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第三十二話 目が覚めるまで

続きです。

 首都ヴァールテクスに設立されている国立病院。そこの地下に存在する本来なら罪を犯した者に使用される、特別病床のベッドの上に一人の少女が横たわっていた。


 その部屋には他の患者は誰一人とおらず、少女だけが無機質な部屋で寝かされていた。


 白髪の少女はベッドの上でスゥ、スゥと穏やかな表情で寝息を立てていた。少女は病床にいる割には素肌には()()()()()()()()()()()()、健康的な血色のためにとても病人だとは思えなかった。


 しかし普段のものとは異なり、素肌を極力隠しているだけの病衣を纏っている少女の身体には、その外面的な見た目は関係無く、無数の検査機器が取り付けられており、人に使われない様な物まで含まれていた。


 明らかに異質。しかもよく見れば少女は手足を拘束具で固定されていた。


 さながら囚人の様な扱いをされているが、少女は別に罪を犯してここにいる訳でなかった。


 ならば何故ここにいるのか。


 それは黒点から現れた、国が討伐隊を編成しなければならない程の巨大な蠍の魔物をたった二人で斃し、その()()()()()()()()()()()()()()()()()の扱いに困ったが故の結果だった。


 人ならざる者。魔人。そして英雄。それらは全て寝ている間に付けられた、少女の二つ名だ。


 少女の活躍はトリアの一件以降ヴァールテクスに広がり、その姿を一向に見せないために様々な憶測が飛び交い、時間が経てば経つ程にそれは増えて拡散されていた。


 そんなヴァールテクスで一躍時の人となっている少女の名は、エミル・シュバルツァー。


 二週間前にトリアで蠍と死闘を繰り広げ、この病床に運び込まれてから未だに目を覚さない眠り姫だった。


 ◇


『いい加減、飽きたら?』

『まだ、もうちょっとだけ』

『粘るな』

『お姉ちゃんのいじわる』

『いじわる、じゃない』

『じゃあ、きちく?』

『何とでもいえ』


 いやいやと駄々をこねる白髪の少女(エミル)と、呆れた表情で黒髪の瓜二つの顔をした少女(ユミル)は現在、二人しかいない世界で舌戦を繰り広げていた。


 と言っても引き篭もろうとする妹とそれを諭す姉と言った感じの、ゆるいものではあるが。


『お姉ちゃんは頑張った。ちょう頑張った。だから次は、エミルが頑張って』

『ううぅ。がんばりたくはなぃ』

『がんばれ、がんばれ』


 エミルの頭を片手で雑に撫でまわしながら、ユミルは感情なんて一切こもっても無い様な応援を適当にする。


 それでもエミルは不貞腐れていた顔を次第に緩め、時々姉に髪の毛をぐちゃぐちゃに弄ばれようとも笑顔を絶やさなかった。


 何ともエミルとユミルに温度差が感じられるがそれもそのはず、このやり取りが既に三回以上は繰り返していたからだった。


『んー、早く表に出て欲しいなぁ』


 エミルの髪の毛を手櫛で整えサイドアップにしながら、ユミルは独り言つ。


 ユミルからしたらこれ以上エミルとの無駄では無いがやり取りを続けていると、現実世界でどれだけ時間が経っているかが分からないために、ジークとか諸々の人に余計な心配をかけてしまうと、ちょっとした罪悪感に苛まれていた。


 けれどそう頭で理解していても、ユミルはついつい同じやり取りをして、エミルを甘やかしてしまっていた。


『早く行かないと、ジークが心配するよ』

『わ、分かってるけど……もうちょっと』

『んー、ん。んー』

『きゃっ、お姉ちゃん。やめてぇ〜』


 髪の毛から調整して()()()()()()()身体を弄る事にしたユミルに、エミルも対抗するようにして互いに揉みくちゃになりながら戯れる。


 そうして時間は過ぎていく。


 エミルは表に出ようとする決心が中々つかない。ただそれは決してマイナスの感情があるからではない。


 何だかんだと言って中々エミルが表に出る事をしないのは、表に出るのが嫌だと言うよりも、今はユミルと二人でお喋りしながら戯れたい欲求の方が強いのだ。


 こうなった原因は主に法の国に来てから構ってやれてなかったユミルにある。


 なのでこうして構い倒していればいずれ満足して、自らから表に出てくれるので、結局の所時間が解決する問題だった。


 そうしてユミルの見通し通りにエミルが現実世界で目覚めたのは、気を失ってから実に一月が経った後だった。


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