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痛みは感じなかった。ただ、一瞬で自身が崩壊していくのは妙にはっきり認識できた。何も見えない、聞こえない。時がたっているのか、止まっているのかも分からない。
そんな音も無く広がる闇の中に、小さな光が見えた。光は徐々にその大きさを増し、その光の中に何かが居るのが確認できた。いよいよ光は大きくなり、奥に居る人影の動きや姿かたちまで見えた。
(コーラカル……?)
その光の中には、コーラカルがいた。だが、その姿には少しの違和感があった。顔は確かに彼女であったが、服装がアダンの知っているものはなかった。肌に張り付くような、光沢のある見た事もない衣服。彼女が居る場所も奇妙だった。壁や床は白く滑らかな石のようにもみえたが、どこか違う。壁や床に埋め込まれた光も様々な色をみせ、窓から覗く外界は、暗闇のようにもみえたが、遠くに浮かぶ青い球体が見える。どれもこれもアダンが知らないものだった。
そんな中を、コーラカルと思しき人物が進んでいく。ひどく綺麗な石造りの廊下を進み、自動で左右に開く扉を潜り抜けると、また別の人影が見えた。背中しか見えないが、白い衣服を身に纏った華奢な男だ。
その男は光る壁に向かって何かを話しかけていて、コーラカルに気が付かない様子だった。しばらく男は何かを訴えている様子だったが、やがて諦めたように二言三言、光る壁に返答を返すと、壁から光が消え、ただの綺麗な壁に戻った。アダンは振り返った男の顔をみて驚いた。
(こいつは……)
間違いなかった。先ほどアダンの目の前に現れた神だった。
『ああ、コーラカル居たのか。驚いたよ』
『ご主人様、お掃除が完了いたしました』
『……ああ、ご苦労様』
反響したように聞こえたコーラカルの声は、今までアダンたちが聞いてきたものより、更に無機質な声だった。男は眉を下げて微笑み、彼女の労をねぎらった。先ほど自分が対峙した男と、本当に同じ人物かと疑いたくなる、穏やかな表情だった。
『夕食のお時間はいかがなさいますか』
『ああ、そうだね……』
『ご主人様、ここのところ睡眠時間が十分ではないようです。食事時間も不規則、運動時間も基準に達していません。健康的な問題が発生する前に改善すべきかと』
『……ああ、分かった』
『ご主人様、なにか心的な問題があるように見受けられますが』
『うん、まあ……いや、なんでもないよ。食事にしよう』
『本日のメニューは6番と8番、サイドメニューは……』
徐々にコーラカルと男の姿が光に消え、暗闇に戻った。そしてすぐに別の光がアダンの眼前に広がり、また男が映し出された。男は先ほどと同じように光る壁に話しかけていた。今度はかなり語気を荒げている。
『それでは駄目だ、従来のモデルでは……それは分かってる! だから僕の……ああ、まだ実験段階だ、だが君も知ってるだろう! ここのエネルギーは僕の『脳電装置』で賄ってる! これが実現すれば、エネルギーの恒久的な供給にもつながるだろう! それをそっちの計画に転用してもなんの問題も……いくら外身が動作が人間でも、彼らが行うのはデータベースに基づいたものだけだ! そこに『主観』や『感情』が伴わなければ、それは……だから僕は……ああ、もちろん……ああ、わかってるよ。必ず間に合わせる。それじゃ……』
『ご主人様、よろしいでしょうか』
『ああ、いいよ。なんだいコーラカル』
『入浴予定のお時間から、既に2時間経過しています』
『……そうだな、そうだった……』
『入浴の準備をしてよろしいでしょうか』
『……コーラカル、君はどうなんだ?』
『申し訳ありません、質問内容が理解できません』
『船内の床とか壁、僕に触れた時にどう感じてる? なにか思う事はあるのか? 冷たいとか熱いとか、嬉しいとか悲しいとか感じているのか?』
『過度な冷感や温感は避けるようにとプログラムされています。感情についてはどういったものかは理解しています。ご主人様が不快に感じられる事は致しません』
『……感情を理解しているならば、その先にもきっと』
『ご主人さま?』
『……いや、なんでもないよ。ありがとう……』
また光が消え失せ、再び別の光が現れる。
『やった……やったぞコーラカル!』
『ご主人様、過度な興奮状態になっております。今すぐこちらの……』
『いいから! これをみてくれ! これが新しい人類ヒューマノイド、『アダム』だ!』
『アダム、最初の人類ですか』
『そうそう、ありきたりな名前だけどやっぱりしっくりくるのは、最初の人類の名前だった。女性型『イブ』も作るつもりだ。とりあず『A型』と名付けようか』
『こちらの方々は……私と同じヒューマノイドですか?』
『見た目はね、でも中身は全然違う。どちらかといえば僕たち人間に限りなく近いんだ。自分で物事を考え、判断し、行動する』
『私のモデルもそれは行えますが、どのように違うのでしょうか』
『君たちは常に的確な判断を下せる。でも彼はそうじゃないんだ。時にはとんでもない間違いを犯してしまったりする』
『それは不良品では』
『違うんだ、感情に流され、時に非合理的な判断を下してしまうのが、僕たち人間だ。誰がどう見ても不必要なものを必要だと思ったり、どう考えても不快なものを快だと感じる。その複雑で面倒な『主観』や『自我』を、彼らは初めから搭載しているんだ。単なる感情にとどまらない、その個人だけが持つ『感情』をね』
『……申し訳ありません。私の頭脳では理解できません』
『そうか、そうだよね……でも、もしかしたら君もいつか、長く生きていれば、僕たちみたいに『自我』に目覚めるかも。感情が理解できるならきっといつか……まあ、そのころには君の体もガタが来て、僕も死んでるだろうけどね。さ、食事の用意をお願いできるかな、コーラカル……』
また光は消え、そして現れる。
『ご主人様、いかがなさいましたか』
『今、上層部から量産命令が出たよ……』
『新しい人類の、ですか』
『ああ……ただ、地球への入植計画には使われない……ただ、ここのエネルギー供給のために量産しろだなんて!』
『ご主人様、そのようにしてはお怪我を……』
『もう二度と間違いを犯さないように? 今度こそ完璧な歴史を? ふざけるな! 完璧などありはしない、自分の価値観も持たずに、ただ繁殖するだけなら微生物でいい! 人間である必要はない!』
『ご主人様、おやめに……』
『ヒトを創るのは神や自然への冒涜、冒涜だと!? やつらの考えが生命への冒涜だ! 未知の困難に相対した時、知識や経験、自我に従い乗り越えるのが尊い生命だ! 困難のない世界に発展などない! 発展のない世界など電子データ以下だ! ただただ劣化していくだけのゴミだ!』
『ご主人様、失礼いたします』
『うっ……コーラカル…鎮静剤か……』
『はい、落ち着かれましたか』
『ああ……落ち着いた、ありがとう。恥ずかしいところを見せたね』
『いえ、そのような事はありません』
『……終わったことを言ってもしょうがない。コーラカル、ラボの鍵を開けてくれ。『エネルギー源』の量産をしないとね……』
光が消え、現れる。
『……驚いた。脳電装置の反応量が人間となんら変わりない……やはり僕の『A型』は間違いなく新しい人類だ……待てよ、これを使えばあの時の再現も……』
『ご主人様、そろそろ休憩のお時間を』
『いや、あれはもう二度と……このままここに居てもゆっくりと滅びるだけだ……だった創り直すのもそう変わらないじゃないか。あいつ等の言う管理された未来よりも、ずっと世界はあるべき姿に近づく……! 苦難を乗り越えた先の光をつかみ取る……死んでいないだけの生ではない、人を人たらしめている感情に満ち溢れた……!』
『ご主人様ご休憩をとらなければお体に影響が……』
『……コーラカル、お願いがあるんだ』
『なんでもお申し付けください』
『——この世界を創りなおす手伝いをしてくれないか』
光が消え、次に現れた光の中には異様な光景が広がっていた。男が『脳電装置』と呼んだ謎の物体に、百人を超える人間が管で繋がれている。その顔はどれも苦悶の表情を浮かべ、彼らに繋がれた透明な管から黒いものが『脳電装置』に注がれている。その様子を、赤い光に照らされた隣の部屋から男とコーラカルが見ている。
やがて『脳電装置』にひびが入り、中からインクのような漆黒が噴き出した。それは周りの繋がれた人々を飲み込み、装置がある部屋から染み出し始めていた。その黒い物は扉を押し壊し、男とコーラカルを飲み込んだ。後に残されたものは何もなく、ただ漆黒の世界が広がっていた。




