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蜘蛛

「アダン、様……」


 絶望の表情を浮かべるコーラカルを一瞥もせず、アダンは歩き始めた。甲冑のごとく甲殻が音を立て、地を踏みしめる足音は人間のそれではなかった。異形の蟲となったアダンは、蜘蛛の目の前に歩み出た。


 アダンだった蟲は蜘蛛と対峙した。


 蜘蛛の頭部をよく見れば、そこに僅かに人の面影があった。頑強な武人を思わせる顔立ちで、その視線は蟲になってなお、純粋な強者の色を湛えていた。アダンは臆することなく、その武人の視線を正面から受け止めた。

 数秒の間二人はにらみ合うと、蜘蛛はアダンに向けて溶岩液を噴射した。マイを葬ったその液体を、アダンはかわすことなく受け、立ち尽くしたまま燃え上がった。蜘蛛は立て続けに背中の蜘蛛の脚からアダンに灼熱の粘液を吹きかけ続ける。何度も熱液をかぶったアダンの体は燃え上がり、彼の姿は異臭を放つ煙でで見えなくなった。蜘蛛は熱液器官の器官を引くと、鋭利な爪のようなものが付いた別の脚を構えなおした。鈍く輝く強靭な爪を、蜘蛛は油断することなく、煙を上げるアダンの体に突き出した。


 瞬間、煙の中から何かが飛び出し、蜘蛛の腹を貫いた。


 蜘蛛は口から体液を噴き出し、目を見開いて燃え上がるアダンに目を向けた。炎を払いのけたアダンの姿は焼け焦げてはいたが、焦げているのは甲殻のみで、その下に守られた本体はまったくの無傷だった。アダンの腕には、彼の鼻筋から伸びた角と同じようなものが伸び、蜘蛛の腹に突き刺さっていた。

 アダンだった蟲は、もう片方の手からも角のようなものを生やし、突き出し、蜘蛛を串刺した。蜘蛛も反撃するが、吹きかけられる溶岩液も、叩きつけられる蜘蛛の爪も意に介さず、アダンは蜘蛛をそのまま持ち上げた。アダンが力を込めると、蜘蛛の体にひびが入り、溶岩のような体液が滴った。アダンは滴る体液を気にも掛けず、蜘蛛の体を頭上に振り上げ、力任せにを引き裂いた。両断された蜘蛛の体から飛び散る溶岩の体液を、アダンだった蟲は頭から浴びた。彼の甲殻は僅かに溶けたが、溶けた先からすぐに修復された。

 アダンは地に転がる蜘蛛の上半身に頭を向け、人ならざる足音を立てながら近づいた。感情の失った目でそれを見下ろすアダンを、蜘蛛は驚嘆の表情を浮かべて見上げた。アダンだった蟲は、虚ろな瞳のままその顔を一息に踏み潰した。


「アダン様、貴方まで……」


 アダンはゆっくりとコーラカルに顔を向けた。そのまま甲殻を鳴らしながら歩み寄る。コーラカルは一縷の望みをかけ、その瞳を正面から見据えるが、その『蟲』の瞳にはかつての光はほとんど残っていなかった。絶望し、頭を垂れるコーラカルに、アダンはその手を伸ばした。


 その瞬間、アダンとコーラカルの間に黒い影が降り立った。

 見上げるほどの巨躯に、漆黒の躰。

 巨大な、蟷螂カマキリ


「マンティーデ様!」


 コーラカルがそう呼んだ蟲は、アダンへと淡く光る鎌を振り下ろした。両腕の角で防ごうとしたアダンだったが、アダンの両腕の角は容易く切裂かれた。静寂が訪れ、振り下ろされた蟷螂の刃から光が失われた。それに代わる様にアダンの体に光る筋が残されていた。


 脳天から股下まで続いたその線に沿って、アダンだった蟲の体はふたつに断たれた。


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