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第五話 バルド

続きです。


 そうして数日後。諸々の手続きを済ませたバルドはエミルの病室にやって来ていた。


「……」

「……」


 ハザックの朝の検査が終わるのを見計らってから、手の届く位置にまで近寄ったはいいが、バルドは緊張からか声が出せなかった。


「エミルちゃんは分かるけど、どうしてバルドも無言なんだい?」

「――ッと、すまんすまん。柄にもなく緊張してな」


 意識のある状態のエミルと初対面しているバルドは、自分でも自覚出来るほどに緊張していた。何故ならこの最初の第一印象は、バルドにとっては死活問題になり得るぐらい重要なものだった。


 何せ最初のその良し悪しで、今後エミルと築いていくだろう関係性の難易度が変わってくるのだ。バルドとしては何としても嫌われることだけは避けたかった。


「珍しい。バルドでも急に娘が出来れば、人並みの反応をするんだね」

「当たり前だ。俺は妻帯者ですらない、ただの独身だぞ? 緊張の一つぐらいするわ」


 バルドには子育てはおろか、幼い子供の世話すらまともにした試しが無い。幼少期から大人に囲まれて育ち、成人してからは仕事柄、国内を行ったり来たりで同僚としかバルドは接した事がなかった。


 その為に年下、しかもバルドよりも一回り以上も年が離れている子供の機嫌の取り方など、慌てて買いあさった育児の本で少しかじった程度の知識しか持ち合わせていなかった。


「ならばこれを機に、嫁も探せば良いじゃないか。バルドなら選り取り見取りだろう?」


 バルドの緊張をほぐすためにハザックは冗談混じりの本音を言う。


「言ってろ。今は仕事が恋人なんだよ」

「……そうかい。でも、いつかはバルドもそう言ってられなくなるさ」


 ハザックの言う通り、バルドは結婚して妻子がいても不思議ではない歳だ。それでいて国騎士一番隊の隊長を務める人格者でもある。


 顔も悪くなくハザックの目から見てもバルドは優良物件であるのは疑いようがなく、現在進行形で思いを寄せている人物達にも心当たりがあった。


「あぁ、って俺達が無駄話している場合じゃない。無視してすまんな、エミル。俺はバルド、バルド・シュヴァルだ。一応エミルの保護者みたいなものだ。よろしくな」


 ハザックとの他愛の無いやり取りで何時もの調子を取り戻したバルドは内心で感謝し、ベッドの上でお行儀良く座っていたエミルの頭をぎこちなく撫でながら、当初の目的の自己紹介をする。


「……ッ」

「っと、痛かったか? 下手くそですまん。慣れてないんだ。怒らないでくれ」

「ふっ」


 エミルの僅かな機微を感じとったのか、慌てて手を離してからエミルに謝るバルドの姿を見て、ハザックは思わず笑ってしまう。


「……おい。何笑ってんだよ、ハザック」

「いや、バルドが僕の予想通りの子煩悩だったのねで。つい」


 普段の話す声とは違って、エミルに話しかける言葉には過剰なぐらい喜怒哀楽の感情を乗せているバルドが、ハザックには好ましく思えた。


「悪いかよ」


 自身の内心を見透かされような気がして、バツが悪そうにバルドは答える。


「全然。バルドがエミルちゃんの養父で良かったと、改めて思ったよ」


 ハザックは知っていた。バルドとエミルの養子縁組が上の命令で強制的に交わされたものである事を。そしてバルドの本来の役割も。


 けれどバルドは馬鹿真面目に建前である親子の関係もエミルと本気で築こうとしている。


 そんなバルドだからこそエミルとどの様な関係を築くのか見て見たくなる。


「そうかよ」

「あぁ……エミルちゃんの機嫌を一発で良くする方法でも教えようか?」


 案の定、エミルの対応に難儀しているバルドにハザックは笑みを深めながら、取って置きを教えることにした。


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