縺昴l縺ェ縺ョ縺ォ菴墓腐
静まり返った瓦礫の山の中、コーラカルが進んでいく。
家屋も露店も、石も木も土も、人の血肉もない交ぜになった瓦礫。
その瓦礫の中を、人形のように美しい顔に悲痛の色を浮かべて進んでいく。
コーラカルは、瓦礫の一つに横たわる人影を見止めた。
鶯の隊長、エフィが横たわっていた。
蜂に食い荒らされたのだろう、彼女の腹部からは内臓が覗いている。
コーラカルはきつく目を閉じ、彼女の亡骸の傍に跪いた。
「ああ、貴女様も――」
コーラカルの言葉は途中で遮られた。
亡骸だったはずのエフィが動きだし、コーラカルの足を掴んだのだ
コーラカルは目を見開いた。
「エフィ様……!」
「…ぁ……ぃ……」
エフィは口を動かし、何かを小さく囁いている。
コーラカルは身を乗り出し、エフィに顔を寄せた。
「こ、らかる……くん」
「はい、私です……」
「たの、む……助け、て……」
「残念ですが、もはやエフィ様は……」
「ちが、う……」
首を振るエフィの視線を追うと、その先には彼女の得物である銃が転がっていた。コーラカルは瞬時戸惑ったが、すぐに立ち上がって銃を拾うと、エフィの元へと戻った。
「ありが、とう」
エフィはそれだけ言うと、体をひねりうつ伏せになり、弾を確認して構えた。
深く呼吸し、息を止めた。
もう痛みすらも感じなかった。
もうすぐ自分が死ぬことをエフィは分かっていた。
思えば、私は何がしたかったんだろうか。
貴族として生まれ、何不自由なく育った。
周りにはそう見られていただろう。
でも私にとってその日々は苦痛だった。
あれを勉強しろ、これを習得しろ。
毎日毎日そうやって教養を押し付けられた。
いずれ他の貴族と結婚させられる下準備。
母の顔も父の顔も、思い出せない。
あの二人にとって私は道具でしかなかった。
愛などなかった。
そして私自身もそれを疑問に思わず、道具として感情を持たず育った。
それでも私が変われたのは。
ああそうだ、あの日だ。
侍女の一人がこっそりと連れて行ってくれた歌劇。
小汚い劇場、人もまばらで演技も素人に毛が生えたようなもの。
だが、その物語との出会いが私を変えた。
物語の主人公は貴族として、自分を押し殺して生きてきた。
それでも自分の愛のために戦い、最後に自由と愛をつかみ取る。
今にして思えばなんとも陳腐な物語。
だがその陳腐な物語が、私を変えてくれた。
自由も愛も、自分で掴み取るのだと学ばせてくれた。
だから私は、自分で何かをしたくて鶯に入った。
幸い、銃の扱いは狩猟趣味の貴族に嫁ぐために履修していた。
だから私は、鶯に即戦力として入れてもらえた。
自分を変えるため、歌劇の真似事をしても鶯の皆は笑ってくれた。
鶯の中で初めて、私は世界が広く、色とりどりなのだと知った。
だけど、私の主体性のなさは鶯には入っても変わらなかった。
シガールの言うことを聞き、それに従うだけ。
でも彼に従うのは嫌じゃなかった。
彼は誰よりも自由だったから。
そんな彼に副隊長を任せられたのは例えようも無く嬉しかった。
だが、彼は死んだ。
そして私は自身の無能を実感した。
仲間の死を止めることができなかった。
思い切った決断ができない。
みんなの顔色を伺ってぐずぐずと判断を先延ばしにする。
時間ばかりかけて凡庸な判断を下す。
そうして仲間が死んでいった。
向き合わずに逃げた家族の呪いか、自分で何も考えてこなかったツケなのか。
その代償を、私はあろうことか仲間に払わせてしまった。
そして今、私は何もできずに死んでいく、蟲に食われて死んでいく。
捨てられる道具のように、なんの抵抗できずに死んでいく。
それだけは嫌だ。
ひとつくらい、何かあってもいいだろう。
ひとつくらい、役に立ってもいいだろう。
ひとつくらい、皆のために何かをしたい。
ああ、神とは本当にいるのかもしれない。
こんな私に、最期にひとつ――。
銃声が響き渡り、はるか遠方の小さな影が地に落ちた。
「……お見事です」
コーラカルの口から出た言葉はエフィには届くことは無かった。
彼女は銃を抱えたまま、引き金に指をかけたまま、息を引き取った。
コーラカルはエフィの目を静かに閉じさせると、その美しい口を開いた
「ああ、貴女も先立たれてしまったのですね」
コーラカルは造られたように美しい声でそう言うと、目を閉じて彼女の死を悼んだ。コーラカルの顔に感情の色が浮かび上がった。美しい眉をゆがめ、一人の人間の死に悲しみを覚えていた。
僅かな風の音以外に何も聞こえない静寂の中、コーラカルはゆっくりと目を開き、歩き始めた。はるか遠方に居る、生き残った鶯たちの下へと、彼女は足を進めた。




