あの中に
のろのろと一日中歩き続け、アダンはようやくマイたちと別れた聖堂街まで戻ってくることができた。道中蟲に出会わなかったのは幸運というほかなかった。まるで誰かがアダンを生かそうとしているのかと疑いたくなるほどの、幸運だった。
ようやく仲間の元に戻ってこれたという安堵と、仲間を失い先行きも見えない絶望が、一度にアダンに襲い掛かり、彼はその場でがくりと膝を折った。
「アダン様……」
コーラカルが一言彼の名を呼ぶと、数秒後その言葉に押されるようにアダンは立ち上がった。周囲に漂う虫除けの草の香りを頼りに、マイたちを探した。瓦礫跡をめぐり、広場を見回し、半壊した建物の扉の前でうずくまって膝を抱えるマイを見つける頃には、厚く空を覆う雲の上の太陽は真昼時まで昇っていた。
近づくアダンの気配を察知したのか、マイはさっと顔を上げ、目を見開いた。それからアダンの姿を頭から足元までゆっくりと見て、勢いよく立ち上がった。
「アダン、どうしたの」
駆け寄るマイの言葉にアダンは答えず、よろよろとその場に座り込んだ。
「なに、どうしたの、なにが……」
「蟲との戦闘がありました」
「蟲って……蜻蛉みたいなでかいやつ?」
コーラカルが頷くと、マイは顔色を変えてアダンに向き直った。
「エフィさんたちは……?」
「エフィ様は、亡くなられました」
コーラカルがアダンの代わりに答えると、マイは視線を泳がせた。その顔は死人のように青ざめ、吐く息は震えていた。
「蟲に襲われ、街は壊滅しました。その中でエフィ様も……」
「アカリちゃんは……?」
「ここに来る途中に蟲に、なった……」
ぽつりと呟いたアダンの言葉に、マイの瞳がぐらりと歪んだ。
「だから、殺した……俺が……」
アダンは力なく座ったまま、瞳から涙をこぼした。それから堰を切ったように涙が溢れ出した。アダンは流れ続ける涙を拭うこともできず、声を挙げて泣くこともできず、いつものように無表情のまま頬を濡らし続けた。
無表情のまま涙だけをとめどなく溢れさせているアダンに、マイの方が表情を歪め、嗚咽を漏らして泣いた。アダンはいつも以上に感情の薄い声で呟いた。
「俺は……どうしたらよかったんだ……」
虚ろな顔をしているアダンを抱き寄せ、マイは抱き締めた。
「ごめんね、アダンにばっかり……辛い思いさせて……ッ!」
コーラカルの顔も、悲しみに歪んでいた。対照的に、マイに抱きしめられたアダンの表情は変わらなかった。
「……リュシオルはどこだ」
ハッとしたようにアダンが言うと、マイは一瞬体を強張らせ、更に顔を歪めて嗚咽を漏らした。数秒激しく泣いた後、マイはアダンから体を離し、廃屋の扉を指さした。
「あの中に…いるの……」




