第九話 出逢い
続きです。
バルドはエミルを部屋に運び終え食堂に戻ると、そこで待っていた伝令者に自分と面会を求めている者がやって来た事を聞かされる。
「そいつが銀狼と名乗ったのは本当か?」
「はい。間違いありません」
「そうか……そいつは銀髪の男だろ? 金の瞳をした」
「ええ、確かにその様な容姿をしていました。お知り合いですか?」
「知り合いと言えばそうなのだが、ちょっとな」
バルドは言葉を濁し、どうしたものかと一人頭を悩ませる。
特徴の一致から、面会を求めに来たのは高確率で今思い浮かべた人物だろうと推測出来る。けれど今になって自身を訪ねにやって来た理由の方は不明だ。
挙げるとすればエミル関連が妥当なところだが、バルドの思い浮かべた人物が自分から思惑が複雑に絡まった面倒事に首を突っ込むとは到底思えなかった。
バルドの知る人物は思慮深く、義理と人情に厚い男であって俗人的な男では無かったはずだ。
そうなると一体何を考えて面会など求めて来たのか、バルドには皆目見当がつかなかった。
「まぁ、会ってみるしかないか」
考えて分からないなら直接聞けばいい。そう思い立ったら吉日、バルドは直ぐに銀狼との面会に向けて準備を始めた。
銀狼を名乗る男は身分証として討魔者のライセンスを提示していたために、準備には少しの時間で事足りた。
そうして僅か二日でバルドは資料を集め、更にその一日後には対面を果たしていた。
「お久しぶりです。魔剣士殿」
テーブルを挟んで向かいの椅子に礼儀正しく座って待っていた銀髪の男は、バルドが部屋にやって来るとその場に立ち上がり、頭を下げ挨拶をする。
「おう。久しぶりだな、銀狼」
バルドは記憶していた時から見違える程に大きく成長していた少年に僅かに目を見開くも、昔と変わらない口調で挨拶を返す。
「はい。ですが俺はもう銀狼では在りません。その名は魔剣士殿に思い出して貰えると思ったから、名乗ったまでです。今はジークと呼んで下さい」
「あぁ、分かっている。とりあえず座ってから話をしよう」
「はい」
バルドは今も相も変わらず子供らしくない少年だと思いながら銀髪の少年、ジークに椅子に座り直すように促し、金の双眸が改めて自身に向いたのを確認してから、バルドは単刀直入に問う。
「それで俺に一体何の用だ、ジーク?」
「約束を果たしに来ました」
「……あー、約束?」
「はい。覚えていませんか?」
「……」
バルドは予想していた内の中に含まれない返答をされて、二の句が継げなくなる。バルドはジークに言われた約束とやらを完全に覚えていなかった。
「俺は貴方の四年後に恩を返せとの言葉を果たすために、ここまでやって来ました」
「……あー、マジか」
一瞬バルドはジークが本音を隠すために惚けた事を口にしたのかと思ったが、ジークのその言葉を聞いた途端にとある記憶を思い出して、頭を抱えたい衝動に駆られる。
確かに口にした気がすると。
「お前、本当にそれだけの為にここまで来たのか?」
「はい。受けた恩と仇は必ず返す。それが銀狼ですから」
ジークの目を見て再度バルドは問うが、ジークの答えは変わらなかった。
「はぁ。ちょっと考えさせてくれ」
バルドはテーブルに用意していた茶で一息つき、思考を巡らせる。
ジークが嘘を吐いている可能性はゼロではない。裏に誰かがいる可能性は? ライセンスまで掲示しておきながら銀狼の名を名乗ったのは、俺に誠意を見せるためなのか。本当に恩を返すためだけに来たのか。
正直、これだと断定出来る材料は揃っていない。
あれは言葉の綾だったと言って素直に追い返すのなら、ここまで悩む必要は無い。そうすれば後はジークが和の国いる間は、重要人として少しの監視を付けるだけでこの話は終わりだ。
けれど、ここで縁を切るのは勿体無いとバルドは思う。
ジークは弱冠九歳にして魔鏡に存在していた『存在しない国』で行われていた闘技場の長に就いていた傑物だ。
あれから四年。果たして十三になったジークはどれ程に成長しているのか。確かめてから答えを出すのも悪くはないと思ってしまう。
そうしてもし、ジークがエミルと良い関係を築けたなら……
「よし。今からお前は俺の弟子だ」
「……は?」
こうして彼と彼女達は出逢うのだった。
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