王城side
エレウテリーの南に位置する国、ディエス。
その王都にある城の一室には、深夜にもかかわらず五人の男達が集まっていた。
一人目は短い金髪をオールバックにし、楽しそうに赤い瞳を細めている国王のジン・フォン・ディエス。酒の入ったグラスを手にニヤニヤとしてる。
二人目はサラサラの深紫の髪をした宰相のルドルフ・キャベル。眼鏡の奥にある髪と同じ深紫色の切れ長の瞳は冷え冷えとしていて、今すぐ帰りたい気持ちを隠そうとしていない。
三人目はフワフワの白茶色の髪の魔法省長官のクラウス・バトン。今にも鼻歌を歌いながらスキップしそうな程浮かれている。細目であまり見えないが、その茶色の瞳はキラキラと輝き好奇心を隠せていない。
四人目は栗色の髪を刈り上げている騎士団団長のダルダ・フォーレスト。さっきまでお酒を飲んでいたせいか、何回も欠伸をこぼしては頑張って起きようとしている。眠たそうな琥珀の瞳は欠伸のし過ぎで涙が滲んでいる。
最後は短い白髪と空色の瞳を持つ騎士団一番隊隊長のカイ・ロウェルト。無表情でダルダが寝落ちしそうになるたび起こしてあげてる。無表情だが、一度本気で殴れば目が覚めるんじゃないかと考えている。
なぜこの五人が集まっているかというと、原因はルミのいる原始の森だ。
「だからね?やっぱりこういうのは、ボクみたいに魔法に詳しい人間が行った方がいいと思うんだぁ。何かあればすぐに対処できるしぃ」
「おっ!なら俺も行った方がいいだろう。しっかり自分の目で見て国に危険がないか確かめないと」
「なら〜調査に行くのはボクとへい…」
「お黙り下さい。あなたたちはただ興味本位で行きたいだけでしょう」
ルドルフにバッサリ切られブーブー文句を言うジンとクラウス。文句を言う度にルドルフの機嫌は急降下していき、二人が「はっ!」と気づいた時には彼の背後にはブリザードが吹き荒れていた。比喩ではない。その証拠に彼の後ろに飾られていた花が花瓶ごと凍っている。
「…何か文句でも?」
「「いえ、何もありません」」
にっこりと微笑む顔のなんと恐ろしいことか。女性達がきゃーきゃー騒ぐ笑顔も、二人からしたらただただ恐ろしいだけだ。静かになった二人にやれやれと首を振り、すぐに頭から二人の存在を追い出す。うち一人は国王なのにひどい扱いだ。
「では、話を戻しましょう。目的は原始の森の調査です。これはダルダさんとカイで行ってきてください。三日後に出発、現地で長くても一週間の滞在を予定していますので、欲しい物があれば言ってください。できる限りこちらで用意します」
「わかった。でもよー、俺達だけでほんとにいいのか?少し前から確認されてる森を覆う魔力が変化した原因を調査しに行くんだろ?クラウスじゃないにしろ一人は魔法使いを連れていった方がいいんじゃ…」
「それは絶対にやめてください」
ダルダの提案に食い気味のルドルフ。その勢いに「お、おぅ…」とダルダは若干引き、その様子を見たクラウスは望みが断たれシュンと落ち込む。
視界の隅で国王が慰めているのがムカつくが無視だ。
「いいですか?魔法省の方々は良い言い方をすれば研究熱心な方の集まりですが、実際は度を越えたただの研究馬鹿の集まりです。そんな方が普段行くことの出来ない場所に行ったら…」
そこで一度言葉を切り、チラリとクラウスを見る。目があったクラウスはルドルフの言いたいことが予想つくのか、気まずげにスーっと目をそらす。
「予定通りに帰ってくるなんてありえません。最悪数ヶ月…いえ年単位で帰って来ないでしょう」
「そりゃあなんでも言いすぎじゃねぇか?」
「そこの長官殿は一年帰ってきませんでしたよ」
「「「「………」」」」
それはダメだろ。さっきまで慰めていた国王も呆れた顔で見ている。ていうか、知らなかったのか国王。他3人がクラウスを見ている中、ルドルフはジト目で国王を見ている。きっと彼の明日の仕事量は倍になっていることだろう。憐れ国王。
「今回の調査理由と場所を考えればふざけられるものではないですが、それでも確実に期限通りに帰って来るなんてありえないでしょうね。結果が出ても出なくでも」
結果が出てないならまだしも、結果が出ても絶対に何か理由をつけてすぐに帰らないだろう…。気にせず置いていこうものなら、彼らは間違いなくこれ幸いと呼び戻されるまでずっと研究してるに違いない。
「…移動は馬ですか?」
「転移陣を使います。今回はあまり時間をかけたくないので。それにどこかの誰かが偶然にも森に行ったことがあるらしく、座標の記録があるんですよ」
「「………」」
目が笑っていない笑顔のルドルフに、ダルダとカイはそれ以上何も言えず静かに視線を逸らす。含みのある言い方に、一人冷や汗が止まらない人物が。言うまでもなくクラウスだ。寒くないのに一人ガタガタと震えている。
最後までなんとも心身共に疲れた話し合いを終わらせ解散する男達。宰相に隠し事は出来ないと彼らの胸にしっかりと刻まれた夜だった。