神との対峙、そして握手
コーラカルが震えながら頷くと、神はアダンたちの前で歩みを止めた。年格好はアダンよりも少し上で、体格は華奢な印象を受けた。自身の血や固着した衣服で、黒く染まったアダンの姿と対比するように、神はその髪も衣服も肌も白く、神々しさすら感じられた。だが、その身に纏う気配からは歪んだ狂気が滲んでいた。
「お前が……」
アダンが一歩足を前に出すと、神は動いた。とっさにに身構えるアダンだったが、神はアダンに危害を加えようとせず、ただ大きく両の腕を広げた。
『……素晴らしい』
小さく呟かれた神の声は、かすんだように酷く不明瞭な音で、アダンの頭の中に響いた。アダンは反射的に耳をふさぐが、脳に直接響くような声を防ぐことはできなかった。
『……遂に完成した……百を超える人形……徐々に理想へと近づき……アダン……お前が完成品だ……人間の模造品ではない……新たな生命……新たな命……新たな……』
「何を言っている……?」
「そう、彼の目的は新たな人類の創造……そのために、それだけのためにあんな非道を……」
神はコーラカルへ視線を向ける事すらせずに、また不明瞭な声を発した。
『この世界に満ち満ちた絶望……苦難を乗り越えたお前は……人を導ける存在となった……これからは……お前たち新たな命が……自らの手で未来を創れ……』
「俺が、未来を……?」
『お前は私に近い力を得た……これからは……お前の望む未来のため……自由に人々を導いていけ……』
「自由に……」
『笑顔あふれる世界……それが理想ならそうするがいい……私はそれを見させてもらう……世界は外から干渉されるべきではない……その内に生きる者が……自らの手で救わなければならない』
「笑顔、溢れる……」
アダンは体を震わせ、うつむいた。神に成り替わることを提案され、心が揺らいでしまっていると、コーラカルは思った。
それでは私の願いは叶わない。彼女は焦り、何か言おうと口を動かすが、言葉になって彼女の声が発せられることは無かった。自分の願いを叶えるために、神の言う事を聞くな、などというあまりに自分本位な言動を、彼女自身が無意識に拒否してしまった結果だった。
『お前の仲間を……蘇らせることも不可能ではない……』
「……!」
アダンはハッとして、神の顔を見上げた。アダンの瞳は強い感情で揺れていた。やがてアダンの顔に一つの決意のようなものが浮かんだ。傍らで見ていたコーラカルは、言葉を発することもできずに、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。神は尚もコーラカルには視線を向けずに、アダンの様子を見て満足げに頷いた。それからもう一歩アダンに近寄ると、その手を開いて差し出した。
「……」
『これからは……お前が神となれ……』
アダンは瞬時ためらい、そして差し伸ばされた神の手をゆっくりと掴んだ。人ならざる者とは思えないような温かな掌に、アダンは強張っていた自分の体が弛緩していくのを感じた。
神は静かに微笑み、アダンはその笑顔をまっすぐに見つめた。アダンは小さく息を吐き出すと、握った手にしっかりと力を込めた。
そして、握った手を引き寄せ、腕に唸りをつけて神の右頬を殴った。
『……ッ!!??』
「ふざけるな……!」




