この世界は
「お見事です、アダン様」
アダンの傍らに来たコーラカルは静かにそう言うと、倒れ伏した純白の英雄に歩み寄り、膝をついた。静かに目を閉じ、「貴女は最期まで気高い人でした」と囁き、その死を悼んだ。アダンも折れたシガールの刀を見つめ、今は亡き持ち主を想った。
「……答えてくれるか、お前の知っていること全て」
コーラカルは蟷螂の亡骸の傍から立ち上がると、
「突飛な話に聞こえるかもしれません。馬鹿馬鹿しく聞こえるかもしれません。それでも、聞いて下さいますか」
アダンが静かに頷いても、コーラカルは何かをためらうように視線を動かしていたが、やがてアダンの顔を正面から見据え、話し始めた。
「はるか昔……いいえ、はるか未来と言った方が正しいかもしれません。今のこの世界よりも、ずっと技術や化学が発展し、多くのモノが溢れている時代がありました。人々は鳥のように空を飛び回り、魚のように自由に泳ぎ、遠く離れた地へも一瞬で移動できる。そんな時代がありました」
「それが、なんでこうなってる」
「それは……詳しくは分かりません。ただ、ある時を境に世界は壊れてしまったようです。エネルギーの枯渇か、大量破壊兵器か、地殻変動か大災害か……あるいは今の世界にいる蟲のような侵略者が居たのかもしれません」
「なんで分からないんだ」
「それは……私が『造られた』のが、世界が壊れた後だったからです」
「造られた?」
コーラカルは一拍置いて、更に続けた。
「この世界にある全ては造られたものです。人も蟲も、大地も空も海も山も、私だけでなく、マイ様も鶯の皆様もアダン様も、全て……」
「神に創られたってことか」
「はい……ですが、神話や伝承の類とはまた違います。人智を超えた存在が、不可思議な力を用いて創り上げた、というものではありません。一人の男が自らの意思で、自らの理想を実現するために造り上げた偽物、それがこの世界です」
「偽物……俺たちもか」
「……私の本当の名前は、『ヒューマノイドN-313』。アダン様も本当のお名前は『A-108』、マイ様は『A-107』、マイ様を殺害した蜘蛛も『A-082』……鶯の皆様にも、それぞれ個別の番号がお名前なのです……私たちは、人間ではないのです。人間を模倣して造られた人形……あの男は、私たち人形を本物の人間にしようと、この世界を――」
コーラカルが言い終わる前に、白い花畑を光が包み込んだ。そしてその光の中から一つの影が降り立った。それは青年の形をしていたが、人ではなかった。その影は二人の前へと歩みを進める。虚ろで禍々しい気配を纏った、『神』が二人の前に姿を現した。
「貴方は……!」
「こいつが、神か……?」




