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第十九話 交流会

遅くなりました。続きです。


『魔法のイージスアート、騎士のナイトランド、討魔のデーモンクエストのいずれかに入学する事が決まった才能のある若者達に、先ずはおめでとうと言おう。私は――』


 学園長の挨拶から始まった入学式は、三学園同時開催ともあって粛々と進められていた。


 ただ既に多くの学生達は関係者各位の挨拶やら、留学生に向けた挨拶、各新入生代表の挨拶など、壇上を代わる代わる人が行き交うだけの見栄えの無い時間に退屈していた。


 彼等の多くが真に待ち望んでいるのは有難い言葉なのでは無く、入学式後に行われる予定の在校生、つまり彼等の先輩達主催による三校交流会なのだ。


 学生達はその交流会で転換期の第一歩目として新たな友やライバル、或いは異性や先輩を見つけようとしていた。


 それ故に式中だというのに学生達は、同じ新入生に注目していた。


『見られる』

『だねー』


 ちらちらと盗み見るように向けられる雑多な視線の中に混じって、こちらを観察する様な視線を向けてくる人達がいることにユミルは感心する。

 

 よくこれだけ多くの人がいる中で、魔法も使わずに自分を見つけたなと。


 服装も髪型も変え、ジークを動揺させるぐらいにはユミルは変化した。そしていくらジークと一緒にいるからといってもこの人混みの中で、争奪戦の参加者が簡単にこちらを見つけれるとは思っていなかっただけに、ユミルは感心しながらも彼等の警戒度を少しあげることにした。


『やっかい?』

『うん。でも、馬鹿よりマシ』


 ユミルの言う馬鹿とは、今も尚こちらを不快にする視線を向けてくる奴等の事を指していた。


(馬鹿がいるのは何処でも変わらないか)


 駆け引きや心理戦などのエミルにはまだ理解し難い方が、ユミルも心を乱さなくて済む。けれど、エミルの心を乱す様な理解しやすい直接的な害意には、ユミルも穏やかではいられない。


 今だって本音を言えば(エミル)の守護者である(ユミル)として、心の安寧を脅かす奴等を可能なら可及的速やかに排除したい。したいが、人間社会に身を置くならば攻撃的な行動は自重しなければならない。だだ視線を向けられただけでは、如何に不快だろうと直接手を出した方が悪なのだと理解しているから。


(参加者には馬鹿がいませんように)


 マリティモやファルスの様に、線引きを分かっている人等だと良いなと、まだ視線だけしか知らない存在に対してユミルはそう願わずにはいられなかった。


『これにて入学式を閉会させて頂きます。つきましては、在校生によるささやかなパーティーを開催させて頂きますので、参加希望の学生様達はこのままお座席でお待ち下さい』


「よっしゃ」

「待ってたぜ」


 入学式は恙無く終了し多くの学生が待ちに待った催しのアナウンスが響き渡ると、学生達は俄かに色めきだす。


「参加で、良いんだよな?」

「うん」

「了解。退出は自由だから、帰りたくなったら言えよ」

「うい」


 普段通りに落ち着きを払ったジークに参加の有無を改めて確認されるが、ユミルはこの交流会に厄介な奴らがいる事を承知で参加するのを決めていた。


 その理由は勿論語るまでも無くエミルの為で、ジークとユミルでは埋められない(エミル)の寂しさを埋めるために、この交流会でカナン達の代わりになる様な人を見つけておきたかったからだ。


 ただ、厄介な馬鹿に自分を知っている知らない人。そして何も知らないただの人。そんな色々な人達がごちゃ混ぜの中で、ユミル自身もここで簡単に見つかるとは思っていないが。


「ジーク、友達作り手伝って」

「……了解」


 ユミルのその言葉でジークは交流会に参加した理由を察した。


『準備が完了したぞ、新入生共。精々羽目を外し過ぎないよう注意しながら、楽しんでいってくれ。では、乾杯!』


 開催を告げる在校生の音頭と共に、乾杯と配られた飲み物を片手に掲げた学生達は、一斉に交流会を存分に楽しもうと動きだす。


 ある者は先ずは腹拵えだと並べられた豪勢な料理に舌鼓を打ち。またある者は料理には目もくれずに出会いを求めて奔走し、会場は一気に騒々しくなる。


 そしてその騒々しさ代表とも呼べる一つの集団の中にジークはいた。


「まぁ! そうなのですね」

「素晴らしいですわ」

「あぁ、ジーク様とお呼びしても?」


 その集団はユミルの代わりにジークが一つのグループに声を掛けたのがきっかけで出来上がったものだった。


 少数のイケメン男性達に集まる複数の女性達。その中で最も多くの女性に囲まれているのがジークであり、それは現在進行形で増え続け、最早ジークの声を聞き取る事すらままならない程に賑やかになっていた。


 そんな状況でユミルは早々に集団から距離を取り、すごいなぁと陳腐な感想を抱きながらジークの行く末を見守っていた。


『ジークって、イケメンなのね』

『モテモテだねー』


 美しい銀髪が素敵。


 黄金の瞳が素敵。


 美丈夫で優雅な立ち居振る舞いが素敵。


 そんなジークを褒め称える言葉ばかりが聞こえてくる。


 それは決してユミル達からは出てこない言葉で、その言葉がジークの本当の姿を見た者達の感想なのだと、ユミルは理解する。


 銀髪をオールバックにまとめ、執事を彷彿とさせる燕尾服を着る背筋の伸びた長身の美丈夫。他の成人したての新入生とは思えない大人な雰囲気を纏い、私に侍る姿は違和感が無い程に洗練されており、私を見つめる時にだけ優しく緩む金の双眸が有象無象達には堪らないそうだ。


(だからジークは直ぐに視線の理由に思い当たったのか)


 盲目が故に今のジークの容姿を詳しく知らなかったユミルは今更ながらに、ジークが何の迷いも無く容姿が原因だと断言したのが自身も経験があったからなのだと気付く。


 道理であの言葉には説得力があった訳だ。


 そう一人で納得したところでユミルにもついに声がかかった。


「君の彼氏、モテモテだねぇ」

「……」

「まぁ、確かにイケメンですけど、私は可愛い子の方が好きですね」

「マキの言う可愛い子って、男じゃないだろ……」

「よくわかっているじゃないですか」

「私は彼女より、彼氏の方が良いなぁー」

「同感、俺も普通に彼女が良い」

「私だって彼氏が良いけど、私のお眼鏡に敵う男性がいないのだから、仕方ないでしょう?」

「そりゃ、マキの要求を満たす男の娘なんて、絶対いる訳ないだろ。お前もそう思うよな?」

「……」

「ちっちっちぃー、レオン君、この世に絶対はないんだよ?」

「そうよ。絶対いるわ」

「おい、なんでミサキはマキに希望を持たせんだよ。マキを行き遅れにさせたいのか? てか、マキはミサキの話し聞いてたか?」

「だって普通にしても、私より先に()()()()()()が結婚とか有り得ないでしょ? だから希望ぐらいは、別に良いかなって」

「あら、残念だわミサキ。私をそんな風に思っていたなんて。貴方も酷いと思わない?」

「……」

「えへ」

「あら。可愛いから許すわ」


 ユミルは一言も喋っていない。


 それなのに会話は流れるように淀みなく続く。


 けれど不思議と疎外感を覚えない。まるでカナン達の時と同じように。


「ところで着物の君は、()()()なのか聞いても良いかなぁ?」


『てきだ』


 ミサキと呼ばれていた者から何の脈絡も無く、唐突に意味分からない質問と共に三人から魔力を向けられたユミルは、エミルの声で反射的に敵対者を排除しようと動く。


 そして振り向きざまにアイテムボックスから取り出した刀で、一人目の敵対者の首を刎ね飛ばす既の所でユミルはその手を止めた。


「あ……ごめん。勘違い」


 ユミルは今のは殺意ではなく、威圧の部類だったことに気付いたのだ。


 けれど、今しがた死を体感したばかりのミサキには、その謝罪を許容する余裕は無かった。


「……だ、だいじょうぶ。大丈夫、大丈夫だよね?」


 彼女は真っ青な顔でうわ言のように大丈夫と口にしながら、頻りに自身の首が未だに繋がっていることを確かめていた。


「――ッ、はぁぁ……俺達もいきなりで悪かった。いや、これは俺達の方が悪かった」

「謝罪します」


 膝が笑って側から見れば普通では無い顔をしたミサキを庇うように二人は、ユミルの謝罪を受け入れ、逆に自分達に非があったと謝罪する。


 虚言を吐くなよと、その程度の軽い脅しのつもりで魔力を向けたのだと弁解も兼ねて。


「そう……質問の意味は分からないけど、私は――」

「何があった?」


 これ以上事を荒立てたくはない。そうユミルが口にする前に、剣呑な雰囲気を纏ったジークが口を挟んだ。


(タイミングわる)


 恐らく助けに来てくれただろうジークには悪いが、ユミルはそう思わざるを得なかった。


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