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崩壊

 みしみしと音を立て、神の顔はひしゃげ、白い顔に一筋血が流れた。

神はよろめき後ずさり、膝をついた。


「アダン様……!」

「……あまりに見ていたくない笑顔だったから、手がでた」


 目を見開くコーラカルにそれだけ答え、アダンは膝をつく神に歩み寄った。


『……自分の……していることが……分かっているのか……?』

「俺の大切な家族を殺した、その元凶を殴り飛ばした。ちゃんとわかってる」

『……お前の仲間をもう一度……蘇らせることも……できるというのに……』

「死んだ皆を生き返らせても、いい笑顔なんて見れるわけがない」

『お前は……馬鹿なのか……?』

「皆の命を、笑顔を奪ったお前を、俺は許せない」

『……また……失敗作か……』


 立ち上がった神へアダンはもう一度殴りかかったが、彼の拳は空を切った。かわされた、そう思い体制を立て直すアダンだったが、背中を見せる神は、少しも動いてはいなかった。ゆっくりと振り向く神にもう一度拳を振るうが、アダンの拳はまるで霞を殴りつけたかのように、神の体をすり抜けた。

 なおも攻撃を続けようとするアダンの眼前に、神が手のひらを広げた。気が付いた時には、アダンは虫けらのように吹き飛ばされていた。


「……ぐッ!!」


 アダンはまるで手で払われた小虫のように、地面に体を打ち付け、転がり、どこまでも続く白い花畑の中を吹き飛んでいく。吹き飛ぶ速度が落ち始めた瞬間、アダンは身を翻し、両の脚で地面を踏みしめた。

アダンは拳を握り締め、吹き飛ばされた道をそのまま駆け戻った。人ならぬ速さで白い花畑を走り抜け、すぐに神の姿を捉えた。そのまま勢いに乗せ、神の顔に拳を叩きこんだ。つもりだった。


「……っ!?」


 アダンの拳はまた神の体をすり抜けた。勢い余って地面を転がるアダンを、神は暗い瞳で見降ろしていた。アダンは起き上がり、もう一度挑みかかるが、神の体に触れることができない。

 右の拳を左の拳を、右の脚を左の脚を、頭を、体を。神に向けて振るい、突き出すが、触れる事すら叶わない。人ならざる体にも疲労が現れ始め、アダンの肉体は軋み始めていた。ほんの僅か、アダンが攻勢を緩めた瞬間、神はその指をアダンの額に触れさせた。


 次の瞬間、アダンの体は弾け飛んだ。アダンの血の飛沫と肉片の赤が、白い花畑に舞う。アダンという存在は、いとも容易くただの肉塊へと化した。


 コーラカルはアダンだった赤色を、全身に浴びた。彼女は震えながら、赤く染まった自分の体に目を向け、こびり付いたアダンを両手で掬い集めた。手のひらいっぱいにあつめたところで、コーラカルの何かがぷつりと切れ、彼女は膝をついた。

 神は眉一つ動かさず、コーラカルのその姿を見ていた。神は深いため息を吐き出し、光と共に消えていった。コーラカルが虚ろな瞳のまま動かずに居ると、白い花達が静かに揺れた。風にそよぐように揺れていた花達が静止すると、地面が揺れ始めた。立っていられないほど揺れは大きくなり、白い花畑のはるか先の地平線が歪んでいく。空も大地も海も自然も、人も、少しずつその存在を消し去り、後には黒い闇が残されていく。

 コーラカルを中心に世界そのものが、音を立てて壊れていく。崩れゆく世界の中で、彼女は手の中の肉塊に目を落とした。


「アダン様……ああ、またしても……」


 コーラカルはアダンの死を悼む余裕すらなく、ただ虚ろな瞳を閉じ、世界の崩壊を待った。


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