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第一話 ここはどこ? 私は誰?

これは盲目少女の改訂版です。


 何も変わらないと思っていた日常は、一体の生物によって引き起こされた厄災によって唐突に終わりを迎える。


 それは瞬く間に人類の発展を後退させ、新たな概念を生み出し、あったはずの文明を過去の物にしていった。


 高度な技術によって発展していた世界は衰退し本来の自然が街を、国を覆っていく。そうして取り残された文明は月日を経て土木に埋もれ、次第に失われていった。


 けれど人類は全てを失った訳では無かった。この時代に生きていた人類が生み出し、後世に遺したものは確かに存在している。


 その中でも書物には決まってこの時代を象徴する、とある一文が書き記されていた。


 たった一体の()()から始まった暗黒の時代と。



 ◇



 灯の一つも無い暗闇の中で目を覚ます。深い眠りだったのか中々はっきりとしない頭で、暫く暗闇を見つめてから独り言つ。


 ここは何処だ?


 見渡す限りの暗闇。光の無い世界にいた。全く記憶に無い場所での目覚めに、目を覚ます以前の記憶を辿ろうとして思考は停止した。


 何も憶えていない。


 名前や生まれは勿論、容姿や自身がどの様な人物だったかさえも憶えていなかった。


 けれど、アイデンティティを喪失していると自己で認識したのにも関わらず、不思議と不安や焦りは湧いてこない。思考はクリアで心は落ち着いていた。


 なのでひとまずは自分の置かれている現状を確認しよう。そうして、ふと気付く。


 身体が思うように動かない。


 確かに存在しているはずの手足は感覚が鈍く、自身の意思通りに反応を示してくれない。


 どうしたものか。


 現状を把握しようにも手足が動かなければ、やれる事は限られてしまう。


 あー、あー......うん?


 声を出してるはずなのに、肝心の音が耳に入ってこない。ドクン、ドクンと自身の心臓が脈打つ音以外何も聞こえてはこない。


 どうやら手足に限らず自身の身体にはまだ問題があるようだ。


 手足も動かず、音すらも聞こえない暗闇。光源が一切ないのか夜目がきくこともない場所で、アイデンティティを失った一人がポツンと存在している。


 知り得た現状を客観的に見てみると分かってはいだが、かなり詰んでいると思う。


 これは本当にどうしたものか......幸い、と言っていいのか寒暖と空腹は今は感じられない。ならば現状に変化が訪れるまでは、しばし耐久するしかないか。



 ......自身の一人称でも考えてみるか。



 ◇



 思考の海に沈んでいると気付けば寝てしまっていたのか、唐突にやってきた衝撃に()は目を覚ます。


 現状を打開出来る変化でも訪れたのだろうか?


「■■■■■■」

「■■■」


 期待した変化は直ぐに訪れた。機械音でも無ければ獣の呻き声でも無く、人語のような音が耳に入ってくる。


 良かった。此処には俺以外にも知的生命体がいたようだ。


「■■■■■■■■」

「■■■? ■■■■■」

「......」


 うん。目覚めてから初めての新しい音なので、聴いているだけでも素直に嬉しい。けれど悲しきかな内容が全く理解出来ない。恐らく会話なのだろうとは推測出来るのだけど。


 どうにかして声の主達と交信しようと考えて、すぐに身振り手振りでコミュニケーションをと思い至ったが、依然として光源の一つも無い暗闇に、そもそも自身の手足を動かせない事を思い出して、肩を落とす。ならばと試しに意味は伝わらなくともこちらから声を掛けよう思い口を開いたが、結果は目覚めた時から変わっていなかった。


 今の俺は畜生と同等の存在と言っても過言ではないだろう。


「■■■、■■■■」

「■■」


 会話を続けている彼等? とどうやって意思疎通を図ろうかと頭を悩ませていると、突然右腕にチクリと明瞭な痛みが走る。


 痛い。


 そう感じた瞬間から怒涛の感情の波が俺に押し寄せてくる。


 身体が震えるほどの恐怖、吐き気を催す嫌悪、全身が沸騰したかのような憤怒。


 ありとあらゆる感情が思考を塗り潰すように心を支配する。


 嫌だ。死にたくない。怖い。どうして。死ね。消えろ。殺してやる。


 だれかたすけて。


 その感情を最後に俺は意識を失った。

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