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盲目少女の二重奏【改訂版】  作者: touhu


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第四十話 仕事

 二人の話題は気付けばファッションから少しずれて、ユミル達のお小遣いについて移り変わっていた。


「仕事か」

「うん。お金、欲しい」


 現状、財布の紐を締めているのはジークだ。なのでユミル達のお小遣いはジークの裁量で決まっていた。けれどそれはユミルがファッションに興味を示す前を考慮した物で、今となれば少し物足りない。


 そこでユミル達はその足りない分を、自身が仕事をする事によって賄う事をジークに相談していた。


「(お小遣いを増やして欲しい。そう言わない所がユミルらしいけど、少し困ったな)」


 お小遣いを増額する程度だったら、懐事情からしてもそう難しい事ではない。それにもし懐事情が厳しくてもカナン達に一報をいれるだけで、彼女達は喜んでポケットマネーを出してくるだろう。バルドですら近況報告をする度に、何かと気に掛けてくれているのだから。


 そしてその場合、ジークはユミル達の金銭感覚がおかしくならないように注視するだけで良かった。


 けれどユミル自身が働き稼ぐとなると話は変わり、ジークの心中は穏やかでは無くなってくる。


「取り敢えず調べてみるか」


 そう言ってジークは自身の内心を悟らせず、アイテムボックスから端末を取り出し、イージスアート学園の学生専用ページを開く。学園が学生に向けて斡旋している仕事を閲覧するために。


「……色々あるな」


 軽く調べてみるだけでも内容は多種多様で、専門的なものから知識や技術を問わないものまでと幅広く、学生に応えようとしてくれているのが伝わってくる。


 ジークは関心しながらユミル達に合いそうな仕事をピックアップしていると、横から声がかかる。


「ジーク。学園には私たちに合いそうなのは、なかったよ?」

「ん?もう自分で調べていたのか」

「……うん」


 妙な間に違和感を覚えるも、ジークはやはりと思う。ユミルが相談をしてくる時点で、性格上ある程度は自力で調査済みだとは考えていた。


「それなら学園以外から探すしかないか……ちなみにユミル達の要望は――」

「決まってるよ」

「そうなのか?」


「(だったらなんで最初から言わないんだ?)」


 端末を置き、アイテムボックスからヴァールテクスの求人募集が載っている本を取り出そうとしていたジークは手を止めて、そんな疑問を抱きながら続きを促す。


「一緒。ジークと一緒の仕事が、いい」

「……なるほど?」


 そうして思いもよらなかった答えが返ってきて、しばし沈黙する。その後、ジークは曖昧な返事をすることしかできなかった。


「(バレているとは思っていたが、こうくるか)」


「どうしたの?」

「いや、なんでも無い。それよりユミル達には、働いていることを伝えてなかったんだが」

「うん。でも一緒にいるのに、分からない方がおかしいよ?」

「そうか」

「うん」

「だよなぁ」


 暫く湧き上がる得も言われぬ感情を表に出さない様に耐えた後。動揺をユミルに悟られながらもジークは平然と会話を続けようとするが、ユミルに何を当たり前なことを言ってるのだと不思議な顔をされ、天を仰いだ。


「(何を言っているんだ俺は)」


 確かに言葉で伝えていないだけで隠していなかったし、そもそも一緒に住んでいる状態で敏いエミルから隠し通すことなど不可能だと、ジークは理解していた。


 それこそいずれは何かしらの反応あるとまで予想していたのに、ユミルから一緒に働きたいと言われるのは予想外で、ジークは思いのほか気持ちが揺れていた。


「最初は驚かせようと思って内緒に調べてみたけど、誰も分からなかったからやめた」

「……それは英断だな」


 ユミルの活力に溢れすぎている発言に、ジークはもはや苦笑する。


「(メリダさんやバルザークさん。それにミサキ達や学園の事務にもバレたな)」


 やましい事をしている訳ではなく、健全に学生として働いているだけなので変な誤解をして欲しくないなとジークが内心思っていると、ユミルからいじらしい声がかかる。


「……迷惑、だった?」


 ユミルの語気は弱々しかった。そんなユミルの様子を見て、ジークは困った様に頭をかいて独りごちる。


「そういう訳では、無いんだがなぁ」


 ジークが働き始めたきっかけはトリアでの一件。あの魔物を討伐するために費やした武器の補充が目当ての、理由までもがいたって個人的なものだ。


 ユミルが気にするのも理解できる。一緒働きたいと言っているのも、自惚れでなければ自身を気遣ってくれているのだろうと思う。


 けれどそれを分かっていても全てを飲み込み、素直にユミルの申し出を受け入れることが、直ぐにできなかった。


「(これはくだらない、自尊心だ)」


 受け入れてしまったら、立つ瀬がない。


 トリアでの自分はただ無理を言ってユミルの横に立ち、無様に庇われただけの男になってしまう。


 あれは魔物を斃すための必要経費。それ以上でも以下でもない。寧ろそれぐらいでしか、貢献出来ていない。だからユミルも気にしないでくれ。


「(我ながら情けない台詞だよなぁ)」


 そんな台詞は口に出せない。たとえ口にしたとてユミル達との関係は変わらないとしても。


 それにだ。もしこれが万が一ジークの思い違いで、ユミル達が本当に自分達のためだけに働きたいと思っていたなら、ただの痛い人である。


 ただそれでも何だかんだで結局のところ。そうした悶々とした思いが消化できたあとで、ユミル達に甘いジークは了承するのであった。

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