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ダルダside

 あの夜中の集まりから三日後、オレとカイは王宮の地下に作られた転移専用の部屋にいる。この部屋は滅多な事じゃ使われる事はない。悪用されない為っていうのもあるが、発動するだけでそこそこな量の魔力を使うからだ。


「それではお気をつけてください」


 それなのに、ここにいるのがこいつ…ルドルフ一人っていう事実に呆れちまう。魔法使いでもないのに発動に必要な魔力を一人でまかなえるなんざどんだけだ。魔法使いですら発動させるのに最低二人は必要だぞ?いや、クラウスの奴も馬鹿みてぇな魔力持ってたな。


「騎士団団長と一番隊隊長だぞ?心配しなくても大丈夫だって!」


「誰もあなた方の心配なんてしていませんよ。私が心配なのはカイが持っている魔道具です」


 呆れた顔のルドルフの言葉に、こっちか、とさっきルドルフからカイに渡された魔道具を見る。そこには、直径五センチ程の四角い箱のような物がある。


 ちょっと力を入れればすぐに壊れそうだなーなんて思ってると、「間違ってもその馬鹿力て触らないように」とジト目で注意してきやがる。なんでわかったんだ。


「顔に出てますよ。それに、今までダルダさんが壊してきた魔道具の数を忘れたとは言わせませんよ」


 わざとじゃねえんだからそんな言い方しなくてもいいじゃねえかと思うが、絶対に口には出さない。命は惜しいし理由が何であれ壊した事自体は悪いと思ってる。壊した数も覚えてる。確か十…いや二十……?まあそのぐらいだったはず。


 オレは魔道具の作り方に詳しい訳ではないがそれでも、魔道具の製作期間や値段はピンからキリまで、数時間で作れる物から数ヶ月かかる物まで幅広いってことぐらいは知ってる。その中でオレが壊してきた魔道具は、まあまあいい物だったりそれなりに貴重な物とかだったりする。一点物の魔道具を壊して帰った時の魔法省の職員の顔は今でも忘れられない。別にオレだってわざと壊してるわけじゃねえ!ただちょっと、勢い余っちまうことが多いだけだ。


 だが…とチラっと魔道具を見る。なんの魔道具かは聞いてないが間違いなく貴重なものだろう。もしこれを壊したら魔法省の連中は……。


「…ルドルフさん、ダルダさんには指一本触れさせませんから安心してください」


 もしやらかしたらなんて想像をしてたらんなことを言われた。オレ団長だぞ!信用ねえな!お前もいい笑顔で頷いてんじゃねーぞルドルフ!壊されるのが嫌ならもうちょっと頑丈に作れってんだ!


「ちっ!行くぞカイ!」


「わかりました。では、よろしくお願いします」


 オレとカイが床に直接掘り込まれている魔方陣の中に入ると、外からルドルフが起動させる。魔方陣は、陣の中から魔力を流しても発動しない。必ず外からだ。だから誰かが一人でこっそり、なんてことは出来ない。


「では、お気をつけて」


 ルドルフが言い終わると同時に目の前がまぶしく光り、完全に発動された。


――――――


――――――――


 目を開けると数メートル先に森がある。左右を見ても森は途切れる事なく視界のずっと先まで続いている。実際にこの目で見たのは初めてだがこれが原始の森なんだろう…。


「見た目だけならただの森だが…。なんつーか、森そのものが魔力の塊みてぇだな」


「そうですね…。それに、これほど大きな魔力を感じるのに何の不快感もない」


「そんだけ質がいいんだろ。さて…」


 観察を中断して、しばらく拠点となるテントを張るために腰の魔法鞄(マジックバック)から取り出す。一週間以内に何かしら分かればいいがな。そう思いながら作業しているとそんなオレを置いてカイが森に向かって歩いて行ってしまった。


 気にはなったが先にこっちを終わらせるかとさっとテントを張り終えてしまう。あっという間に終わらせればカイもこっちに戻ってくるとこだ。

 

「なんだ、もう戻ってきたのか」


「魔道具を森の近くに設置してきただけですからね」


「そういやあれは何の魔道具なんだ?」


「ルドルフさんによると、魔力を流してから次に魔力を流すまでの間、周りのものを映像として残しておけるみたいですよ。ただ流石に一週間も起動し続けることは出来ないので、一日一回魔石の交換をしないといけないらしいです」


「ほぉ~、便利なもんだなぁ。というか、何でお前は知ってるのにオレは知らないんだ?ルドルフから何も聞いてないぞ?」


「昨日ルドルフさんが尋ねてきて教えてくれました」


 その説明になるほどと納得する。最初からオレに持たせなかったのと今の説明で今回のアレもたぶんあんま数がない魔道具だなと推測する。前に同じように魔力を流すやつを勢い余って壊しちまったから、今回は最初からオレにやらせる気はなかったんだろうな。


「テントありがとうございます。調査とはいえ森に入る事は出来ないですから出来ることは少ないですね」


「まあそれを見越してのあの魔道具だろうから気にしなくていいだろう」


 火を起こしながら言えばカイも「そうですね」と頷き腰をおろした。


 原始の森には入るな。これは全ての国共通の決まりで、子供から大人までどんなド田舎の人間だって知ってて当たり前。


 それぞれの国が出来た当初は誰もが森に自由に入れたらしい。森には聖獣達が暮らしていて互いを友としていい関係を築いていたんだとよ。


 森には貴重な薬草が山ほど存在していて、たまに困った人間が来れば惜しむ事なく分け与えそれに人間が感謝し森と聖獣を大切にする。大体の人間はそうだったが、欲深い奴はどの時代にもいるもんで……。


 どこの国かは知らねえ。もしかしたらこの国を含めて全部の国の人間だったのかもしれない。森の貴重な薬草を勝手に採取し売り捌く奴らが出始めた。葉っぱ一枚枝一本でも貴重な薬草だ。森深くまで入らなくても簡単に手に入る。


 法で禁止されてなかった事と聖獣達が気にしてなかった事でそのまま放置されてたが、ある時最悪なことをしでかした愚か者達がいた。


 自分の欲の為だけに、聖獣を捕まえたのだ。


 ただそこは聖獣。すぐさま魔法で森の外まで弾き飛ばしたらしいが、ほかの聖獣そしてその上の聖王はこの事実に激怒した。たった一回。だが一回あればどれだけ禁止されようが今後も絶対に同じ様な人間が現れる。


 今まで友好的な関係を続けていた事も事実。だから報復はしない。だけど森への立ち入りは今後一切を禁ずる。それが聖獣達の総意だった。


 それ以来、森に近づく事は出来ても森に入る事も葉っぱ一枚触ることも出来なくなった。薄い膜のようなもので覆われているので聖獣達の力何だろうな。全く、馬鹿なことしたもんだぜ。




 これからの事を少し話し合い、一度森を近くで見てみようとカイと魔道具を置いたって場所まで来たんだが…。


「ほんとにここなのか?」


「ええ…ここで間違いないです」


「…どうすっかなぁ」


 困惑した様子のカイの隣でオレはこれからどうするか考える。カイが魔道具を設置したという場所には何も無かった。忽然と消えた魔道具のせいでオレはまたルドルフやクラウスにどやされるんだろうかと少し憂鬱な気分になりながら、空を見上げた。

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