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第二十五話 黒点

あけましておめでとうございます。

続きです。

 質問をするだけして直ぐに自分の世界に入ってしまったユミルに、ミサキは苦笑しながらこれからのことを考える。


「(このまま一人の友達として接する? それとも国騎士として? ううぅ、これが仕事絡みじゃなければ、もっと気が楽だったのに〜)」


 手元にある端末を一瞥し、ミサキは内心でユミル達への何とも言えない罪悪感を募らせていた。


 ユミルが置かれている複雑な事情もそうだが、今までの自分達の行動。そして本人の口から聞いた訳でもないのに、凄惨な過去の事までを一方的に知ってしまったのが、ミサキの良心を苛ませていた。


 正直、ミサキはジークと手を繋いで歩くユミルに憐憫の情を禁じ得なかった。


「(想像よりヘビーな内容だったな)」


 各国で話題になっていた和の国で発見された少女の話。それは当然、国騎士でそれも上位者であるミサキ達の耳にも一応は届いていた。


 その時はへぇ、そうかと特に気にした事はなかったし、端末に送られてきた国からの情報を見るまで争奪戦なるものが密かに行われていることも知らなかった。


 今回ミサキ達が法の国にやって来たのだって銀狼を監視すると言う名目で、実質は普通に学生生活を謳歌するためだった。


 ただ銀狼が転生者と分かってからは、名目では無くなっていたが。


「(こうなる事は、ある程度予想していたのかなぁ)」


 上層部に連絡を入れてから間を置かずの辞令。それに加えてミサキ達が求めていた情報が簡潔にまとめられたものまで付属されてくると、いやでも察してしまう。


「(ただ、もう今更かぁ)」


 いくら内心で色々と思う所があったとしても、辞令が届いてしまった以上、ミサキ達は国騎士として仕事を全うしなければならない。ならばせめてお互いにとって良き関係でありたいと、ミサキは思った。


「ユミルちゃんは、いっぱい買うねぇー」


 色々とミサキが悩んでいるのも露知らず、ユミルは目的地に着いた途端ジークを早速促し屋台へといそいそと向かう。


 そしてそんな姿を眺めながら、ミサキは呑気な感想を述べた。


「ですね」

「だな」


 ミサキと同様に移動中に他愛の会話をしながら何か考えていたマキやレオンも、ミサキに同調すると共に気持ちを切り替えたようだった。


「いや、多くない?」

「もしかして、俺達の分もあるのか?」


 遠目からでも分かるぐらいにアイテムボックスの中に次々と消えていく肉は、ジークと小柄なユミルが食べるにしては明らかに量が多かった。


 三人はもしかして無視されてなかったのかもと淡い期待をしてみるが、暫くしてもユミル達が一切こちらを気にする気配が無く、三人はそっと肩を落とした。


「私達も何か食べようよぉー。見ていたら、お腹減ってきたし」

「良いですね。あのケバブみたいなのは、どうですか?」

「良いねぇー」


 ユミルが満喫しているなら良しとポジティブに捉えてから、ミサキ達も食欲をそそる屋台に足を向ける。けれどその足は目的地に着く前に止まった。


「――ッ、何が……」


 唐突に異常な魔力の唸りを感知し、ミサキの肌がぞわりと粟立つ。そして反射的にその異常の発生源に目を向けて、ミサキは声を失った。


 視線の先にあったのは黒。


 まるで空間に穴を開けたように、それは上空に点在していた。


「なんだあれ」

「こんな大掛かりな催しなんてあったか?」

「いや、知らないわ」


 ミサキ以外の人々も続々と上空の異変に気付き、足を止めて興味深そうに黒点を見つめてそれが何なのか思案する。


「(こんな魔法、見た事も聞いた事ないなぁ。流石は魔の国。一体どんな魔法――ッ)」


 ミサキも感心しながら黒点が何なのかと推測をし始めようとした時、事態は黒点の中から現れた()()によって急転する。


 理不尽(まもの)が空から降って来る。


「魔物だぁぁぁ!!」


 けたたましいサイレンの音と、誰かの絶叫。その二つによって花見会場は一気に騒めきだす。


 その場から逃げ出す者。状況を理解出来ず放心する者。パニックになり狂乱する者。そして、冷静に自身の役目を全うしようとする者によって、会場は混沌と化す。


「――ッ、ミサキ!」

「分かってる!!『狂詩曲(ラプソディ)』―――『平穏(セレーノ)』」


 いち早く自身の役目を果たしたのはミサキだった。


 ユニーク魔法(神の恩恵)によって生成したリュートを使い、今必要な音楽(まほう)を奏で始める。


 ――♪♪――♪♪


 ぽろん、ぽろろんとゆったりとした綺麗な音色を鳴らす。


 だが喧騒の中ではその音は貧弱に思えた。


 けれど無秩序の坩堝と化した会場の全員の耳に、何故か届いた。


「どけ! 俺は……」

「早く逃げ……」


 我を失っていた人々は耳に届いた(まほう)によって我に返り、理性を取り戻し始める。

 

 そしてその僅かな瞬間を、マキは見逃さなかった。


「『国騎士の避難指示に従って下さい!!』」


 ミサキの魔法によって生まれた一瞬の空白に、絶妙なタイミングで大音量にした魔道具を使い、マキは周囲の人々に素早く的確な指示を飛ばす。


「(ここはこれで大丈夫。後は――)」


 辺りの人が協力し合いその場にいた国騎士が秩序を保つのを確認してから、マキとミサキは共にアイコンタクトを交わし駆け出す。


 目的地は、助けが必要そうな区画だ。


「(ミサキには悪いけど、気絶するまで頑張って貰うわよ)」


 マキの隣を並走するミサキの顔色は悪い。


 時間にしてほんの少しの魔法の行使だったはずなのに額には玉のような汗をかき、息遣いも荒くなっていた。


 けれど、マキはその様子を見ても走るスピードは緩めない。


「(うぅー! キッツいぃー!! 今ので私の魔力、半分くらい消し飛んだよぉーー!!)」


 魔力の急激な消費によって全身に強い倦怠感を覚えていても身体に鞭を打ち、ミサキはマキに付いていく。


「はぁ、はぁ、マキちゃん。私、後三回が限界かも」

「了解よ。私が必ず守るから安心して」

「鬼畜ぅー」

「レオン。状況は?」

「『北の区画は勇猛果敢な学生達のおかげで順調だ。俺はこのまま西に向かうから、ミサキ達は南を頼む』」


 何かを破砕するようなノイズと共にレオンの声がマキの端末から聞こえてくる。


 レオンもミサキと同様に己の役割を全うするために、別行動をしていた。


「……了解よ。魔物は、蠍系統で間違いない?」

「『あぁ、間違いない。全長は約三メートルほどで、瘴気によって外骨格を強化していた』」

「魔石は?」

「『中体の第二体節付近だ』」

「了解。ミサキも聞いたわね?」

「ふぅぅぅ、おっけー。ちなみに等級はいくつぐらい?」

「『五から六といった感じだな』」


 身体強化を使って人で混雑する道では無く、街中をパルクールの様に疾走しながら、三人は必要な情報を共有していく。


「あの一体を除いてよね?」

「『……あぁ』」

「無茶はしても、死なないでよ。レオン君」


 レオンの向かおうとしている西の区画には、やばいのがいる。それは三人の共通認識だった。


 だからマキはレオンが西に向かうと言った瞬間、返事をするのが僅かに遅れた。


「『分かってるさ。俺もこんな所で――ッ、マジか』」

「どうしたの!?」

「『ジークの見てみろ』」


 レオンの言葉通り端末に届いていたジークのメッセージを二人は確認する。


「「……」」


 確認してミサキとマキは言葉を失った。


『デカいのにはユミルが向かった』


 メッセージには端的にそう書かれていた。


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