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第六話 お姉ちゃん

遅くなりました。続きです。


「ひま」


 ある日、何もない暗闇を見つめていた真っ白な鬼はぼそりとそう呟く。


「……暇だね」


 隣ではしたなく大の字で寝転んでいる鬼と同じような格好で寝転んでいた俺は、何となく(エミル)の言葉に同調して独り言つ。


 するとすぐ隣から視線を感じた。ちらりと顔を向けると、エミルがこちらをジト目で見つめている。


「……」


 ごめん。もう会話のネタが無いんだ。だからそんな目で俺を見ないで。


 内心でエミルに平謝りしながら、視線から逃れるようにごろごろと転がって移動する。


「もう。()()()()()()ってば」


 その言い方はまるで、ダメな姉に呆れるようなしっかり者の妹みたいなもの言いだが、自分の姿を一度確認してから言って欲しい。


 俺とエミルに大差はないから。


「暇なら、あの人たちと交流すれば?」


 俺はちょっとした反撃のつもりで、エミルが呟いた問題を解消できる話題を出す。それがエミルにとって触れて欲しくない話題だと分かっていても。


「えっ……いや、でも」

「いやなの?」

「いやじゃないけど……」


 自分で暇だと口にするほどこの状況に退屈しているのにも関わらず、エミルは今の状況が好転するだろうきっかけを自ら掴みにいこうとしない。


 エミルはこの暗闇で停滞し続けている。


「けど?」

「こ、ことばわかんないし」

「……」


 エミルの苦し紛れの言い訳に俺は無言になる。


 謎の知的生命体を無視し続けてもうどれだけ経ったか分からないが、少なくとも彼等の言葉を朧げに理解出来る程度には時間は経っている。特にエミルと俺は食べ物に関する言葉だけは、ほぼ完璧と言っていいぐらいに理解している。


「……てったい」


 嘘をつくのが下手すぎて今度は俺がジト目になっていたのだろうか、エミルもさっきの俺と同じ様に転がって顔を見られないようにうつ伏せに寝転び、俺から逃げる。


「はぁ」

「……あ、そうだ! おねえちゃんも、あのひとたちになまえをつけてもらおうよ。おねえちゃんもなまえほしいっていってたよね?」


 エミルは俺の態度からこの話題がまだ続くのだと察したのか、露骨に話題を変えてくる。けれど慌てて思いついた事をつい口走ったみたいで、その内容は理路整然としないものだった。


「確かに言ったけど、どうやって彼等にそれを伝えるの?」

「えっと、あっと……あう」


 エミルは自分が提案したものが失言だったと思ったのか、段々と声が尻すぼんでいき、最終的に情け無い声をだす。


 でもこれでエミルの気持ちは何となく理解できた。


「じゃあ、私がやってみようか?」

「えっ!」

「エミルが良ければだけど」

「……ほんとう?」

「うん」


 俺はエミルのお姉さんだからね。(エミル)が一歩を踏み出す勇気が足りないなら、俺が一歩先から手を引いてあげる。もしその道が不安なら、俺が違う道を探してあげる。


「でも――」

「私がエミルに噓をついたことある?」

「ない……とおもう」

「でしょ?」


 実際には少しだけあるけど、それは秘密にしておこう。


「……むりしないでね」


 葛藤があったのか暫く無言で、ようやく出した答えがそれだった。


「うん」


 うつ伏せに寝転んだままで顔は見えないけど、エミルから心配と少しの期待、それと一抹の罪悪感が伝わってくる。


 けれど気にしないで、大丈夫、安心して。なんて言葉はかけない。それは俺が本当の意味でエミルのお姉ちゃんなんだと証明した時にとっておくことにする。


 俺が今言う言葉は一つだけ。


「いってきます」


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