マイ
ああ、死ぬんだ。
私はここで死ぬ。
結局、何もできずにここで死ぬ。
あの時と一緒だ。
私は何も変わってない。
村の皆を見殺しにしたあの時から何も。
村の皆より、ほんの少しだけ腕っぷしが強かった。
それだって、大人の男の人には敵わない。
私より強い人なんてごまんといる。
でも、ある日私は蟲を一人で、素手で殺した。
今にして思えば、だれでも殺せるような小さな羽虫。
でも、村の皆は私を英雄だと言った。
孤児で誰にも相手にされなかった私が、初めて口をきいてもらえた。
そうしていつの間にか、村の自警団を任された。
きっと、皆何かにすがりたかったんだろう。
私は期待を受け、自警団の長になった。
分かってたのに、知ってたのに。
自分が何の役にも立たないことぐらい。
でも皆を失望させたくなかった。
違う、皆に失望されたくなかったんだ。
期待外れだとがっかりされたくなかった。
だから、才能もないのに村の守りを引き受けた。
そしてあの日が来た。
大規模な蟲の襲撃。
その時私は動けなかった。
目の前で皆次々に殺されていった。
私は指示も出さずに立ち尽くすことしかできなかった。
自警団も、村の皆も、子供も大人も皆死んだ。
体を切り裂かれ、頭に穴を開けられ、体中貫かれて死んだ。
鶯の皆がその場に現れなかったら、きっと私も死んでた。
助けられた後も、私はしばらくショックで何もできなかった。
ショックだったのは、目の前で皆が惨殺されたことじゃない。
目の前で皆が死んでいく中で、私の頭によぎった事。
ああ、やっぱりこうなった。
そうやって冷たく考えてる自分が居るがショックだった。
仕方ないじゃない、皆が私に期待しすぎるからいけないんだ。
私はできる限りのことをやった。
私以外が同じ状況になっても結局結果は変わらない。
私は悪くない。
悪いのは無理に私に任せた皆だ。
そうやって考えてる自分が居る事に絶望した。
そんな非道な自分に向き合いたくなくて、私は鶯に参加した。
少しでも人の役に立って、自分は良い人間だと証明したかった。
私は愛される人間なのだと自分に言い聞かせたかった。
人を助ければ感謝された。
自分が良い人間なのだと錯覚できた。
でも、私は非道な人間なのだろう。
目の前で知らない誰かが死んでもなんとも思わない。
大人だろうと子供だろうと何も気にしない。
悲し気なふりをするだけ。
次の瞬間には何もなかったように笑ってる。
そんな自分が大嫌いだった。
でも、シガールさんが死んだとき、私は初めて死を恐れた。
死に悲しみを覚えた。胸が張り裂けそうだった。
鶯の皆には死んでほしくないと思った。
でも、人の根幹は変わらない。
結局、私は自分からは何もしようとしないんだ。
一番辛いことをエフィさんに押し付けた。
被害者面して泣いて、自分自身を慰めてるだけ。
だから、鶯の皆まで失ったんだ。
分かってたはずだ、このままでは皆死んでしまうと。
でも、また私はなにもせずに立ち尽くした。
やっと自分の意思で動いたのは、皆が死んだ後。
それも誰にも相談せずに、一人で突っ走っただけ。
どれだけ私は自分勝手なんだろうか。
その結果がこのざまだ。
油断して、背中から蟲に焼き殺される。
ああ、私にはふさわしい死にざまなのかもしれない。
でも、アダン。
残されるあんたはどうなっちゃうの。
どうして私は死ぬの。
最期の最期まで他人任せでごめんなさい。
コーラカルさん、どうかアダンと――。
アダンは倒れ込む炭の塊を受け止めた。先ほどまで生きていて、話していた仲間が、家族が、ただの黒い炭の塊となってアダンの手の中におさまっていた。
「……マイ?」
顔だった部分の、表面の炭化した皮膚が崩れ落ち、その下には赤黒く変色した肉が見えた。赤黒い肉が蠢き、その奥に異様に白い歯が見えてことで、その部分が口だと分かった。
「ごめ…ん……」
「――――っ!」
マイだった炭の塊は、最後に一筋涙を流すと、彼の腕から崩れ落ちた。




