第二十八話 気付き
続きです。
対物ライフル。本来ならその射手は制御するためにライフルを地に起き伏射するのだが、ユミルは全て重力魔法にて補正し、両手で持って構えていた。
「照準……完了。重力魔法付与……完了。ふぁいや」
第六感で捉えた心臓に狙いを定めて、ユミルは宙で静止した状態でライフルの引き金を引く。
ドンと火薬が爆発した音が空気を震わせ、放たれた弾丸は重力魔法によって砲身の中で更に加速し、摩擦で赤く発熱しながら今までにない威力で一直線に蠍の急所に飛んで行く。
「(通じて)」
この一撃まではユミルが頭の中で描いた通りに事を進められている。けれど、そのことに慢心は出来なかった。今の現状はほぼ初見殺しのようなユミルの攻撃に、蠍が対応しきれていなかっただけなのだから。
二度目はこんなに簡単にいかないと、ユミルは思う。それは蠍の対応速度が物語っていた。
それにこの一連の流れで魔力をかなり消費した。この攻撃だって重力魔法を使って加速させるために、連射は出来ない。故にユミルはこの一撃で致命傷をと願ってしまう。
しかしユミルの願いとは裏腹に、放った弾丸は蠍の心臓に届く事はなかった。
魔鉄の雨を防いでいた蠍は上空の魔力に気付き、防衛本能からか尾だけが咄嗟に心臓を守る様に動かすのが見えてしまった。
そしてその差し込まれた尾が心臓を守る役割を見事に果たしたのも。
「ちっ」
常に冷静で感情を表に出さないユミルでも、これには舌打ちをし表情も険しくなる。
尾を貫く事はまで可能だったが、肝心の心臓までには到達しなかった。それは第六感を通して分かってしまった。
「(次弾を――ッ、やっぱりダメ)」
致命傷ではないが確実に傷を負わせる事に成功した。防がれたならもう一度と淡い期待でユミルは次弾を装填しようとしたが、やはり蠍はその猶予を与えてはくれなかった。
蠍は流れ出る体液をものともせずに、撃ち貫かれた尾を動かし再びユミルに散弾銃のごとき攻撃を繰り出してくる。それも最初と比べて明らかに速度が上がったものをだ。
これにはユミルも堪らず、攻撃よりも回避に専念せざるを得なかった。そして流石に足場の乏しい宙で避け続けるのは無理があると、ユミルは急いで地上に戻る。
その際、多少の傷を負う事は免れないと思っていたが、それはユミルではない誰かから次々と高速で投げ込まれる新たな足場と、蠍を陽動するための攻撃が飛んでくることによって杞憂に終わる。
ジークの援護がやってきたのである。
「ジーク」
聞こえないと分かっていても、ついその名をユミルは呼んでしまう。
「(どうしてだろう……気持ちが高揚する)」
ユミルが先程まで感じていた不安がジークの声を聞いた訳でも触れ合っている訳でもないのに、名前を口にしてそこにいると意識しただけで消えてしまう。
「(不思議だ)」
一緒に残って戦うと言ってくれた時も、たった一言で意図を汲み取ってくれた時も、この完璧なタイミングの援護も、その全てがユミルの心と感情を揺らす。
今だって不安が消えて、ジークが一緒に戦ってくれると考えるだけで心が温かくなって、何でも出来る気がしてくる。
「範囲重力」
ジークのおかげで無事に地に降り立つことができたユミルは、命懸けで蠍の注意を引いてくれていたジークを範囲重力を使ってすかさず援護に入る。
ギチギチギチ。
苛立つ様に鋏角を鳴らし、ジークを狙っていた蠍はその場で多脚を使って地を砕く勢いでユミルに振り向く。
「お互い様」
盲目のユミルに蠍の表情なんて分からない。けれど第六感が、昂る魔力がユミルに伝えてくる。
斃してやる。
第二ラウンドが始まる。




