里も大変だな。中田家が特異点だなんて」

「んんー? なんてー?」


 俺は昨日の姉との会話を朝里に聞かせた。

「つまり、俺が貞操逆転世界に迷い込んだのかと思ったけどそれは違ってて、中田家の敷地内だけだってことだろ」

「うわー、中田家って大変だったんだねー」(智永(ともなが)はちょろいなー)


 朝里が小声で何か言ったが、ちょうどバスが来てガヤガヤしたので聞き取れなかった。



 放課後。

 いつも通り帰りのバスでは朝里が隣に座っている。

 いつのころからか、どちらかが寝ても乗り過ごさないために登下校では自然と二人掛けの席に並んで座るようになった。

 そんな朝里から誘いの声がかかる。


「『祝日商戦』読み終わったから取りに来てー。『CHIKUWABU』持ってたら貸してー」

「ん、わかった」

「あ、やっぱり『CHIKUWABU』はいいやー」

「ん? そう」


 じゃあ手ぶらで行こうっと。


 家に帰り、シャワーを浴びてからジャージに着替えた俺は特異点、中田家に駆け足で向かった。(徒歩十秒)


 出迎えてくれたのは朝里のお母さんだった。

「あれ、智永くん、いらっしゃい。入れ違いね。朝里はコンビニに行ったところよ」

「お邪魔します。おばさんいるの珍しいですね。今日パートは遅番ですか?」

「そうなの。もう十五分くらいしたら出るけどね」


 スーパーでパートをしていて時間が合わないのもあり、平日に朝里のお母さんと顔を会わせることはあまりない。

 すぐ出かけるというのに麦茶を出してもらったので、お礼を行って朝里を待つ。


 結局、朝里のお母さんが出てからもしばらく朝里は帰ってこなかったので、俺はソファでぼーっとしていた。

 うつらうつら。


「暇だ。眠くなるな……」


 俺は夢の世界に旅立った。



 ほっぺをつつかれている感触がする。

 いつのまにか寝てしまったようだ。


「んふふー」

「朝里か。おはよう」


 目を開けずに答える。


「んー。ただいまー」


 うっすら目を開けると、煽情的な服装の朝里が目に入った。

 セーラー服薄すぎて透けてない?

 やはり中田家だけ貞操観念逆転世界なのか?


「『祝日商戦』入れた紙袋は玄関に置いておくねー」

「お、おう」


 なんか自然に会話しているけど、セーラー服が透けている。


「じゃあ部屋に行こっかー」

「ん? マンガはもう返してもらったけど」

「いいからー。いくのー」


 朝里の部屋に入ると、スナック菓子が入ってそうな大きさの箱を渡された。

 だがよく見ると貞操観念逆転世界としか思えないブツである。


「これは……! コンビニで売っているけど買いにくいやつ!」


 買いに行ってたのそれかよ!

 やけに時間かかると思ったら、レジに持っていく勇気が出なかったってことかよ。


「ここは貞操逆転世界なんでしょー? 私から迫ってもいいってことだよねー」


 朝里が俺のジャージのチャックを下げる。


「据え膳喰わぬはなんとやら、って自分で脱ぐから! ちょっ」


 俺は貞操をアレした。



 後片付けをして、俺と朝里はいつも通りの距離感でマンガを読んでいる。


「エッチな女の子で引いた?」

「むしろ最高である」

「なにその口調ー」


 俺たちは二人で笑いあった。

 笑いが落ち着いたころ、俺には言っておかなければならない一言があった。

 真面目な顔で告げる。


「朝里、好きだよ」

「ええー、いま言うー? 私もー」

 朝里が抱き着いてくる。


 その後、中田家内でも貞操観念が逆転していたわけではないことがわかったが、俺は最高の彼女を得たのだから、勘違いしたことはプラスでしかなかったな。


 もともとかなり仲が良かったのだ。

 つきあうようになった俺たちの距離感が大きく変わることはなかった。

 一つ変わったことがあるとすれば、それは……。


 朝里の部屋だけ貞操観念逆転する日々が続いたのかどうかは想像にお任せする。


 了


面白いと思ったら星を入れたり入れなかったりしてみてくださいね。

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[一言] 読みやすくて面白かったです 貞操逆転作品増えてほしい
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