鏡をみている
「一寸法師」を読んでくださった方へ。
「…よく分からないが、いやなことがある日はここに来ればいい。君は私の声が好きなんだろう。」
昔々、覗き込んだ者の真実の姿を映し出すという『真姿の池』がありました。月夜の晩に覗き込んだ化け物の姿は美しく、化け物は意中の皇子に愛されたといいます。
そんな伝説を信じているわけではないけれど、台風みたいに荒れた気持ちが水の前では落ち着いた。
水が静かに湧き出す池の端に、石垣に囲まれた口の広い井戸のようなものがある。水面の向こうは鎌倉時代の国分寺。数か月前、たまたま覗き込んだ水流の目に映ったのは自分ではなく着物姿の若者の姿だった。最初、芳継は姿見としてこの池を使っていたという。鏡の心理効果のようにそこにいると安心して素直になれた。
「うん。…好きだよ。」
主語を省いたずるい文法にのせた想いが向こうも同じだといいなと思って見下ろすと、近くで目が合った。引き寄せられるように水面にキスをした。冷たい。目を開けると揺れる水はもう何も見せてくれなかった。池に背を向けて石垣にもたれかかる。
「私、なんでここに生まれたんだろう。あなたのいる時代に生まれたかったな。」
「そしたらこんなに親しくなることはなかったよ。ここでは若い女性と長く話をすることは許されない。」
(こんな形でなければ知り合うことはなかった…?)
近くにいる人とは分かり合えないのに、どうしたって触れ合えない人と心が近い。水流はままならない現実が悔しくてたまらなかった。
「…。」
黙って池に背を向けると本殿から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ここだ、すぐ行く。」
後ろから微かに遠ざかる足音が聞こえた。目を閉じて振り返るなと自分に言い聞かせる。振り返ってもできることはないのだから。
「先生、お早く!」
(本当は何もかも放り出してこの腕で引き留めたいんだ。)
芳継は思いを断ち切るように運び込まれた患者のもとへと急いだ。
この時二人が考えることは同じだった。
(ここが私たちの”一番近い”。)
少女漫画、見えましたか?
長いお話のほんの一部を大賞向けに先出ししました。
正直、文章をこねくり回し過ぎて何が伝わるのか、どんな印象を受けられるのか自分ではわからなくなっております。
なので、感想がほしいです。本当にまっています。