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 コーラカルはアダンの傍らに腰掛け、口を開いた。


「世界がなぜこうなったか、私にも詳しくは分かりません。私は民間宇宙船の介助ヒューマノイド、宇宙での作業や船員の世話をするだけの存在。宇宙という概念は分かりますか。この地上の上、空の彼方の更に先に、そういった空間があるのです。そこにご主人さ……神と名乗るあの男が逃げてきたのです」


 崩壊する世界の中心で、コーラカルはゆっくりと掌の中のアダンに話し続ける。


「おそらくは、地上で何か起きたのでしょう。人々が暮らせなくなるほどのなにか、特別な機材も積んでいない民間機で科学者が逃げねばならないほどのなにかが……男は科学者でした。脳電装置と呼ばれる、人の感情でエネルギーを造り出す装置の開発関係者……そう記憶しています」


 コーラカルは崩れていく空を見上げた。そこには青い空も灰色の雲もなく、ただ黒い穴が広がっていくのが見えた。


「男は言っていました。人はそれぞれに小さな『宇宙』を持っている、と。それが感情であり意識であり、そこからエネルギーを生み出すのは難しい事ではないとも」


 空は完全に崩れ去り、星一つ見えない漆黒が頭上を覆っていた。大地もまた砕け、浮き上がっていくのが遠くに見えた。


「あの男は、生き残った人々と地球の再建を目指していたようです。生き残りの大半は私のようなヒューマノイドを地球に送り込み、長い時間をかけて星を再生させようとしていました。ですが、宇宙船の脳電装置を動かせる『人間』は生き残った十数人だけ。今いる人間が死ねばもうどうにもならないという状況でした」


 浮き上がった大地は空へと上りながらその形を失い、崩れながら消滅していく。


「それというのも、人類の生殖器は直接的な繁殖行為を行えないほど退化していました。計画的な人口操作、性被害の根絶、母体の安全確保。それらのために、人類は性行為だけでなく、出産までも全て機械で行うようになっていたのです。先ほど申し上げた通り、急遽発射した宇宙船にはそのような機材も、機材をプリントできるほどの大掛かりなプリンターも搭載されていませんでした。このままでは人類は絶滅するしかない、という状況でした」


 崩壊する大地は、アダンたちからほんの数キロ先まで迫っていた。


「そこであの男は、新しいヒューマノイド。新しい『人類』の創造に着手しました。私のように与えられた職務をこなすだけではない、感情や意識を……その身に『宇宙』を宿す存在を創造しようとしたのです。詳しくは分かりませんが、とにかくあの男は『新しい人類』の創造に成功しました。ですが、それは結局は脳電装置へのエネルギー源として使用されるにとどめられました。最終的には私のようなヒューマノイドを地球に放ち、安全確認の後にプリンターや機材を回収する、という計画が採用されたようです。ただ、地上に機材が残されている確率は限りなく低く、絶滅は免れない状態でした」


 コーラカルの周りに残された場所は僅か数百メートルであり、あとはただ黒い空間が広がっている。


「その決定に、あの男は納得できなかった。あの男は『新しい人類』を量産して脳電装置に繋げ、最も力が強く、簡単に発生する感情を装置に注ぎ込みました。それは、痛み、苦しみ、絶望。肉体的、精神的に苦痛を与えるだけで無限に生み出せる感情。それを利用し、あの男は脳電装置に繋がれた者たちの『宇宙』を現実世界に接続しました。その結果、本当の世界の内側に、いくつもの世界が産み出されました。今、私やアダン様が居るこの世界もその中の一つ。あの男は本当の世界に一人残り、内側の世界のあり方を意のままに操れるようになりました。そしてその中で、『新しい人類』を導ける存在を生み出そうとしたようです」


 コーラカルは崩壊しきった暗黒に目を向け、また口を開く。


「その中に生きる人たちの、絶望や苦しみを燃料にして、『新しい人類』や『新しい宇宙』を次々に生み出す。何度も何度も世界を創り直し、あの男が満足する存在が生まれるまで、惨劇を繰り返す。許されることではありません。ですが、私もあの男の言うままに、アダン様たち『新しい人類』を導いてきました。もう幾度も世界をまたいで生きてきました。色々と記憶が曖昧になっています」


 コーラカルはうつむき、声を震わせた。


「それなのに、私の目の前で死んでいった皆様を忘れることだけが……できないのです」


 コーラカルの瞳には、涙が浮かんでいた。

 人形が流すことのない、涙が。


「初めは何も感じなかったのです。私はヒューマノイド、AIに死の概念は分かりません。ですが、ですがなぜ、こんなにも苦しいのですか。死んでいった皆様の顔だけが、鮮明に思い出されます。その度に、胸が苦しくなるのです。あの男は、いつもでこんなことを続けるのですか。何故あの男は、ご主人様はこんなことを続けるのですか! ご主人様は優しかった、私を人として見てくれた、人間を愛しておられた。それなのに、それなのに……何故……!」


 コーラカルの瞳から涙が零れ、掌の肉塊に、アダンに落ちた。


「私はもう、どうしたらいいか分かりません。ご主人様を止めてほしい。でも、そうなるとアダン様はどうなるか分かりません。私は世界が崩壊しても次の世界に行くことができます。でもアダン様はそうじゃない。アダン様は『内側の宇宙』で生まれました。私とご主人様のような元から居た『外側』の人物ではないのです。内側の生物は次の世界に行けないのです。その方を無理やり『外側』に引き出せばどうなるか……分からないのです……!」


 コーラカルは、綺麗な人形の顔のまま涙をこぼし続けた。 


「そもそも、私が肉体を渡すことに失敗するかもしれません。ご主人様に触れられるようになるかもわかりません。触れられたところで敗れるかもしれません。その上、仮に勝利したとしてもその後どうなってしまうのか分かりません。ご主人様を倒すという事は、『外側の宇宙』に行くことです。私の体を御貸しできるのはせいぜい一時の事、その後はアダン様は実態なく、外の空間に締め出されることになるかもしれません。絵画を飛び出した獣の絵は、その世界の理から外れた怪物です。誰とも交われずに永遠に孤独、それだけでなく、消える事もできずただただ彷徨い続ける。そんな事になる可能性も……」


 コーラカルの頬に、何かが触れた。彼女の掌の肉塊が、彼女の涙を拭ったのだ。差し伸ばされたのは、血濡れの肉手であり、彼女の頬には涙の代わりに血の跡が残された。おぞましい光景にも見えたが、コーラカルは血の付いた頬に触れ、人形らしからぬ温かな涙を流した。


「アダン様……」

「……」

「…、……」

「よろしいのですか、お話した通り……」

「…、……、……」

「アダン様、貴方はそんな姿になっても御変わりありませんね」

「……、…」

「……わかりました。では、始めます」


 コーラカルの周りに薄く光る図形のようなものがいくつも現れた。コーラカルがその一つを指さし、他の図形へと引き寄せ、合わせていく。それを繰り返すうちに、彼女の体が徐々に光の粒子となり、掌のアダンだった肉塊に少しずつ集まっていく。肉塊に集まる光の粒子はやがて一つの光となり、少しずつ人の形へと姿を変えて行った。

 光が消え去ると、そこにはアダンが立っていた。衣服のあちらこちらが裂け、体に接着してしまっている。先ほどまでの姿そのままだった。アダンは自身の手を何度か握りしめると、壊れた漆黒の空を見上げた。頭上の黒に、白く光るひび割れが現れ始めた。世界はもうすぐ完全に壊れるのだろう。

 神がどこにいるか、今のアダンにはわかっていた。アダンは残されたわずかな大地を蹴って飛び上がると、幾筋も入ったひび割れのひとつへと姿を消した。

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