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変貌

「……――ははっ」


 アダンはマイの亡骸を抱えたまま、膝をついて、笑った。

 くぐもった、喉を鳴らすような笑い声。

 アダンが好んだ笑いではない。

 正気を失いかけた自分を保とうとする、歪な笑顔。

 アダンの瞳から涙が幾筋もこぼれた。

 彼は泣き、笑った。


「アダン様……!」


 コーラカルはアダンに駆け寄った。

 コーラカルはアダンの肩を掴んで揺さぶったが、アダンはただ手の中のマイの亡骸を見下ろし、泣き、笑った。やがて彼の笑い声はおさまり、代わりに唸るような声が喉の奥で鳴った。体の奥底から沸き上がる絶望が、怒りへと転化される。友を殺した蟲への怒り、この理不尽な世界そのものへの怒り、マイを救えなかった自分への怒り――。


「アダン様! お気を確かに……!」


 アダンは歯を食いしばり、感情を押さえ込もうとした。だが、彼の喉奥からは怒りが唸りとなって湧き起こり、瞳からはとめどなく涙がこぼれ落ちる。徐々に唸り声は人のものから離れ始め、瞳からこぼれ落ちる涙は赤く、黒く染まり始めた。


「お願いします、アダン様……!」


 どろどろと赤黒い涙が、人としての何かが、アダンの瞳からこぼれ落ちる。こぼれる液体は、アダンの頬を伝い流れ落ち、彼の体に浸み込んでいく。唸る喉は一気に音を増し、抑えきれない怒りが限界にまで溜められ――決壊した。


「アダ――」

「―――――――アアァアアアアッ!!!!」


 アダンは天を仰いで叫んだ。人ならぬ慟哭は衝撃となり、コーラカルを吹き飛ばした。アダンは声の限りに、涙と怒りに震える声で叫んだ。喉が張り裂け、血が噴き出すほどに叫んだ。噴き出た血は口の端から溢れ、どす黒く染まり、アダンの体へ還っていく。皮膚はめくれ上がり、その下から新たな皮膚が――甲殻が形成されていく。


「アダン様ああああ!」


 コーラカルの叫びは届かず、アダンは叫び続けた。人間の皮膚が剥がれ落ち、全身が黒い甲殻で覆われ始める。鼻筋から天に一角、黒くゆがんだ角が伸びてゆく。全身を覆う黒い甲殻はところどころが禍々しく捻じれ、よじれ、血脈のような赤黒い紋様が浮かび上がっている。


 アダンの叫び声が収まると同時に、彼の姿は完全な蟲へと変貌した。


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