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スープ

「さ、何か食べよう。みんなお腹が空いただろう!」


 焚き火に戻ったエフィはそう言うと、荷を解いて何が残っているか確認した。袋の中に豆とジャガイモ、塩漬けの肉とハーブ類、調味料が残っていた。順調に進めば拠点に着くまでに十分な量があったが、それ以外に食材はなかった。他にあるものと言えば薄汚れた布や食器類、崩落した岩などを爆破するために持ってきていたマッチや火薬類くらいだった。


「マッチがあるから火は起こせるな」

「ではスープでも作ろうか」 

「それなら私が」


 マイが鍋を取り出して川から水を汲んできた。彼女は食材を切り分け鍋に放り込んで調理を始めた。薄暗い曇天の中でも煮炊きの火と匂いは精神的な安息をもたらしてくれた。


「皆、武器をくれ。壊れてないか確認するから」


 リュシオルが声をかけると鶯たちは各々の武器を彼に渡した。彼はひとつひとつに目を通し、時折分解しては掃除をしたり油を差したりを繰り返した。


「……う…ごほっ」

「大丈夫か」

「なにも心配いらないって…言ってるだろ……」

「本当か」

「本当だって、しつこいなアダン」

「なら笑えるだろ」


 リュシオルはわざとらしくため息をついてわざとらしく笑顔を作った。そのむりやり引きつらせた笑顔にアダンが「いい笑顔だ」と無表情で言うと、調理なべをかき混ぜていたマイが「できたよ」と声を挙げた。

 湯気の立つ鍋からスープがとりわけられ、全員に配られた。アカリがぱたぱたと走り回ってスプーンを配ると、全員が口をつけた。あたたかいスープが口から喉へ、喉から胃へと流れ落ちたが、全員の手が止まった。


「……美味しくない」


 アカリが小さく呟いた。確かに彼女の言う通りスープの味はイマイチだった。豆やジャガイモは硬く、塩漬けの肉からは塩味や旨みが抜け出てしまい、味が薄く感じられた。全員の視線が自分に集まっていることに気がついたアカリは、ハッとして顔をマイに向けた。


「ご、ごめんなさいお姉ちゃん……」

「い、いいって! 確かにちょっと……美味しくないね。も、もう少しお塩足して、煮込もうか……」


 調味をして煮込みなおしたスープが再び配られ、皆一度口をつけ始めたが、その行為は明らか『食事』ではなくなり、『栄養補給』になり下がっていた。初めよりは皆手を動かして口に運んではいたが、徐々にその動きも鈍くなってくる。


「あ、あはは……あの、ごめん……」


 マイが乾いた笑い声でそう言うと、皆ばつが悪そうに顔を伏せた。誰も口には出さなかったが、全員がグリレのことを思い出していた。

 彼が居なければ自分達はまともにスープすら作れないのだ。彼がこともなげにしていたことが、お礼を言うことも忘れるほど当たり前になっていたことが、『食事』というものがどれほど自分達の活力になっていたかを思い知らされた。


「ごめんなさいお姉ちゃん。わたし、そんなつもりじゃ……」


 涙声で言うアカリに、マイは力のない笑顔で答えた。それが精一杯だった。アカリとマイを慰めることもできないまま、鶯たちはスープの湯気を見つめていた。その時、コーラカルが静かに口を開いた。


「あたたまります」

「え……?」


 マイの方を向き、コーラカルは僅かに口の端を上げた。


「味はグリレ様のものには劣るかもしれません。ですが、とてもあたたまります」

「コーラカルさん……」

「いただきましょう、皆様」


 コーラカルに促がされ、鶯たちは少しずつスープを口に含んだ。おいしいとはいえない代物ではあったが、コーラカルの一言でその行為は『食事』へと昇華した。段々と食べる仕草は早まり、徐々に口数も増えていった。『食事』を終えた頃には、全員がわずかばかりだが精神の回復を実感していた。

 すっかり空になった鍋や皿をマイとアダン川べりに運ぼうと立ち上がると、コーラカルも「手伝います」と小さく声を発して立ち上がった。霧深い川で食器類を洗いながら、マイはコーラカルに話しかけた。


「あの、さっきはありがと」

「それはどういった意味でしょうか」

「どういったって……あたしのまずいスープ食べてくれてさ」

「とても美味しいものでしたよ」


 コーラカルがまた僅かに口の端を上げて言うと、アダンが話に割り込んできた。


「そうだな、二回目はまずまずだった」

「そう、かな」

「はい、マイ様のお陰で皆様が休息をとることができました」

「俺だったらもっとひどかっただろうしな」

「そう、そっか……ありがと」


 マイがはにかんで見せると、アダンとコーラカルは「笑ったな」「笑いましたね」と同時に言った。それを聞いたマイは思わず吹き出し、


「なに? あんた達なんか似てきてない?」


 と笑った。

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