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第二十一話 友達

遅くなりました。続きです。

「分かった。じゃあ改めてよろしくね。ジーク君」

「これから仲良くしましょうね。ジークさん」

「よろしくな。ジーク」

「あぁ、こちらこそ」


 よろしくと満面の笑みを浮かべるミサキと、柔らかな微笑みを浮かべ律儀にお辞儀するマキ。そして少し照れ臭そうに握手を求めるレオンと新たに友好関係を結んだジークは、ひとまずこれからの事を考える。


(とりあえず今日の目的は達した。ただ問題は、ミサキ達をユミル達がどう思うかだな)


 友達を欲しがっていたユミル達にミサキ達を紹介するのは確定なのだが、どのような伝え方が一番無難なのかと、ジークは頭を悩ませる。


 何せミサキ達とユミル達の出会いは最悪に近い。特にエミルは勘違いとは言え、ミサキ達を一度敵と認識しているために、要注意しなければならない。


「よっし! それじゃ今から皆んなで、ご飯でも食べに行かない? 親睦会も兼ねてさ」

「お腹空いたのね。ミサキ」

「少し落ち着けって。まだ帰って来てない人がいるだろ?」

「えへ、そうだった……じゃ、あの子が帰って来るまで、根掘り葉掘り聞いちゃう? 聞いちゃいます?」

「それは二人揃ってからにしましょう。そうでないと、あの子の恥じらう可愛い姿が見れないわ」

「揺るぎねぇな。おい」


 ジークと再び友好関係を結んだミサキ達は思案しているジークを置いてけぼりにして、三人で会話を続けているが、これが彼等の日常であった。


(こいつ等は放置でいいか)


 脊髄反射のように口から出てくる淀みのないミサキ達の会話がどうでもいいものだったので、ジークは特に口を挟むこと無く背景音楽として聞き流し、逆に好都合とテーブルに片手で頬杖をついて聞いているふりをしながら、ユミル達に先ずは何と言って説明するかを考える事にした。


(ただ結局。表に出ているユミルに何を説明したとしても『そう』の一言で終わりそうなんだけどな)


 エミルとは対照的に、良くも悪くもユミルは他人に興味が無い。いや、他人に興味を持つまでが遅いと言った方が適切か。


 恐らくミサキやマキのことを、かつての恋人や友人だったと説明し、これからは二人とも友人になってくれると伝えたとしても、ユミルが直ぐに興味を持つ事は無いだろうとジークは思う。


 ジークがマリ達の事を説明した時もそうだったし、過去を遡ってみても付き合いが短い者、浅い者に対してユミルが興味を持った所をジークは一度も見たことがないので、間違いはないだろう。


 三年近くの付き合いがあるジークで、漸く興味を持たれていると実感出来るぐらいなので、いくらエミルが友達を欲していたとしても、ユミルの性格ではいきなり変社交的になる事は無いとジークは言い切れた。


(ミサキ達に頑張って貰うしかないか)


 目の前で尚も会話を続けているミサキ達を見て、ジークは考え方を変える。


 この際ユミル達の認識が友達以下だとかは置いておいて、ミサキ達にはジークから意欲的にユミル達と接して欲しいと頼む。そしてユミル達の反応を見ながら、ジークが関係が悪くならないように取り成し、様子を見る方が無難なのではと。


 それに元々最初に開示した転生者では無いことと一緒に住んでいるという情報でミサキ達の興味を釣り、そこから友達とか関係無く争奪戦に巻き込むつもりだったので、ジークはこれを良案だと思った。


 何も知らないだろう国騎士(ミサキ)達を使って参加者達を誤解させ、ミサキ達が争奪戦に巻き込まれるように誘導し、ミサキ達がユミル達の取り巻く複雑な環境を知った後、どの様な行動を起こすのかを確認してから、ミサキ達が本当に信頼出来るか最終的に判断する。


 ジークの考える筋書きは大凡こんな感じだった。


(最悪の場合俺が――っと、ダメだ。また思考が過激になっている)


 ふと思考がエミル達の安寧を守るためだけに帰結していることに気づいたジークは、獣人の血が為せる無意識な本能を理性で制御する。


(全く、防衛本能とは厄介なものだ)


 これが普通種とのハーフでは無く純血だったなら、前世の記憶を引き継いでいなければ、本能のままに流されていたとジークは思う。


 今でもふとした瞬間にユミルの首筋にマーキングを残したいなど考えてしまうぐらいなので、ジークは銀狼の血が半分で良かったと心から思った。


「おーい、もしもーし。ジークくーん、話し聞いてるー?」

「……すまん。考え事をしていて、聞いてなかった」

「これはジークさんの何時ものやつですね」

「だな。懐かしいな」

「一々懐かしむなよ……それで何だ?」

「これから私達はどうすれば良いかなー、って」

「ちょっと待て。今帰って来た」

「マジ?」


 誰とも言わずにジークは席から立ち、そのまミサキ達を置いて音が鳴った玄関に早足で向かう。


「ただいま」

「おう。おかえり」


 そうして案の定ただいまと言って帰って来たユミルにジークは返事を返し、迎え入れた。


「来客中?」

「そうだが、話しは既に終わっている。それよりメリダさんから貰った診断書を」


 玄関に置いてある靴の数で家の中に誰かいることに気付いたユミルだったが、ジークは質問に答える前にメリダからの診断書を見せるようにユミルに催促する。


「ん? はい」


 家にいる他人に気を取られていたユミルだったが、ジークが何も言って来ないので警戒をする必要がないのだと思い、促されるままに診断書を手渡す。


 ただその時ユミルに若干の抵抗があったのをジークは見逃さなかった。


「……はぁ」


 少しの沈黙の後、ジークは息を吐く。そこには安堵と呆れが含まれていた。


「暫くは、食費が嵩むな」

「ごめん」

「謝罪は要らない。それよりも――」


 渡されたメリダの診断書を見たジークは、散々メリダからも釘を刺されたであろうユミルに、追い討ちをかけるように小言を言う。


 何故なら診断結果にこう書かれていた。


 身体強化のリミットオーバーによる右腕の損傷と、魔力による短時間での超回復、と。


 ユミルから聞いた話しとその内容からエミルを守ろうとした結果なのは明白だが、それでユミルが自傷していたら意味が無いと、治るからと無茶をしないようにと、ジークは幼児を相手しているかの様にユミルに言い聞かせる。


「分かったか?」

「うん」

「エミルは?」

「大丈夫」

「そうか」


 そうして一通りの確認が済んだジークは漸くミサキ達の事を口にしようとした所で視線を感じ、後ろを振り返ってみると、リビングに居たはずの三人がジーク達の様子を盗み見るように顔を出しているのを見つけた。


「激甘じゃん」

「頭撫で撫でとか、羨ましい。私もしたいです」

「口調も態度も、まるで別人じゃねぇか」


 目が合っているのにも関わらず、ニヤニヤと口元を緩めジーク達に聞こえるような声量で感想を言い始めるミサキ達に、ジークは自身が揶揄われているのだと察する。


 けれどそこで恥じらうなどの可愛げは、散々カナン達から揶揄われてきたジークには無かった。


「誰?」

「バカ三人組だ」


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